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終わった。『ずいぶんと、動きが良くなったね。』

レインが、隣にいた。

『助かったよ、ありがとう。』

怪しい奴だけど、見惚れてしまうほど強くて、美しい戦い方だった。

だけど、

あの男たちが、いない。

逃げたのか。

茜さんも、いない。

『きゃあぁぁぁぁ‼︎』

今のは‼︎

茜さんの悲鳴。

奥に、扉があった。

『追いかけようか。』

レインについていく。

『大丈夫か、琥珀。』

琥珀さんも、肩に深い傷を負っていた。

『だい、じょうぶ…』

痛そうだ。

でも、今は、

時間がない。

早く、行かないと。

そして、

倒れている茜さんを見つけた。

『銅様、』

『いい。さぁ、行ってあげるといいよ。』

レインが、リンネの言葉を遮った。

僕は茜さんのところまで走る。

そして、抱き抱える。

『茜!もう、大丈夫だ。怪我はない?』

茜さんは、こちらを見た。

虚な目をしている。

『あま、ちゃん…』

声も、弱々しい。

でも、無事だった。

『さぁ、帰ろう?』

『・・・』

茜さんは、黙ってしまった。

『大丈夫、ゆっくり休んでて。僕が、連れて帰るから、さ。』

僕は、笑顔で言った。

手を差し出した。

『…………ころ、して…』

『え…』

聞き間違いだろうか。

『甘ちゃん…ころして…』

『何を、言ってるんだよ…』

予想なんて、絶対しない言葉が、聞こえた。

ありえない。

耳を疑った。

でも、

『お願い、ころして…』

聞きたくない言葉が、茜さんの口から聞こえる…

『嫌に、決まってるだろ…』

そんなこと、何があろうともしたくない。

『茜ちゃん!』

琥珀さんも、悲しんでいた。

『私が、誰かを傷つける前に……ころ…してぇ…』

なんだよ、それ…

『傷つける必要なんて…』

『薬、打たれたの……もう、おかしくなってきたの…』

『っ!』

嘘だ…

嘘だろ?

なぁ、

誰か、

嘘だと言ってくれ…

『絶対、助けるから…』

方法なんて、わからない。

でも、諦めたくない。

『治す方法は、ないよ。』

レインが言った。

っ!

『ないわけ、ないよ‼︎』

必ず、あるはずなんだ。

僕は、そこら辺にある本を見た。

ない、ない、

ない、ない、ない、

『治す方法は、ありません。』

リンネが、僕を止めた。

『やめてくれ、邪魔をしないでくれ!』

振り払う。

だけど、見つけられない。

見つからない。

『ううっ…ああっ!』

茜さんが、苦しんでいた。

せっかく、助けを求めてくれてたのに、

何も、できなかった。

『嫌だ、嫌だよ…こんなのっ!』

何もしてやれない自分が、情けない。

情けなさすぎるよ…

『早く、っ…おねっ、がい…あああっ!』

茜さんが、苦しんでいる。

僕は、そんな茜さんを抱きしめた。

『大丈夫、大丈夫だから…』

必死に、落ち着かせようとした。

でも、変わらない。

『君がしないなら、僕がするよ?』

『やめろ!絶対に、死なせない!』

でも、どうすることもできない。

『それは、苦しめるだけだと思うよ。』

っ!

わかってる。

わかってるけど、

嫌なんだ。

傷つけることが、

諦めることが、

離れてしまうことが、

茜さんが、僕の手を握った。

『お願い…』

『ううっ…』

茜さんとの思い出を、思い出した。

思い出してしまった。

『甘ちゃんが…いいなぁ…』

『嫌だ…嫌だよ…』

そんなの…

『ううっ!はや、く!』

『・・・』

楽しかった。

幸せだった。

『楽しかったよ。幸せだったよ。』

『うん…』

琥珀さんもだけど、

『大好きだったよ。』

浮気だと言われてもいい。

『ずっと、忘れない!』

こんな日々を送らせてくれて、

『ありがとう!』

ナイフを、頭上まで上げる。

涙が溢れた。

『ゆっくり、おやすみ…』

振り下ろす…

ぐさり。

茜さんの胸に、ナイフが刺さった。

茜さんの胸から、口から、赤が…

『あり…が…とう…』

茜さんも、涙を流していた。

茜さんの手が、僕と琥珀さんの頭に乗せられた。

『たのし…かった……しあわせ…だった……』

本当に、楽しめただろうか…

本当に、幸せになれただろうか…

『だいすき…だよ……あま…ちゃん…こはく……ちゃん……………………』

茜さんの目が、ゆっくり閉じていく。

茜さんの手が、落ちていく。

僕は、優しく掴んだ。

その手に、力はなく、

だんだん冷たくなっていくのがわかった。

『大変だったね、お疲れ様、茜ちゃん…』

琥珀さんが、茜さんの頭を撫でた。

琥珀さんの涙が茜さんの頬に落ちた。

僕も、涙が溢れた。

一つの、大事な命が、終わったのだ。

僕の手で、苦しみながら、こんな最期を迎えさせてしまった。

僕のせいで、こんなに早く、迎えさせてしまったんだ。

もう、取り戻せない。

もう、戻ってはこない。

『どうか、お幸せに…』

そう、願ってる。

それくらいしか、できなかった…

『あっ…うぐっ…うああああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

僕は、叫んだ。

もう、どうしたらいいのかわからない。

ただ、どうすることもできない後悔が、僕を苦しめた。


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