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今日はラジオの収録日。
何本か収録していく為、合間に休憩を挟むんだけど、そのラジオ収録の合間の休憩時間中、若井がイヤホンをしてぶつぶつ言いながら何かを聞いていたのが気になって、トントンと肩を叩いた。
「ん?…どうしたの?」
「何聞いてんの?」
「え、あー撮り溜めてる寝言。なんか面白いのあるかなって思って。」
「なにそれ、めっちゃ気になる。ぼくも聞きたい!」
「えぇー、おれも始めて聞くしどんなのが録音されてるか分かんないよ?」
若井曰く、たまに披露する面白い寝言は滅多にあるものじゃなくて、ほとんどが何言ってるか分からないものなんだそう。
だから、面白くないかもよ。と若井は言うけど、別にいいよ!と言って、ぼくは若井からイヤホンを片方取り上げると、耳に取り付けた。
「確かに…ほぼなに言ってるか分かんないね。」
しばらく聞いているけど、寝言を言ってない日もあれば、何か言ってるけど言葉になっていなくて、何を言ってるのか分からないのがほとんどだった。
若井の言うとおり面白くないなーと思い始めた頃、言葉が聞き取れる録音があった。
「あ、これめっちゃ喋ってない?」
「ほんとだ!」
ぼくと若井は、やっと来たか!と言う顔で聞き耳を立てた。
【んぅ…おれ…さ、 】
「ふふっ。なんかもう、おもろい。」
「ちょ、元貴静かにしてっ。」
【…もと、きの事…..すきぃ…..むにゃ。 】
まさかの言葉に沈黙が流れる。
「ちょっと若井ー…」
自分の耳を疑い、確認の為に隣を見ると、若井は口を抑え、顔を真っ赤にして、ぼくを見ていた。
そんな若井の様子が冗談なんかに持っていける雰囲気じゃなくてぼくは口を閉じる。
若井はぼくが、何か言うのを待っているのだろうけど、そんな顔見せられたら余計に何て言っていいのか分からなくて、終いには若井につられてぼくまで顔が熱くなってきた。
時間にしたら数秒しか経ってないんだろうけど、何分にも感じる…。
なにか、なにか言わなきゃ…。
「か、顔…真っ赤じゃん!」
冷静になれば、気の利いた事や気まずくならないような言葉を掛けれたんだろうけど、今のぼくは、そんな冷静な頭は持ち合わせていなくて、この言葉が精一杯だった。
「も…元貴こそっ。」
「それはっ…若井のせいで、、」
やっと口を開いたのに、また言葉が見つからず口を閉じる。
また沈黙が続き、気まずくてチラチラと若井の様子を見ると、何かを言おうとして言葉を飲むと言う行動を繰り返していて、この様子だと何も進まなそうな感じに痺れを切らしたぼくは、意を決して口を開いた…
「若井…これってさ、」
「ただいま〜!」
「「!!」」
「え、なに?!」
ところに、コンビニに行っていた涼ちゃんが元気よく帰ってきた。
タイミングが良いのか悪いのか分からないけど、部屋に漂うただならぬ空気感と、ぼくと若井の2人同時に目線を向けられた涼ちゃんは、気まずそうに後ろに一歩後退した。
「な、なんでもないよ!ねぇねぇ、なに買ってきたのー?」
若井は慌ててわざと明るくそう言うと、この空気を誤魔化すように涼ちゃんに駆け寄っていった。
若井の背中を見ながらぼくは苦笑する。
あーあ…あと少し。
あと少しでぼく達の恋が進みそうだったのにな。
-fin-