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「詳しい事は佐野に教えてもらってね〜。じゃあ佐野、あとは頼んだぞ」
「はい」
そう言って佐野先輩はニコッと笑う。同僚達がコソコソと言う。
「めっちゃかっこよくない?」
「イケメンすぎる」
同僚達の言う通り、佐野先輩はかっこよかった。高校生の時より少し大人びていて、さらにかっこよくなっている。
(かっこいい…)
胸がドキドキしてあの頃の感覚が戻る。佐野先輩が高校を卒業してからも俺はまだ先輩が好きだった。夢にも何度も出てきた。忘れようとしても忘れられなかった。
でも、まさか再開するなんて思っていなかったから今頭の整理が出来ていない。先輩から目が離せない。そんな俺を先輩はちらっと見る。たが、すぐに目を逸らした。
(気づいてない…?)
「まず席なんだけど…」
そう言って先輩は歩き出す。先輩がさっき座っていた席の前につくと、先輩は指を指しながら言う。
「俺の席がここなんだけど、向かいが小野さんでその隣が神崎さん。俺の隣がはる…柳くんね」
そう言って先輩はニコっと笑う。
(今、春人って言いかけた?やっぱり気づいてる…?)
「最初は研修だから話ばっかりかな。つまんないかもしれないけど大事なことだからしっかり聞いてね」
そう言って先輩がニコっと笑うと、同僚達は照れたような声で返事をした。
その後自己紹介をし研修を受け、昼休憩の時間になる。
「一旦休憩ね。13時までだからそれまでにまたここに戻って来てね。弁当あるなら食べて、ないなら外で食べてきて大丈夫だからね」
それを聞いて同僚達が返事をし、部屋を出ていく。新入社員は俺を含めて3人。ほか二人は女性で自然と仲良くしていて俺だけ孤立してしまった。部屋には俺と冬馬先輩だけが残る。そして、冬馬先輩がドアノブに触れようとした時、俺は慌てて言う。
「冬馬先輩」
俺のその呼びかけで先輩は手を下に下ろす。
「なに?」
そう言って先輩は振り向いた。
「えっと…俺の事、覚えてますか?」
少し沈黙が走った後、先輩は言う。
「…覚えてるよ。春人くん」
「良かった。忘れられたかと思っちゃいました」
「…忘れるわけないじゃん」
先輩は小さい声でそう言う。
「え?」
「俺、春人くんのこと好きだから。忘れないよ」
心臓がドクンと跳ねる。俺はあんなに酷いことを言ったのに。卒業の日、ちゃんとさよならも出来なかったのに。先輩はまだ俺の事を好きでいてくれた。
「…すみませんでした。あの頃は先輩に失礼な態度取って」
「いいよ。昔のことなんて。それよりその”冬馬先輩”って呼び方やめなよ」
「え?」
「春人くん、人目気にしてるでしょ。だったら佐野さんって呼びなよ。俺も柳くんって呼ぶから」
そう言って先輩はドアノブに手をかける。俺は先輩を止めようとしたけど、体が動かなかった。先輩はそのまま部屋を出ていった。
誰もいない部屋にただは一人残される。すぐに否定すればよかったのにそれが出来なかった。そして気付いた。
俺はあの頃”先輩のため”って思ってたけど、本当は自分の人目も気にしていたのかもしれない。
俺はため息をついた後、部屋を出た。
そして金曜日の仕事終わり、居酒屋で新入社員歓迎会が開かれた。
「新入社員の入社を祝って〜、かんぱーい!」
社員の乾杯の音頭の後、みんなで乾杯をする。挨拶などが終わり、先輩達との仲も深まってきた頃、ふと小野さんが冬馬先輩の同期の尾崎先輩に聞く。
「あの、冬馬先輩ってやっぱりモテるんですか?」
小野さんはそう言って少し遠くで飲んでいる冬馬先輩をちらっと見る。
「そりゃあモテるよ。激モテ」
そう言う尾崎さんに小野さんの隣で飲んでいた神崎さんが小さい声で聞く。
「じゃあやっぱり、彼女とかっているんですかね」
「いや。あいつ遊び人だから彼女とか作らないんだよね」
(遊び人…?)
そんなわけ無い。高校生の頃はそんな素振りまったく無かったし、第一冬馬先輩が遊び人なんてありえない。
そう思っていると、神崎さんが不思議そうに言う。
「遊び人ですか?」
「そう。付き合わないけど、告られたは人とは一緒に寝たりするみたい。まぁ、断った上でだし、相手もその事わかっててやってるんだけどね」
「へぇ〜…」
「あ、ちなみに冬馬は男もいけるから柳くんも気をつけてね」
「え?」
「冬馬から声かける時もあるんだけど、大体それが男なんだよね。なんか、高校生の頃に色々あったみたいで」
そう言って尾崎さんは冬馬先輩の方を見る。
「そうなんですね」
そう言って俺も冬馬先輩の方を見ると、視線を感じたのか冬馬先輩もこっちを見る。
俺と尾崎さんが不意に顔を背けると、冬馬先輩は立ち上がり、こっちに近づいて来る。
「何。雄馬。俺の話?」
そう聞かれた尾崎さんは気まずそうな顔をした後、口を開く。
「新入社員たちに忠告しといたんだよ。お前のこと」
「そりゃどうも」
冬馬先輩は尾崎さんの方を見ながらそう言った後、俺達の方を見る。
「安心して。手出すつもりないから」
そう言って冬馬先輩はニコっと笑う。
「柳くん。隣、いい?」
そう言って冬馬先輩は俺の隣の空席を指差す。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう」
そう言った後、冬馬先輩は嬉しそうに隣に座る。そんな冬馬先輩を見て、尾崎さんが言う。
「あ。もしかして柳くんの事狙ってる?」
「違うよ〜。高校同じだったから親近感湧いただけ」
冬馬のその言葉に尾崎さんは驚いた表情を浮かべる。
「ちょっ、柳くん。冬馬って高校でどんな感じだったの?」
「えっ…」
「高校の時から結構荒れてた感じ?」
「いや。見るからにイケメンで、優しくて一途でしたよ」
「へぇ〜、一途ね。結構詳しいんだ。もしかして仲良かった?」
「まぁ…少しですけど」
俺がそう言うと、尾崎さんは残念そうに言う。
「少しか〜。仲良しだったら高校の頃何があったか詳しく聞けると思ったのにな〜。なんか知ってる?」
「いや…ちょっと分かんないですね。すみません」
「そっか〜。残念」
そしてその後、しばらく飲んだ後歓迎会はお開きになった。二次会に行く人もいるみたいだが、俺は疲れたので帰ることにした。
席を立とうとすると、尾崎さんが言う。
「あ、ちょっと柳くん。冬馬の事起こしてあげて。俺こいつの世話しなきゃいけなくて」
そう言って尾崎さんは酔っ払った様子の社員を指差す。
「あぁ、はい。分かりました」
俺はそう言って机に突っ伏して寝てしまっている冬馬先輩の体を揺する。
「佐野さん、起きてください。お開きですよ」
俺がそう言うと、佐野さんは眠そうな目で言う。
「動きたくない…春人くん、家まで送って?」
「えっ…」
(春人くんって呼んでるし、絶対酔ってるよね…ここに置いてくわけにも行かないし…)
「分かりました。じゃあ行きますよ」
そう言って立ち上がろうとする俺の袖を冬馬先輩はぎゅっと掴む。
「どうしました?」
「おんぶして…?」
つぶらな瞳でそう言う先輩に俺は黙ってしゃがみながら背中を向ける。
「乗ってください」
俺がそう言うと、先輩は俺の背中に乗る。そんな先輩を俺は背負った。
先輩に道を聞きながら夜道を歩く。先輩の家について先輩を下ろそうと先輩の足から手を離したが、先輩は降りてくれない。
「佐野さん。ついたので降りてください」
「ベットまで運んで」
「…分かりました」
俺は先輩を背負い直し、部屋を開ける。ベットの前に着くと、俺は先輩をベットに下ろそうとする。しかし、先輩を下ろすのと同時に不意に手を掴まれた。
「わっ」
そしてそのまま、俺はベットの上に倒れた。俺の上には先輩がまたがっている。
(え?何?なんでこんな事に?)
先輩は困惑している俺の目をまっすぐ見た。
「バカだね。春人くん」
「え?」
「俺の事雄馬から色々聞いただろうに簡単に俺の家に来ちゃうなんて」
そう言って先輩はニヤッと笑った。
起き上がろうとしたものの、先輩は俺の手を強く掴んだまま離してくれない。酔ってるとは思えない、強い力だ。いや多分、冬馬さんは酔ってなんかない。
「佐野さん。離してください」
「冬馬って呼んでよ。俺の前だけでいいからさ」
「…冬馬さん。酔ったふりしてたんですか?」
「そうだよ。本当は春人くんの事酔わせて持ち帰ろうとしてたんだけど、春人くん全然酔ってくれないから」
冬馬さんは拗ねたような顔でそう言う。
それはなんかすみません。でも冬馬さん、俺達には手出さないって言ってましたよね」
「それは他の二人に向かって言ったんだよ。それ言った時、春人くんと目合わせてないでしょ?」
(たしかに目は合ってない…)
「あのでも俺、そういう事する気なくて…」
「俺がなんで遊び人なんかになったか知ってる?」
「えっ…高校の頃に色々あったって尾崎さんが」
「そう。じゃあその″色々″ってなんだろうね?」
冬馬さんはそう言って俺の目をじっと見る。
「えっと…俺と付き合ってるって噂が流れたり、冬馬さんがゲイだって言われたり…ですか?」
「それは別にそんなに嫌じゃなかったよ。いちいち気にしてたらきりないし。俺が1番嫌だったのは、その事で春人くんが俺から離れた事だよ」
そう言って冬馬さんは悲しそうな顔をする。そんな冬馬さんを見て、俺は何も言えずにただ冬馬さんを見ていた。
そんな時冬馬さんは、ぼそっと呟いた。
「…春人くんなら俺といてくれるって信じてたのに。だからもう、誰も信じたくなくなったの」
そう言った後、冬馬さんは俺の顔に自分の顔を近づける。なんとなくキスをされると思い、俺は顔を背ける。
「…逃げないでよ」
「…ごめんなさい。悪いと思ってます。でも、だからって腹いせにこんな事されるのは俺も嫌です」
「腹いせじゃないよ。俺は本気で春人くんのことが好きだよ」
(本気で…好き?)
俺は再び冬馬さんの顔をまっすぐ見る。
「それって、恋愛的な意味で好きって事ですか?」
「そうだよ。高校生の時からずっと」
(じゃあ、今までの好きは全部…)
「でも俺は、別に春人くんとどうなりたいとかなかったよ。ただ一緒にいられればそれで良かったのに。なんで卒業式の日、ちゃんとさよならもしてくれなかったの…?」
黙って聞いていた俺の頬に冬馬さんの涙が落ちる。
その瞬間、俺の心は罪悪感に包まれる。
俺がちゃんと冬馬さんの気持ちに気づいていれば。俺の気持ちを冬馬さんに伝えていれば。俺があんな風に冬馬さんを突き放さなければ。
(全部俺のせいだ…)
だから、俺がちゃんと責任を取らなきゃいけないんだ。このまま身を委ねたら、俺は冬馬さんに抱かれる。それはそれでいいのかもしれない。俺のせいだから。でも俺は、無理やり抱かれるくらいなら、ちゃんと気持ちを伝えて、俺が抱いてあげたい。
「冬馬さん」
俺が名前を呼ぶと、冬馬さんは俺の目をまっすぐ見つめる。そんな冬馬さんのネクタイをいつの間にか離されていた手で引っ張り、俺は冬馬さんの口にキスをした。
口が離れた後、驚いた様子の冬馬さんの腕を絡め取り、下から押し上げる。その反動で回転し、冬馬さんの上に俺がまたがる。
「…春人くん?」
不思議そうな顔でそう言う冬馬さんの口に俺は再びキスをした。
「すみません。寂しい思いさせちゃって」
俺はそういった後、冬馬さんの涙を拭う。
「俺も高校生の頃からずっと冬馬さんが好きですよ」