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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第86話 〚朝ごはんの席が、全てを語っていた〛
朝食会場は、
まだ少し眠気の残る空気だった。
トレーに並ぶのは、
焼き魚、卵焼き、サラダ、味噌汁。
そして、
なぜか一番早くなくなっていく
甘口カレー。
澪は、
何も考えずに席に座った。
右に、海翔。
左に、玲央。
自然すぎる配置だった。
誰かが指示したわけじゃない。
でも、
「ここに座るのが当たり前」
そんな空気が出来上がっていた。
澪はスプーンを持ちながら、
ふと気づく。
(……昨日も、こうだった)
前からも、
後ろからも、
視界に入るのは
安心できる顔ばかり。
海翔は、
澪のペースに合わせて
ゆっくり食べている。
玲央は、
カレーを一口食べて
「やっぱ甘いな」
と小さく笑った。
その向こう。
少し離れた席に、
真壁恒一。
真正面ではない。
隣でもない。
一番、話しかけづらい距離。
真壁は、
何度か澪の方を見た。
けれど、
視線が合う前に
必ず海翔が動く。
トレーを少し寄せる。
椅子を引く。
澪に何か小さく声をかける。
それだけで、
空気が閉じる。
(……まただ)
真壁の胸の奥に、
じわりと黒い感情が広がる。
(なんで、あいつが)
同じ会場の、
少し後ろ。
西園寺恒一も、
その光景を見ていた。
澪の隣。
海翔。
昨日から、
ずっと変わらない。
笑っていないのに、
近い。
触れていないのに、
誰も入れない。
(……ふざけるな)
西園寺は、
箸を強く握る。
二人の恒一は、
同じ感情に辿り着いていた。
「奪われている」
でも——
その認識だけが、
決定的に間違っていることに
まだ気づいていない。
澪は、
それに気づかないまま
カレーを一口食べて、
「……甘い」
と、小さく笑った。
その瞬間、
海翔と玲央も
同時に笑う。
ただの朝ごはん。
ただの席。
それなのに——
その配置は、
はっきりと線を引いていた。
守る側と、
入れない側。
そして、
その差は
もう誰の目にも
隠せなくなっていた。