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優しさはめぐる
「人に優しくすると世界が変わるんです。」
5時貫目の道徳の授業で先生が言っていた言葉だ。
昼御飯の後もあってみんなが眠たそうに目を擦っている。
そんななか俺は先生の言葉を一言一句聞き逃さないように聞いていた。
『世界は変わる』
その言葉に衝撃を受けた。
俺でも世界は変えられるんだと思って。
「wwww馬鹿みたいだよな」
「そんなんで世界が変わるかっつーのw」
俺に話しかけてきた友人AとB。
その言葉にひどく驚いた。
「あれを信じるなんてどこのガキだよw」
「あ、はははっそうだよな」
そんなこと無いって否定したかった。
そんなこと無いって。
でも、そしたら俺がガキだって馬鹿にされる気がした。
「先生!」
「あら?どうしたの?」
人に優しくしたら世界が変わる。
本当にそんなことで世界が変わるのか。
たったそれだけで変わるのか。
「なんで、人に優しくすると世界は変わるの?」
「確かに優しくするだけじゃ世界は変わらないかもしれないね」
「でもね、人に優しくするとその人も少し優しくなれるんだよ」
「そうやって優しさはめぐって少しだけ世界が優しくなるんだよ」
「あ”ぁクソッあったまいてぇ……」
目が覚めるとそこには昨日食べたコンビニ弁当のゴミと家賃滞納の督促状。
そしてそこらじゅうに散らばる空の缶ビール。
「あ”~くそっ水っ」
水道を捻って水を飲もうとするがでてこない。
あぁそうだ。
家賃滞納で止められたんだったんだ。
「チッ」
ガチャっ
水を買うために外にでる。
蒸し暑い夏の熱気が肌にまとわりついて気持ち悪い。
ここ数日風呂にすら入れてない。
近くの自販機はどこだっただろうか。
「160円……」
今俺のポケットにある金は60円。
終った。
金がない。
水すら買えない。
貯金もとっくに底をつきた。
そろそろ、アパートも強制退去させられるだろう。
「おじさんどうしたの?」
いきなり少年の声が聞こえた。
下を見ると小学生1~3年生ぐらいの坊主が俺のことを見上げていた。
塾帰りか?
きっと俺とは見てる世界が違うんだろうな。
これから見ることも無いだろう。
「あぁすまん。邪魔だったか?」
「ううん。おじさんなんか困ってそうだったから」
「ははっ水を買おうとしたんだがなちょいと金が足りんくてなw」
「とりに家帰るのもめんどくてな」
嘘だ。家に帰ったて1円すらない。
「そうなの?じゃあ買ってあげる!」
「は?」
そういうと坊主は財布を取り出す。
「いくら足りないの?」
「いや、さすがにそこまでしてもらう必要はないねぇよ」
嘘。めっちゃありがたい。
「?でもお金無いんでしょ?」
「家に帰ったらある」
「今は無いじゃん」
「帰りゃあるんだからお前が払う必要はねぇっつてんだ坊主」
「そうなの?」
若干不満げな様子で俺を見つめる。
「すまん、嘘ついた。家に帰っても金なんてねぇよ」
ガタンっ
「はい!これ」
坊主が水を差し出してくる。
「お前……」
「先生がね言ってたの」
「人に優しくするとね世界も優しくなるって」
「そうか……いーせんせーだな」
「うん!」
「それじゃ助かったぜ坊主」
「あと一つ忠告だ。しらねぇ人に安易に金なんて渡すんじゃねーぞ」
「うん!わかった!」
「俺ね、将来医者になるの」
「おじさんもなにか病気になったら俺が直してあげる!」
「へぇそりゃー頼もしいこった」
「だからおじさんも困った人がいたらちゃんと助けてあげるんだよ?」
「へいへいわかったよじゃあな」
「ばいばい!」
不思議だ。
両親からも縁を切られるぐらいまで酒、たばこに依存し結局最後の最後まで有り金で買ったのは今日の晩飯と缶ビール3缶だった。
それほどまでに酒、たばこに依存していた。
それなのに今では酒、たばこに関する依存が消えていた。
「真面目に働いてみるかぁ」
アパートの前まで行くと大家のババァが重そうな荷物を持ちながら階段を登っていた。
『困ってる人を助けてあげるんだよ?』
「優しさはめぐる……ねぇ」
「おい!ババァ!荷物貸せ持つよ」
「あら?運んでくれるのかい?助かるねぇ」
「でも、そんなことしたって家賃滞納は許さないわよ?」
「わかってるっつーの」
「助かったわ、ありがとう」
「いんだよ」
「でもどういう風の吹きまわしかしら」
「別になんでもねぇよ」
「ある坊主に助けられてな」
「そいつの真似事だ」
「ふふっ家賃、少し待ってあげるわ。弟が工場経営者なの」
「紹介してあげるからそこで働いてさっさと家賃払いなさい」
優しさはめぐるってこういうことなのか?
「ありがとなばーさん」