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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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雨のように降り注ぐ血煙と、焦げた肉のような匂いが漂うFORSAKENの領域。
その惨状の只中で、ヴァニティは包丁(クレーバーナイフ)の背を使い、トン、トンと自らの赤い野球帽のつばを静かに叩いていた。
「……逃げたね。ボクの可愛い残飯ちゃん」
朱色の唇が、嬉しそうに歪んだ。
先ほどのチェイスで、サバイバーの男は必死に障害物を使い、どうにかヴァニティの追跡を振り切って暗闇へと消えていた。
普通なら、キラー側の失敗。
けれど――ヴァニティにとっては違う。
「ふふ……まだまだ。これは失敗じゃないよ」
彼女は愛用の包丁を肩に担ぎ、楽しそうに歩き出した。
「一度傷つけて、逃げる余裕をあげる。安心したところで、もう一度恐怖を味わってもらう……」
クスリ、と笑う。
「うん。完璧な仕込みだね」
ヴァニティは地面に残された血痕を見つけると、それを辿るように進んでいった。
薄暗い廃屋。
崩れかけた壁。
そして、積み上げられた古い樽。
その裏から、かすかな息遣いが聞こえてくる。
ヴァニティには、それだけで十分だった。
「……見つけた」
樽の向こうでは、男が胸元を押さえながら必死に呼吸を整えていた。
助かった。
そう思っていた。
しかし、その安堵こそが――ヴァニティにとって何よりも楽しい瞬間だった。
「ん?」
ゆっくりと樽の上から顔を覗かせる。
長い黒髪が、男の視界へとさらりと垂れ下がった。
「そんなところで休んでたの?」
「ひっ……!」
「ダメだよ。料理だって、冷たいままじゃ本来の味が出ないんだから」
「た、頼む……! もうやめてくれ!」
男が慌てて立ち上がり、再び逃げようとする。
しかし――
ヒュッ。
ヴァニティの包丁が一閃した。
男はバランスを崩し、その場に倒れ込む。
「ほらほら、急に走ったら危ないよ」
ヴァニティは困ったように笑いながら、ゆっくりと近づいていく。
「ボクはね、命を無駄にするのが嫌いなんだ」
しゃがみ込み、男の顔を覗き込む。
その瞳に浮かんでいるのは、まるで大切な食材を見つめる料理人のような優しさだった。
「一度逃げ延びて、助かったと思わせる」
ヴァニティは指先で包丁の刃を撫でる。
「そして、その希望がもう一度消えていく」
にっこりと微笑む。
「その瞬間が、一番きれいなんだよ」
男は声を震わせる。
「……何なんだ、お前……」
「ボク?」
ヴァニティは首を傾げた。
そして、心底嬉しそうに笑った。
「ただの料理人だよ」
包丁を構える。
「フォークもナイフも必要ない」
その刃先が、静かに男へ向けられる。
「ボクの愛情で、ちゃんと最後まで仕上げてあげる」
ヴァニティの笑顔が深くなる。
「……スペクター様も、きっと喜んでくださるよ」
廃屋の中に、彼女の楽しそうな笑い声が響いた。
そして――
まるで厨房の最後の一皿を仕上げるように。
ヴァニティは、静かに包丁を振り上げた。