海からさほど離れていないところにあったホテルにトラゾーを抱えて入る。
偶然にも一室空いていたようで泊まることができた。
所謂、”そういう”場所だ。
入った部屋は普通の感じで。
ただ、ベッドの傍らに造花であろう紫色と赤色のそれが変に目立っていた。
「トラゾー、とりあえずお風呂入ってきな」
俺よりも冷えた体。
痩せて、軽くなった体は冷たい。
「……」
「トラゾー?」
濡れた服の袖を引かれる。
「トラゾー…?」
「……一緒がいいです」
俯いていてその表情は見えない。
ただ、濡れた黒髪から覗く耳は真っ赤に染まっていた。
「、…意味、分かって言ってるの」
「分かって、ます…」
ふわりと甘いけど爽やかな匂い。
オレンジのようなトラゾーのフェロモン。
「クロノアさん、我慢しないって、言ってました。…だから、……その、」
匂いに充てられて、思考が鈍りだす。
目の前の、何よりも大切で、愛おしい存在で、俺の運命の番を、
─────孕ませないと。
自分から出る抑えきれないフェロモンに充てられたトラゾーは大きく目を見開いてその場に座り込んだ。
「…トラゾー」
びくりと薄くなった肩が跳ねる。
思ったよりも低い声で名前を呼んでしまった。
「ゃ、です…その、声、だめ…ッ」
「感じる?」
耳の形に沿うようにして自身の唇を当てて囁く。
「ひゃっ…!」
「可愛い」
トラゾーを立たせて、浴室の戸を開ける。
少し熱めのお湯にしてシャワーをトラゾーにかけた。
「わ、ちょっ…」
お湯のせいで服がまた濡れる。
けど、そんなこと厭わない。
ただ目の前にいる番を愛さなければ。
「く、クロノア…さ、っ」
「服が肌に張り付いて、エロいね」
「っっ⁈」
「細くなっちゃって、」
腰回りを撫でるとびくりと身体が跳ねた。
「ひ、ぁ…」
「……俺の、トラゾー」
纏わりつく服を脱がせて、タイルに放り投げる。
「ゃです…」
薄れた傷跡。
それを撫でると、手を取られた。
「ちゃ、ちゃんと、触ってください…っ」
「ふっ、トラゾー」
涙目で俺を見上げるトラゾーは自分が何をしてるのか分かってない。
Ωとしてではなくて、純粋に素でこういう風に人を煽ることをする。
「そんなに俺に触ってほしい?」
実際、俺自身も限界ではあるけど、どうにも目の前の可愛い番を苛めたいという感情も湧き上がっていた。
「ん、ぁっ」
背骨や腰回りを撫でたり、尾骨を押したりした。
「はぅ…⁈」
「可愛いすぎだろ、こんだけで感じて」
「あ、あなた、だから…っ、ぁうン…!」
「そういうの、煽るだけだからね?」
濡れて目に当たる髪が鬱陶しくて掻き上げる。
「今、俺はトラゾーのこと孕ませようとしてる。それはわかるよね?」
顔を逸らしてこくりと小さく頷く。
そういうとこも煽る材料にしかならないのに、きちんと教え込まないと。
「俺が、ずっと手加減してたのも、わかる?」
「…え、」
「俺が本気出したら、トラゾー多分すぐ気絶しちゃうから」
伝う水滴をなぞるようにして肌を撫でる。
「俺のせいとは言え、いっぱい我慢させて、こんな傷をつけちゃった責任はきちんととらないとね?」
自分の服も脱いで投げ捨てる。
「宣言通り、我慢しないからちゃんと受け止めてね」
お腹を撫でると一層、顔を赤くして俯いてしまった。
真っ赤に染まる項には俺の噛み跡。
それを見てぞくりと背筋が震えた。
俺だけのもの。
俺だけの可愛い番。
俺だけのトラゾー。
首筋に噛み付く。
「ぅひゃっ」
犬歯を肌に突き立て、自分のものという証を残す。
口を離すと噛み跡と血がうっすら滲んでいた。
「俺の、もの」
「ぁ、っ…」
反応しているソコに手を伸ばすと、身体を大きく跳ねさせた。
「ひ、んァ、っ⁈」
「痛みでも感じるんだ。……えっちな身体だね?トラゾー」
「ぃ、じわる…ですっ」
浴槽に座らせて、そのまま口に含む。
「ん、ぁああ⁈」
「ほら、」
「ゃだっ、ひぁあ…」
頭を押さえられて離されようとする。
俺はトラゾーの細くなった腰を掴んで、更に深く咥える。
浴槽から落ちないようにしながら。
「ぁ、も…っ、っんぅう…!」
「、は」
濃いソレ。
こくりと飲み込んだ。
「なっ、ば、バカバカ!何、飲んでるん、ですか!」
涙目で睨みつけるトラゾーに笑いかける。
「ごちそーさま」
「っっ〜!!」
トラゾーは力の抜けた格好のまま、俺を壁に押した。
「?、トラゾー?」
「お、れだって…」
震えながら俺のズボンに手をかけて、前を寛げた。
「わ、…」
「……反応しない方がおかしいでしょ」
「よかった…」
そう言って小さく口を開けて、咥えた。
「っ、!」
「ふ…っ、んぅ」
させたことはない。
強要するようなことはしたくなかったから。
決して上手とは言えないけど、その辿々しさにじわじわと優越感を感じていた。
それは誰ともしたことがないという証拠であるから。
「は、っ…ぅ、ん…っ」
必死になる姿が可愛くていじらしい。
頭を撫でてあげると、へにゃっと眉を下げて喜んでいる。
支配欲、加護欲。
優しくしたい、苛めたい。
甘やかしたい、啼かせたい、もっと俺を感じさせたい。
渦巻く感情が溢れ出ないように、ふっと息をひとつ吐いた。
「トラゾー、口離して」
そう言うと首を横に振った。
「く、ろのあ、ひゃ…ん、おれ、がへた、らから…?」
「違うよ。トラゾーのナカに出したいから」
「⁈」
「孕ませるつもりなんだよ、トラゾーのこと」
腕を引っ張って壁に押し付ける。
「く、ろの…あ、さん…」
「首に手、回して?」
トラゾーは素直に手を回す。
「ん、いい子だね」
足を持ち上げて、既に俺を受け入れようとするソコに自身を充てがう。
「ぁ、つ…」
「柔らかいね、」
きっと孕めるように、おりてきている。
「久々だから、痛いかもしれない。…でも、やめてはあげないからね」
「ぃい、です…おれ、うれしぃ…っ」
ちゅっとトラゾーが軽く俺にキスをした。
それを合図にナカヘ入った。
「ひ、っ、ぁあぁあッ」
ぎゅっと首に回された腕に力が込められ、身体が密着する。
「可愛い」
「ひぅ⁈、や、ダ、こえ、ぃやら…っ!」
「やじゃないだろ?」
グッともっと深いトコロを突くとびくっと腰が揺れた。
「ぁ、んぅうっ、!」
項を撫でると更に身体が跳ねた。
「トラゾー、弱いトコばっかだね」
「ふぁ、っう、んン!」
俺の前だけ。
俺にだけ見せてくれる、この姿。
だから、あのαの男は許さない。
少しでも俺のものに触ったあいつは。
あのαのことを思い出してしまった苛立ちと自分自身に対する憤りが行動に出てしまったようで、びくんとトラゾーの腰が震えた。
「ひっ、ん、あぁあ⁈」
甲高い声を上げてしがみつく俺の番に口角が上がっていく。
「ゃ、ら!くろのあッ、さん、わる、いかお…、かお、らめ、ぇ…っ!」
「えぇ?トラゾーは溶けた顔してるね。可愛い、めちゃくちゃ可愛いよ」
「きゃ、ぅ…⁈」
おりてきた子宮口を抜いたっぽい。
「は、っう、ぁ…?」
「トラゾー、俺の、受け止めてね?」
口を塞いで深くキスをする。
「んンぅ、ふっ、!」
さっきと同じように辿々しく控えめに舌を出してくるところも可愛いくて、愛おしい。
「ふ、ぁ⁈」
「トラゾー、…マジで孕ませるまで、抜かないから」
「ひ、なン、おっき…⁈」
αの本能が働いている。
目の前のΩが孕むまで抜けないように。
Ωに子宮があるように、αはΩが孕むまで抜けないような体の作りになっている。
「嬉しいこと言ってくれるね?」
「ひゃ、う!!、まっれ…ま、へッ!くろにょ、あ、ひゃ…むり、くるひ、ぃッ」
「俺のでいっぱいになってるんだよ」
「ぁ、ンう⁈も、ぉおきく、しないれぇ…っ」
イヤイヤする度に黒髪から水滴が落ちる。
緑の瞳も涙で潤んで綺麗だ。
「、ぅぁあぁ…っ」
壁にかかる鏡に映る俺の目は瞳孔が開いていた。
それだけ、興奮してるのだろう。
こんだけ目の前で自分だけの番が乱れてたら、当たり前の反応だけど。
「ほら、トラゾー、一回出すからちゃんと溢さず、奥で受け止めてね?」
「は、ぃ…っ」
自身がトラゾーのナカで震える。
かなりの量が出てるのも分かった。
「お互い、我慢してたからね」
涙の伝うほっぺにキスをする。
「は、っ、ん…ぁ…」
「でも、まだ足りない」
体を反転させて壁に手をつかせた。
「?、くろのぁ、さン、…?」
「ほら、まだ抜けないのはそう言うことだから、ね?」
冷えた体はとっくに熱をもっていて寧ろ暑い。
コックを捻って、ぬるま湯にする。
「ぁう、っ」
それにさえ反応するトラゾーの少し膨れたお腹を押さえた。
「に゛ゃぁ⁈」
「まだまだ注いであげるから。トラゾー、俺のでいっぱいにしてやるからね」
トラゾーは目を細めて小さく頷いた。
「、おれ、のなか、くろのあさんで、いっぱいに、してくださぃ…」
すごく嬉しいと言わんばかりに笑顔を浮かべるトラゾー。
花が咲き誇ったようなその微笑みにつられて俺も優しく笑った。
───────────
ふと目が覚める。
痛む体を無理矢理動かして隣を見ると超絶イケメン猫が俺を見ていた。
「!!び、っくりした…」
「起きた?体、大丈夫?」
試みようとしたけど、もうこれ以上は動けない。
「まさか、ずっと見てたんですか…?」
「うん」
「、…飽きるでしょ」
「全然?可愛いなーって見てたよ」
さっきの人とは同じ人物とは思えないくらい柔和な笑みを浮かべている。
「…クロノアさん」
「うん?」
ベッド脇のチェストに置いていた水を取ろうとしていた俺の番に声をかける。
手を止めて俺を優しく見るクロノアさん。
嬉しい気持ちや言い表せないくらいの感情が胸を占めていく。
「大好きです」
だから、自然と声になって言葉が出ていく。
「っ」
「誰よりも、愛してます」
やっと言えた。
全部の気持ちを込めて、俺の運命の番に。
「俺も愛してるよ、誰よりも」
そう返事をされて、左手を取られる。
「トラゾー」
「はい」
「俺と結婚して」
「!」
噛まれた薬指にキスを落とされた。
「…返事は?」
デジャブのようだ。
「そん、ッな、の…きまってます…っ」
絡められたクロノアさんの手を握りしめる。
「死ぬまで一緒にいて。…俺と結婚してください」
「はぃ…ッ」
答えは一つしかない。
それだけしか持ち合わせていない。
止まらない涙を拭ってくれる人は、今、ちゃんと傍に。
紫…悲しみを超えた愛
赤…変わらぬ愛
コメント
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いやスゴすぎます最高です やば…♡(褒めてます、語彙力低下しただけです) ほんとポン酢さんの作品最高です! ほんとは2つ前の話からコメントをつけるつもりが…(WiFi環境を恨む(´◉ᾥ◉`)) でもほんとに最高でちゃんと見てます!