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私
達の家族は三人だった。父と母と姉。
母は料理が得意でいつも美味しいご飯を作ってくれた。
父は優しい人だったけど怒るとすごく恐くてよく叱られていた。
姉は元気いっぱいでよく外で遊んでいた。
そんな幸せな日々がいつまでも続くと思っていた……
ある日突然その日常が崩れ落ちたのだ。
『お父さん!お母さん!』
私の家は村外れの森の近くにあった。
だから魔物に襲われるなんて事はなかったのだが、今日に限って両親は森に入ってしまった。
私は急いで後を追いかけて行った。
でも見失ってしまい森の中を捜し回った。
日が落ち始めた頃ようやく両親を見つけることが出来た。
両親の前には見たこともないような大きなドラゴンがいた。
私は腰を抜かしてしまっていたのか動くことが出来なかった。
ドラゴンはこちらを見るなり襲いかかってきた。
『キャーッ!!』
私は必死になって逃げた。
その時、誰かに突き飛ばされた。
父だった。
私が逃げる時間を稼いでくれていたのだ。
父の背中越しに見えたのは大きな口を開いたドラゴンの姿だった。
父が食べられると思った時、光が溢れ出した。
そして気が付くとその光に包まれていて目の前にいたドラゴンがいなくなっていた。
一体何が起きたのか分からなかった。
すると、声をかけられた。
『大丈夫?』
そこには綺麗な女の人が立っていた。
『あ、はい』
私は呆然としたまま答えた。
『怪我はない?立てるかな?』
差し出された手を掴もうとした瞬間、手がすり抜けた。
その光景を見て、自分の身体に視線を落とす。……やはり透けていて、向こう側の景色が見えてしまっている。
どうしてこんなことになったのかわからないけれど、少なくとも僕の命は長くないということだけはわかった。
『ごめんなさい』
誰かの声が聞こえて顔を上げると、目の前にいる女性が泣いていた。彼女は何度も謝っていたけど、僕としては彼女が泣く理由がわからなかった。
だって僕は死ぬことを覚悟していたからだ。今更何を言われようとも仕方がないと思っていたんだけど、不思議とその言葉を口に出すことはできなかった。
だからただ黙っているしかなかったのだけれども――不意に、頬に触れた手の感触があって……それで僕は顔を上げることができた。
「ごめんね。辛いことを思い出させちゃったよね?」
目の前にいる女の子がそう言った。
いや、その言い方だと語弊があるかもしれない。
正確には『僕』じゃない。今こうして話している『彼』でもない。それは『彼女』だった。
彼女は僕の肩に手を置いたまま、心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめてくる。
栗色の長い髪がさらりと揺れていて、綺麗だと思った。
「でも大丈夫だよ! きっとなんとかなるって!」
元気づけるように彼女が言う。