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数十分後。
練習に疲れた俺は、ぐったりと切り株に座っていた。
試していた『ライトジャベリン/光投槍』は、『消費MP15』の割には威力が高く、初心者向け【光魔術】の中ではコストパフォーマンスが良い術式と言われている。
ゲームで術式を研究し続けている有名プレイヤーいわく、
――『発動時の見た目』『動きの優雅さ』など余計な部分に魔力を使わず、「相手にダメージを与える」というシンプルな目的に特化した術式であるから
というのが理由らしい。
俺としては、現時点の自分の魔術系ステータス――最大MP74、魔術攻撃力58、光魔術スキルLV1――をふまえると、「小鬼の洞穴ダンジョンボスにそこそこダメージを与えられ、かつ諸々の効率が最も良い術式」はこのライトジャベリンだと考えている。
ジャベリン系発動時のイメージは、魔力で細長い槍を作り、それを投げるようにして対象にぶつける……というものだ。
俺の場合、「光魔力で槍を具現化する」という手順までは何とかなるんだけど、その後がどうにもうまくいかず。
何度やっても、どのようにぶつけようとしても、狙った的――少し離れた位置に生えている木――に当たってくれない。
昔、動画かなんかで見た「陸上競技の槍投げの動き」を思い出して投げてみたり。
見本としてテオに、風属性ではあるものの同じジャベリン系な『ウィンドジャベリン/風投槍』を実演してもらい、その動きを真似したり。
毎回イメージや動きを少しずつ変えつつ、できる限りの試行錯誤をしてはいたのだが……
……何度も繰り返しているうちに、とうとう集中力の限界が訪れてしまった。
「はい、MP回復薬」
「悪ぃな……」
疲れ切った俺に、テオが小瓶を手渡してくる。
瓶の蓋を開けて中身を一気に飲み干し、ぷはぁと一息。
MP回復薬は、栄養ドリンクをさらに濃縮した感じの強烈な味で、正直なところ味わって飲むようなもんじゃない。
息を止め一気にグイッといかないと、喉の辺りでつかえて蒸せてしまい、飲み込むどころじゃなくなってくる。
救いは量が少ないところと、後味が悪くないところ。
飲む瞬間はきついけど、喉さえ通ってしまえば意外と口がさっぱりするから、水とかで口直しまではする必要がないんだよな。
「……見てて思ったんだけどさ、タクトは “自分で槍を投げるイメージ” でやってるんだよな?」
「うん。なかなかイメージ通りにいかないけど、投げようと努力はしてる」
「え?」
俺の試行錯誤を横で見ていたテオは、どうやら何かに気付いたようだ。
「ん~……タクトは槍って投げたことある? 魔力の槍だけじゃなく、木製とか金属製とかの槍でもいいからさ?」
「いや、無い」
「やっぱり! 投げ方見てて何となく分かったぜ」
納得したらしく、1人ウンウンうなずくテオ。
「何が分かったんだ?」
「OK、ちゃんと説明する! そもそも魔術とは何かって説明は覚えてるよね?」
「えっと……『精霊の力を借りて、魔力を自由に扱うスキル』だよな」
「そのとおり。でも今のタクトの『ライトジャベリン』は、光の槍を具現化するとこまでは魔力を使ってるんだけど、投げる段階では魔力を全然使ってないんだ」
「……?」
テオによれば、魔力の意思である精霊は、『術者のイメージ』を汲み取って魔力を具現化したり、何らかの効果を生み出したりしているとのこと。
だから基本的に、術者のイメージする範囲でしか魔力は働かない。
「……だから、さっきのタクトみたいに術者が『自分で投げよう』って強く意識してイメージしてると、精霊は『あ、投げる時は手伝わなくていいんだ!』って解釈しちゃうから、魔力が働かなくなっちゃうんだよ。で、タクトは元々槍投げが上手いわけじゃないだろ?」
「正直……自信ない」
「しかも【投擲(とうてき)術】も習得して無いから、他のスキル補正も入んないし。それじゃ、自力で的に当たるわけないじゃん!」
「そういえば……」
元陸上部だという知り合いから「槍投げは意外と難しいよ。きちんとフォームを覚えて、真っすぐ投げられるようになるまでだけでも時間かかる」と聞いたことがあるのをうっすら思い出す。
「もう分かったよね?」
「ああ……自力で投げようとしないで、自動的に的に当たるようなイメージで投げればいいんだな?」
テオは満面の笑みで「その通りっ!」と答えた。
ふと俺は「ライトアローやライトオーブに関しては、なぜ上手く的に当てられたのか」疑問に思う。
テオと話した結果、以下のような結論になった。
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●ライトアロー/光矢:矢だけじゃなく弓も魔力で具現化したことにより、『弓の力で真っすぐ矢が飛んでいく姿』を無意識にイメージできていたから
●ライトオーブ/光球:俺が元々『球状の物』を投げ慣れていたから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
学生時代に球技でボールを触っていたのが、こんなところで役に立ってるとはな。
ほんの少し休憩を挟んでから、俺はライトジャベリンの練習を再開。
「タクト、どんなイメージで投げるか決めた?」
「おう。何となくは固まったよ」
発想を変え、投げる段階で『魔力を利用』する。
標的となる木をもう一度見据えてから、イメージを固めつつ詠唱を始めた。
「……煌めく光達よ、鋭く尖れ。その穂先を研ぎ澄ませ……」
詠唱に応えるように、俺の手へと白い光が集まり、徐々に力強い槍へと姿を変えていく。
ここまでは何度も成功済み。
問題はこの後だ。
「そして……」
手の中の槍が、“自ら” 真っすぐ的へと飛んでいくようしっかりイメージしつつ詠唱を仕上げ、槍を投げる!
「貫け! ライトジャベリン!」
俺の手を離れた瞬間、白い光の槍は自ら加速。
轟音を立てて的にぶつかったかと思うと、小さく爆発して消えた。
標的にしていた木に、ゆっくりと近づいてみる。
光の槍がぶつかって消えた木の幹には、『ライトアロー』の時とは違い大きな大きな穴が開いていた。