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「樹」
すると親父が声をかけてくる。
「お前。本当にそんな相手いるのか?」
「そんなこと嘘ついてどうすんの」
「麻弥ちゃんだけじゃない。お前にこうやって結婚の話を持ち出したのは今まで何度だってある。だけどお前はその度断り続けてきたから言ってるんだ」
確かに親父はオレをもっと落ち着かせてちゃんとした人間にさせたかったからなのか、どういう意図があるのかわからないけど、これまでも何度か結婚話を持ちかけて来て。
だけどまだ若くて落ち着きたくなかったオレは適当に断り続けて来た。
「お前はいつまでそうやっているつもりだ。私が今こうなって会社もどうなるかわからないのに、お前はずっと腹もくくらず中途半端で。せめて一人の女性を結婚してしっかり守れるような男になったらどうだ。麻弥ちゃんはずっとお前を好きでいてくれて、きっとお前をずっと支えてくれるはずだ」
「親父こそ・・オレの言うこと全然信じようとしないんだな。結局親父はオレが自分の思うように動かないから気に食わないだけだろ」
結局親父はオレの気持ちなんて無視して決めつける。
オレの気持ちでさえも、オレの人生でさえも。
「私はお前のことを思って言ってるんだ」
「オレを思って・・・? 親父はオレより自分の会社を守りたいだけだろ。麻弥と結婚させて倒れそうになってるこの会社を若宮グループに救ってもらおうって魂胆?何、オレそんな理由でオレの気持ち無視して無理やり結婚させられるんだ?」
きっと親父は、どんな時も自分の思うようにしようとする人で。
そんな親父に昔から反抗しつつも、どこか仕方ないことだと諦めていたところもあった。
だから、多分オレは結局言われるがまま、親父の会社に入った。
だけど、会社では親父の息子だと誰にも言わないまま、オレはオレで頑張って来たつもりだった。
そう、今だって・・・。
だけど、ここまでしても親父はオレの気持ちなんて構わずに、オレのこの先の人生さえも決めようとする。
ただ自分の会社を守るためだけに。
オレの気持ちなんて考えもせずに。
「お前、それをなんで・・」
「社長。申し訳ありません。私が樹に伝えました。樹は今社長の代わりに会社を守っている立場です。今は樹次第で正直会社はどうにでもなります。だからこそ今、樹にこのままどう会社を守っていくか任せてみる時ではないでしょうか」
親父とオレが言い争いになりそうになるのを、すかさず神崎さんがフォローを入れてくれる。
「神崎・・・。そうか。まぁ今は会社のことはすべてお前に任せているからな。その上、樹を一人前に育ててもらうことまで任せてしまって、すまない」
「いえ。それは私の仕事ですから当然のことです。それに社長が思われている以上に樹はしっかりやっていますよ」
「しかし・・・樹の方こそ、そんなまた適当な理由で私の意見を聞こうともしない」
「社長・・・。本当にそう思いですか?」
「とは・・?」
「社長も今の樹を見ていて、明らかに昔の樹と変わったことお気づきのはずです。昔の樹なら、例え社長に何かあったとしても、ここまで自分の時間を犠牲にしてまで会社の為に、社長の為に尽くす男ではなかったはずです。それが今は社長代理として必死にこの会社を守る努力をしている。正直社長と同じように今の現状を維持させるのは、なかなか大変なことです。だけど樹はなんとかそれを頑張っています」
親父にここまで神崎さんが言ってくれて、オレは胸がいっぱいになる。
「樹の努力がなければもっとこの会社が危機に陥る時期が早まっているはずです。社長に私の報告だけでこうやって今安静にして頂けてるのは、樹の努力あってだと私は思っております」
「確かに・・。私が今静養出来てるのは、そういうことなのだと理解しているつもりだ」
親父、今ハッキリは言わなかったけど、オレの努力は認めてくれてるってこと・・?
「そして樹がそこまでの人物に変われた理由。それこそが一人の女性の存在です」
「神崎。お前はそんなことまで知っているのか?」
「はい。私はずっと成長していく樹をずっと見て来ましたから」
「なら。樹はその女性の影響でここまで変わったというのか?」
「ええ。樹が先程言ってたように、樹にとって今はその女性の存在がなくてはならない存在です」
神崎さんがそこまで伝えてくれたのを聞いて、親父がしばらく黙り込む。
「親父・・・。オレその人に出会ってホントに変わったんだ。どうしようもないオレを救ってくれて、今のオレにはどうしてもその人が必要なんだ。だから・・・オレは麻弥とは結婚出来ない」
親父が何を言ってもこの気持ちは絶対譲れない。