テラーノベル
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現実のないこ(闇ないこ)は、モニターの前で笑っていた。
完璧な編集。テンポの良いトーク。
ファンは歓喜し、SNSは沸いている。
この反応こそ、自分の“存在価値”であり、“支配の証”だ。
闇ないこ: これでいい……。
みんな、僕に気づかない限り、僕は完全だ。
けれど、あの日――鏡の奥で“目が合った”感覚が拭えない。
闇ないこ: ……本当に、“あいつ”だったのか?
記憶を封じ込め、人格を上書きし、
深層に沈めたはずの“本物のないこ”。
それが、もしまだ生きていたなら――
鏡の前に立つ。
闇ないこ: ……出てくる気配は、ないか。
そう呟いた時だった。
???(声だけ): それは、君が一番恐れているからだよ。
闇ないこ: ……誰だ。
???(笑い交じりに): もう名前も、顔も忘れた?
ずっと、君の“声”になりたかったのにね。
一瞬、空気が揺れる。
鏡が静かに震え、うっすらと誰かの影が浮かぶ。
その影――**冬心(とうみ)**は、少年のようで、けれどその目は老練な深さを宿していた。
冬心: 君が“ないこ”でいる限り、僕はずっとここにいる。
あの日、君が忘れた“痛み”の証として。
闇ないこ: 何を言ってる……僕は、ないこだ。
完璧な、望まれた、愛される“ないこ”なんだよ。
冬心: それは“表面”の話。
僕たちは、“深層”の君が葬ったもの――
つまり、“もう一人の君”だよ。
闇ないこの表情が、初めてぐらりと揺れる。
冬心: 君が気づかなかっただけ。
闇に沈められても、声は消えなかった。
その時、深層の空間にいる“ないこ”にも、冬心の声が届いていた。
ないこ: 君は……誰……?
冬心(深層): 初めまして、ないこ。
僕の名前は冬心。かつて、君が見捨てた心のかけら。
そして、もう一人――累(るい)もいる。
僕たちは、ずっとここで君の“本音”が戻るのを待っていた。
ないこ: 僕が……?
冬心: 君が“本当の君”を見失った時、僕たちは“意識”として分かれた。
でも、それは消えることじゃなかったんだ。
だから今こうして、声が届いている。
ないこの周りの深層が、少しずつ明るくなっていく。
冬心: 戻っておいで。
君が、“誰かのため”じゃなく、“自分のため”に笑える日まで。
ないこ: ……うん。僕、思い出すよ。
一つずつ、ちゃんと。
その言葉に、深層の空間がふっと揺れた。
同時に、鏡の中でもう一度――闇ないこと、深層のないこの視線が交錯する。
闇ないこ(怯えたように): やめろ……来るな……お前は消えたんだろ……!
だが、その声には確かな“恐怖”が滲んでいた。
次回:「第十一話:記憶の扉」へ続く。
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