引き続きエイバス近くの森の中、他の冒険者も魔物も寄り付かない開けたエリア。
魔術についてあれこれ探っていた俺とテオは、ほど良い大きさの切り株にそれぞれ腰を据えると、いよいよ本題の「1週間後の小鬼の洞穴リベンジへ向け、光魔術の攻撃威力を上げる方法」を考え始めた。
魔術の威力を上げるには、たくさんの方法がある。
中でもゲーム内で多数のプレイヤーが実践する方法は、以下の4つだ。
テオに確認してみたところ、これらの方法が定番というのはこの世界でも共通らしい。
「……1と2は、今回却下だな」
「俺もそー思う!」
手元の紙にメモをしながらつぶやくと、間髪入れずにテオも同意してきた。
1つ目は、自身の『LV』をアップし、魔術攻撃力を底上げすること。
確実に攻撃威力は上がるものの……下手にLVアップしてしまうと、スキル【魔王の援護】――特定の条件下で、魔王の援護により強化される――の効果で、相手もさらに強化されてしまう可能性が高い。
相手が強化される仕組みがまだ読めない上、再挑戦まで1週間しか無い現状では、この方法に頼るのは怖い気がする。
2つ目は、魔術スキルの『スキルLV』を上げること。
俺の【光魔術】のスキルLVは1。
スキルLVを上げるためには、スキルを使うことで貯まる『熟練値』を一定値まで貯めればよいため、時間をかけて努力さえすれば確実に威力を上げられる。
長期的にはスキルLVを上げる努力をしていく予定ではあるけれど、1週間では時間が足りなすぎるので、さすがに今回は厳しい。
「次は3か……」
装備したり使用したりすると、魔術攻撃の威力を上げられる武器・魔導具などのアイテムは、ゲーム上にはたくさんあった。
「テオ、エイバスの街で魔術攻撃強化系の武器とか魔導具とかって手に入るのか?」
俺がたずねると、テオは難しい顔になった。
「ん~……正直、大したものは売ってないと思う」
「なんで?」
「ほら、魔王が現れるまで平和な時代がずっと続いてたじゃん? みんなが欲しがるのは生活魔術の魔導具ばっかで、そもそも戦闘用アイテムの開発や研究って進んでなくてさ……特にエイバスにはまだ直接強い魔物が攻め込んできてるわけじゃなくて、しかも拠点にしてる冒険者も少ないから、武器や攻撃強化系アイテムを買う人自体もほとんど居ないんだ」
「売れないんじゃ、取り扱う店も少ないよな」
「うん。もし強力な武器が欲しいんだったら、強い魔物が出るあたりの街の武器屋に行ったほうがいいと思う。そういうとこで戦う冒険者は高くても良い武器を惜しみなく買うから、品ぞろえもすごいんだよねー。ま、そのぶん値段も張るけどさ!」
「なるほど……」
確かにゲーム上でも、魔王の城に近づけば近づくほど強力な武器を売っていた。
あれは需要と供給の問題があったのかもな。
そういえば神様は『アイテム作りのレシピは、ゲームのほうが研究されてる』と言っていた。
あれはもしかしたら『戦闘用アイテム』を指していたのかもしれない。
攻略サイトには、様々なアイテムの入手方法・作り方が多数記載されている。
難点は、強い効果をあればあるほど、金銭面や素材調達面などでアイテム入手難易度が高くなっていくこと。
ゲームでは、序盤で強力な戦闘用アイテムを入手するのは厳しかった。
この点は現実でも同じと見たほうが筋が通りそうだ。
「ってことは3も難しいかもな……じゃあ、4を試すか!」
「だねっ!」
現状、俺が唯一自信をもって発動できる術式『ライトオーブ/光球』。
ゲームにおいて、ライトオーブなどの『オーブ系』が基本魔術と呼ばれるのは、様々な用途に使え汎用性が高いからという理由だった。
そしてこの世界では、基本魔術と呼ばれる理由がもうひとつある。
『オーブ系』の発動時に必要なイメージは、「魔力を球の形に集める」と誰でも思い浮かべやすいものであるからというものだ。
この事実を知った俺は「イメージを固めること――魔術発動時におけるゲームと現実との大きな違い――」に慣れるため、これまであえて他の術式を試さず『ライトオーブ』の練習だけをほぼ毎日続けてきた。
さっき初めての回復魔術『ライトヒール/光癒』を1回で成功させることができたのも、その甲斐あってのことかもしれない。
攻略サイトには、強力な術式も多数載っている。
魔術においてスキルLVが影響するのは、その『威力のみ』であり、スキルLVが1であろうが5であろうが、使える術式の種類は同じだ。
ただし俺のMPは正直なところ、最強クラスの術式を唱えるには心もとない。
それにこの間のテオの【魔術合成】の大爆発&轟音を見てしまうと……いきなり強力な術式を使うんじゃなく、できる範囲をコツコツと広げていくほうが安全な気がする。
とはいえ、ある程度の威力が無いと、そもそも小鬼の洞穴のボスに通用しないし……。
……諸々の状況をふまえると、選べる選択肢は自然と限られてくるな。
「まずは『アロー系』を試そうと思う。単体攻撃の魔術はほぼアロー系の形が基本になってるから、これさえ出来ればステップアップしやすい気がするんだ!」
魔力を鋭い矢のような形に固めて具現化する『アロー系』は、攻撃に特化した術式だ。
オーブ系に比べれば攻撃力は高いものの、今の俺の魔術攻撃力で発動したところで、ダンジョン『小鬼の洞穴』のボスにダメージを与えられるほどの威力はない。
俺の狙いはアロー系自体ではなく、それから派生した強力な術式の数々。
矢アロー系の派生には、一回り大きい強化版術式のジャベリン系をはじめ、伝説の武器・空想の動物などをモチーフにした術式がたくさんある。
あくまでそういった術式をマスターするためのステップとして、まずはアロー系を習得するつもりだ。
なお攻撃に使える魔術術式には『敵単体へ攻撃』『複数の敵へ攻撃』『エリアへ攻撃』など、様々な範囲に向けての術式が存在するのだが、中でも単体攻撃がもっともイメージがしやすいのではないかという思惑もある。
「いいじゃん!! 1週間しかないし、単体攻撃魔術に絞るのはありだと思う!」
テオもすぐに賛成してくれたってことは、方向性は間違ってないだろう。
早速、アロー系の【光魔術】を試してみるか。
ペンと紙とはいったん【アイテムボックス】に放り込む。
何も持っていない手ぶら状態で、ゲームでの術式発動時のエフェクトと自キャラのモーションを頭に浮かべ、自分が弓と矢を持っているところを強く想像していく。
イメージをしっかり固めきったところで、おもむろに詠唱をはじめる。
「……光よ集え…………そして……」
詠唱に導かれるよう、俺の手に、白く細身な光の弓矢が現れた。
少し遠くに生えた木に狙いをつけつつ、矢をつがえ、弓の弦をゆっくりと引く。
その動きに合わせるように、徐々に輝きが増していく光の矢。
右手を引いて引いて、これ以上は無理だという段階まで引き絞る。
今だ、と思ったその瞬間。
俺は詠唱を完成させるように叫び、魔力の矢を放った!
「貫け! ライトアロー」
キラキラ白く輝く光の矢が、狙った木を目掛け真っすぐ早く飛んでいき、ダンッと音を立てて突き刺さる。
そしてパッと散るように消えた。
俺が喜びの声をあげると、テオが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「決まったなっ」
「ああ! じゃ次は……ジャベリン系でも試してみるか!」
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