「ばぁーい!!」
「ばいばい!」
クリスマス撮影が終わった。ケーキを食べたりプレゼントを開けたり(もちろんくだらないやつだが)、クリスマスっぽいことは一通りやったと思う。
さんざん広げたお菓子とかお皿とかを片付けて、今日の集まりは終了だ。残りはスタッフがやってくれるんだろうけれど。騒ぎ疲れたおじさんたちは各自帰宅する準備をしている。少し早めに切り上げてほしいと事前に言ってあったのは良かったかもしれない。
「クソ眠いわ」
いつも昼過ぎに起きるきっくんが、あくびをしながらそう言った。昼まで寝てたくせに。他のメンバーも、眠そうにしながら玄関に向かう。本来なら家に帰ってすぐ寝たいところだ。少なからず疲れてはいるからな。でも俺にはまだ楽しみが残っていた。
家に帰って荷物を置き、また駅に向かう。撮影の時の服装とは違い、シックなコートで決めてみた。別にそんなことを気にする相手じゃないのはわかってるけど、俺の気分の問題。クリスマスだからどこに行ってもやはり混んでいて、夜中にも関わらず駅には人だかりができていた。
…ブーッとポケットに入れてあるスマホが振動した。画面を見ると、『もうすぐ着く』のポップアップ。俺は『わかった』と返して、『駅混んでるよ』と付け加える。
こんな人混み、あいつは嫌がるだろうな…
数分して、見慣れた姿が遠くから近づいてくるのが見えた。
「お前、早くない?」
寒そうに肩を縮こまらせながら人混みを縫って改札を通る。見失わないようにと俺もその後に続く。
「早く来ないとのんびり屋さんって言うだろ」
「まぁ…ねぇ」
でも本当の理由はそうじゃない。楽しみだったから。こいつと特別な日に出かけられるって思ったらいつもより早く家を出ていたんだ。こんなこと、ウザがられるから言わないでおこう。
「あろまは珍しく遅かったね」
「ちょっとね…」
少し歯切れの悪いような返事だ。
「なにかあった?」
電車を待つその横顔はマフラーに埋もれて見えづらかった。なにか言いにくいことでもあるのかと心配したけれど、次の言葉を聞いた俺は、完全に固まってしまった。
「…付き合ってから二人で出かけるの、初めてじゃん。だから…ちょっと緊張した」
『間もなく、電車が参ります。黄色い線の内側にお下がりください』
ホームのアナウンスでハッとする。予想外の言葉に不意をつかれた。そのままなにも言えないでいる俺たちは、混雑する電車に乗り込む。満員電車の中ではお互いの体が嫌というほどくっついて、それでも嬉しいと思ってしまう俺は本当に脳天気なんだな。
To Be Continued…
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