テラーノベル
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朝から雲ひとつない晴れの日曜。
家のソファでごろごろしていた僕は、
グループLINEの通知音で目が覚めた。
涼架“ここのパン屋さん美味しそうじゃない?
もしよかったら今からみんなで行こうよ!”
涼ちゃんからのメッセージ。
メッセージと共に、茶色と緑のお洒落なお店
の写真が送られてきた。多分テレビか雑誌で
特集されていた近所の人気ベーカリーだ。
滉斗“俺行けるよ!”
若井もすぐ反応している。
僕も“行こ”と送った。
だれかと会う日の朝は、
少しだけ自分に気合いを入れてしまう。
いつもより丁寧に髪を整えて、
好きな色のパーカーを選ぶ。
なぜか心がそわそわして、落ち着かない。
こんなふうに誰かを意識し始めている自分を、
どこか認めたくなくて、
鏡の前でそっとまばたきをした。
パン屋の前でふたりに会うと、
若井はもう並んでいて、涼ちゃんはその隣で、
嬉しそうにパンの写真を撮っていた。
涼架『元貴!やっと来た~!』
涼ちゃんが手を振る。
元貴『並んでくれてたの?ごめん』
涼架『いいよいいよ!どれ食べる?』
列の中で、涼ちゃんと若井が2人で
メニューを覗き込みながら、
『これ、美味しそう』
『こっちチョコあるよ!』と楽しげに話してる。
僕も話に入りたいのに、
気づくと一歩後ろに下がってしまう。
若井の低くて優しい声。
涼ちゃんのはしゃぐ笑顔。
この2人、やっぱり似合ってる。
若井が隣にいて、涼ちゃんが笑ってる。
それだけで景色がキラキラして見える。
胸がちょっとだけ痛くて、
パンの並ぶショーケースの向こう、
2人の横顔をじっと見つめてしまった。
注文を済ませて、外のベンチで3人並んで
パンを食べる。春の風が気持ちよくて、
街角の賑やかな声や笑い声が遠くに感じた。
若井が紙袋を広げて『これも食べていいよ』と
パンを差し出してくれる。
『ありがとう』って言うだけで、
心がほんの少し温かくなる。
でも、そのすぐ後で、
若井と涼ちゃんがまた目を合わせて笑い合う。
淡い嫉妬と寂しさが、
心の隙間から静かに流れ込んできた。
…僕も、
若井の隣でああやって自然に笑いたいのにな、
涼ちゃんが、
『パンのお店、すごく可愛かった〜!
また来たいな〜』と無邪気に言う。
若井が『今度は他の友達も呼んでもいい?』
って気軽に返す。
この3人だけの時間が、
これからも続くと信じたい。
でも、その輪の中で僕の居場所が、
いつかなくなってしまうんじゃないか――
そんな不安が、気づくと小さく根をはっていた。
帰り道は同じ方向の若井と2人きりになった。
滉斗『今日は来てくれてありがと、
最近、元貴元気なさそうだけど、大丈夫?』
そう言って、滉斗は心配そうに首を傾げる。
元貴『そんなことないよ』
すぐに、そう答えてしまった。
ほんとはちょっとだけ、心がしんどいことも、
好きって気持ちが消えなくて困ってることも、
全部若井には見透かされてる気がする。
滉斗『無理すんなよ』
優しい声。
その一言で、
また心がぎゅっと締めつけられた。
僕だけじゃない、
涼ちゃんにも、みんなにも――
若井は、こんな風に優しい。
若井の隣は、いつも温かいけど、
時々すごく遠い。
またねって、言って、
並木道を歩く若井の背中を見送る。
本当はもう少しだけ、一緒にいたかった。
帰り道、ふとスマホ画面の2人の笑顔を
見つめてしまった。
写真には、手を伸ばしても届かないくらい、
眩しい幸せが写っていた。
明日からまた、変わらない日常が始まる。
そのはずなのに、僕の心は、
どうしてこんなにも揺れているんだろう――。
コメント
2件
投稿ありがとうございます。涼ちゃんがはしゃいでるの可愛い、若井優しい過ぎるよ😭大森くん頑張れ\(*⌒0⌒)♪次回も楽しみに待ってます!!