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ガラっとドアを開けると

「いらっしゃーい!遥ちゃん!待ってたわよ?」

元気な男の人の声がした。


「久し振り!蘭子《らんこ》ママも元気そうで良かった!」

遥さんは親し気に話しているけど、私は後ろから覗くように見てしまう。


「あら?後輩ちゃんってその子?可愛い!怯えてるわぁ」

蘭子ママと言われた人は笑っている。


「あの、遥さんっ、このお店って……?」

コソっと遥さんに尋ねる。


「ごめんね。びっくりさせちゃって。ここはね、まぁ、オネエバーって言われているところ」


オネエバー!?


蘭子ママさんを見る。

身体は男性っぽいのに、話し方は女の人だった。

お化粧もしているのかな。でもすぐ男の人ってわかる。歳は五十歳くらい?


ジーと見ていると

「ちょっと、後輩ちゃん!そんなに見ないでよっ。恥ずかしいじゃない?ほらっ!外は寒かったでしょ?座って、座って」


「あっ、ごめんなさい」


「ママ、ごめんね。こういうところ来るの初めてだからびっくりしているみたい。私もお店の紹介とかしないで来ちゃったし……」


お店の中はそんなに広くはなかった。

中には十人はいかないくらいのお客さんとママさん以外に数人のスタッフさんと思われる人がいた。


「そりゃぁ、こんなところ何も言わずに連れて来られたらびっくりするわよね?」

スタッフさんが話しかけてきてくれた。


この人も……。

オネエさん?なのかな。


声音は中世的な声、女装しているけど男の人だってわかる。

「座って」と言われたソファー席に座った。


「上着、預かるわよ?」


「あっ、はい。ありがとうございます」

上着をオネエさんに預ける。


「やだぁ、本当にこの子、怖がっているわよ?可愛い!遥と全然違うじゃない!」


「何それ?失礼!」


遥さんは慣れてるんだ。笑っている。

私がこんなに怖がっている態度を取ってちゃダメだよね?嫌な気分にさせちゃう。

遥さんがこんなに笑っているんだもん、怖い人たちじゃないはず。


「初めまして。私はこのお店のママやってます。蘭子です。よろしくね」

ママさんが挨拶に来てくれた。

近くで見る。

着物を着ているが、とても貫禄があった。


「初めまして。よろしくお願いします」

ペコっと頭を下げる。


「何飲む?」

遥さんが私に聞いてくれた。


「あっ……。えっと、カシスオレンジで?」

私はあまりお酒が強くない。


「了解!ママ、私、ビールで!」


「はいはーい!ちょっと待っててね」

蘭子さんはニコッとして、席を立った。


「桜、びっくりしたでしょ?でもね、本当に良い人たちなの。私もさ、実際はよく説明できないんだけど、オネエとオカマは違うとか、同性が好きな人はまた違うとか……。何回も説明されたけど、忘れちゃった。ただなんていうか、いっぱいいろんなことを経験している人たちなの。だから私もよく落ち込んだ時とか相談に乗ってもらったり。見かけは怖いかもしれないけど、みんな良い人たちだから?」


お店に来ているお客さんはみんな笑っている。

スタッフさんたちもとっても楽しそう。


「はい、連れてきてくれてありがとうございます」

自分一人じゃ来ることもなかっただろう。

私もママさんたちと仲良くなれれば嬉しいな。


「はい、お待たせしましたぁ。初めまして。私は桔梗《ききょう》です。よろしくね?」


桔梗さんって言うんだ。

源氏名?なんだろうな。

青いドレスを着ているけど、骨格が男性らしい。身長も170センチはありそう。黒髪でロングのストレート。お化粧してる。


ていうか、お化粧、私より上手!

まじまじと見ていると

「何か変かしら?やっぱりまだ慣れないわよね?」


「あぁぁっ、違うんですっ、お化粧の仕方とかすごくお上手で。私なんかより女性らしいというか……。あっ、私なんかと比べてごめんなさいっ」

なんて伝えていいのかわからない。


「いやぁね、そんなに緊張しなくてもいいのよ。桜ちゃんって言ったっけ?褒めてくれてありがとうね」

桔梗さんは微笑んでくれた。


「でもね、綺麗って言ったら《《あいつ》》には負けちゃうのよね……。私だってこんなに美に努力してるのに。やっぱり元が良い子には敵わないわぁ……」

桔梗さんは頬に手を添えながら、悲しそうな表情を浮かべた。


《《あいつ》》って誰のことだろう?

綺麗なオネエ?さんは好きですか?

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