テラーノベル
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今はいない誰かのためにこの思い、願いを貫き通す事ができますか?
この街では、大切なことはすべて「紙」に書いてはいけないという決まりがあった。吹けば飛ぶような言葉こそ、誰にも奪われぬように、心の深い場所に「諳んじて」おかねばならないのだ。
老いた時計職人の男は、毎晩、作業の窓から見える冬の空を眺めていた。彼が空を諳んじるのは、もう何十年も前に極寒の地へ消えた親友との約束だった。「いつかこの空の眩しさを、君の子供達に伝えてくれ」文字にすれば、検閲の火に焼かれる。声を出せば風に攫われる。だから彼はその約束を祈りのように、指先に馴染んだゼンマイの動きのように体の中に刻み込んだ。
彼は力強く、それでいて繊細な星を見上げながら喉の奥で呟いた。
「聴いているか流れ星。身を焦がすようなこの願いを」
ある日、職人のもとへ一人の少年がやって来た。壊れた古い懐中時計を握りしめて。「おじいさん、これ、直るかな」男は少年の中に、かつての親友の面影を見た。震える手で時計の裏蓋を開けると、そこには文字ではなく、細やかな傷のような「流れ星」が刻まれていた。それは言葉を失った場所で、誰かが必死に「生きる理由」を繋ぎ止めようとした痕跡だった。
「君はこれをどうして持っていたんだい?」
「お父さんが言ってたんだ。この時計は動かなくても、空を見上げることを忘れないためにあるんだって」
男の目から、一筋の雫がこぼれた。
自分が一人で守り続けて来たと思っていた記憶は、どこか知らない場所で、同じように誰かが「諳んじて」いたのだ。
それは「空」と「路地」を繋ぐ目に見えない光の路だった。
男は少年の方に手を置き、静かに語り始めた。まだ誰も知らない、けれど決して忘れてはいけない、銀色の空の物語を。
「さぁ一緒に覚えよう。僕が明日も、ここで笑っていられるように」
外では雪が降り始めていた。けれど二人の心には、決して消えない「生きる力」が、 あの日、もういない人の言葉が、
「生きるため」の灯火になっていた。
少年は泣いているような笑顔で、小さな声で、でもはっきりと銀色の空を誦じた。
「聴いているか流れ星、身を焦がすようなこの願いを」
コメント
2件
初リクエストありがとう!! 頑張って書くね!
上手いですね! じゃぁ、青と夏とかでリクしてもいいですか、?