コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
下校の時間になったのに、何人かの女子たちはまだ教室でしゃべってる。
“一緒に帰ろう”なんて言われるかと思ったが、あっさりとゆりは校門を出る。
1日中質問攻めにあったから、もう飽きてしまったのかもしれない。
─全然上手に返せなかったなぁ。
頭の中で何回も練習してた答えは、みんなを目の前にして真っ白に消えてしまった。
きっと、面白くない子だと思われた。
実際そうなんだけど。
通学路を通るのは今日が初めてじゃない。
迷わないようにと、昨日お母さんとしっかり確認した。
ゆりの歩くちょっと前には2つのランドセルが並んでいて、ときどき大きな笑い声が聞こえる。
ゆりは少し歩みを早めて横を通り過ぎる。
15分くらい歩くと家に着く。
イチョウ公園を通り過ぎるとすぐゆりの家だ。
ランドセルから鍵を出してドアを開ける。
「ただいまー。」
誰もいない家にゆりの声が響く。
ランドセルを部屋に置き、スケッチブックが入ったバックを取ったら、ゆりはまた家を出る。
まだ新しいスケッチブックは、もう何冊目か分からない。
─そういえば、、
ゆりは学校で聞いたことを思い出す。
─あの家、魔女の家って言うんだ。
ゆりは公園の入り口から見える魔女の家を見上げる。
平日の夕方の公園には、人の姿は見えない。
─今日はイチョウの木を描こうかな。
ゆりは公園のベンチに座って、バックからスケッチブックと色鉛筆を取り出す。
しばらく夢中になって描いていると、何か黒いものがゆりの視界の隅に入ってきた。
顔を上げると、黒猫が少し離れたところからこっちを見ていた。
ゆりはスケッチブックと茶色い木の色の色鉛筆を持ったままゆっくり近づく。
すぐに逃げるかと思ったが、猫はじっと座って動かない。
ゆりはギリギリ手が届かないくらいのところで止まって、しゃがみこむ。
近くで見ると本当に真っ黒で、きれいな毛並みをしている。
─もしかして人に慣れてるのかな。
「ちょっと描かせてもらってもいいかな。」
─「ミャー」
返事をしてくれたみたいで、ゆりはちょっとおかしくなる。
「ありがとう。」
ゆりはそっと次のページを開き、急いで描く。
茶色の色鉛筆だけしか持ってこなかったので、黒猫は茶猫になってしまった。
しばらくすると黒猫はゆっくり立ち上がって歩きだした。
そのまま目で追っていると、ベンチと反対側の植え込みの向こうにいなくなった。
どこに行ったのか気になったゆりは、あとを追いかける。
「あ、、」
黒猫が消えたところまで行くと、植え込みの奥の木でできたフェンスの一部が壊れていて、公園の外に出られるようになっていた。
ゆりがギリギリ通れるくらいの抜け穴になっている。
ゆりはかがみながらその穴をくぐる。