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深層――
光も影もない空間に、一歩ずつ歩を進める“ないこ”。
ないこ: 冬心……君の言う通り、僕はきっと……忘れてた。
大事なことも、辛いことも、全部。
冬心は微笑む。その姿はどこか兄のように、静かで優しい。
冬心: 君が背負いきれなかった痛みは、僕たちが預かった。
だから今、君はもう一度それを“自分の目”で見て、受け止める必要がある。
ないこの前に、小さな扉が現れる。
古びた木の扉。そこから淡い光と、少しだけ黒い靄が漏れている。
ないこ: これが……“記憶”?
冬心: 開けるかどうかは、君が決める。
でも――もう“時間”はあまり残されていない。
ないこが扉に手をかけたその瞬間、深層の空間が揺れ、映像が広がる。
*
――場所は古びた控室。
まだ「ないこ」という名前すらなかった頃。
楽屋の片隅で、小さな男の子が声も出さず泣いていた。
???(少年): ……声、出したら……嫌われる……。
「笑ってればいい」って……そう言ってたじゃん……。
その子の背後に立っていたのは、別の少年――累だった。
累(少年): ……ないこ。
君の“本当の声”は、いつから出せなくなったの?
ないこ(過去): ……こわいんだ。
本音言ったら、誰もいなくなる気がして……。
累は何も言わずに、その子の隣に座った。
累: それでも、僕は消えないよ。
*
映像が切れた。
ないこ: 累……?
冬心(頷く): あれは、君が“声を閉じた日”の記憶。
あの時、君の心は二つに分かれた。
“みんなに好かれるための仮面”と、“本音を隠してしまった自分”。
ないこ: じゃあ……僕の“仮面”が、今の……“闇ないこ”?
冬心: そう。
そして、累はその時の“もう一つの君”を救おうとした存在。
けれど……彼もまた、深い場所に沈んでしまった。
ないこの胸が締め付けられる。
ないこ: 僕は……全部、自分で閉じ込めてたんだね……。
冬心、累、そして本当の僕自身も。
冬心: でも今、君はまた歩き出している。
だから――次は、「累」に会いに行こう。
ないこは、深く息を吸い、頷いた。
ないこ: うん。
僕が“ないこ”でいる意味を……ちゃんと取り戻すために。
*
一方その頃、現実世界。
闇ないこは、突如として頭を押さえ、苦悶していた。
闇ないこ: な、んだよ……これ……記憶が……
勝手に、戻ってくる……っ!
鏡の奥に、冬心とないこの姿が微かに映る。
闇ないこ: やめろ……やめろ……来るなぁあああああ!!
次の瞬間、鏡が割れる音が響いた――。
次回:「第十二話:累の眠る場所」へ続く