テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
──それは、突然だった。
コンクリートに囲まれた薄暗い部屋。鈍い痛みとともに目を覚ました新一は、太い縄で背中合わせに平次と縛られていることに気づいた。手首には金属の手錠。体は重く、脇腹には鈍い熱を持つ痛み。
(……殴られたか)
目を閉じれば、記憶がよみがえる。平次が眠っている間──おそらく強い睡眠薬のせいだ──自分だけが意識を保っていた時間。その間に現れた犯人に、何度も左脇腹を殴られた。平次だけは巻き込まないようにと耐え抜いたが、最後の一撃でさえも容赦はなかった。
「……っ、は……っ」
呼吸を整えようとするが、痛みがそれを妨げる。そんなとき、背中越しに微かな動きが伝わった。
「……工藤……?」
平次のかすれた声が耳に届く。その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れそうになった。
「……よう、寝坊助。やっと目ぇ覚めたか…っ」
新一は、無理やり笑いを含ませた声でそう言った。
脱出は、想像以上に困難だった。
なんとか自分の右手だけは縄から抜け出せた新一だったが、その動作で痛みがぶり返した。脇腹を押さえ、歯を食いしばる。
「……っ、工藤!」
逃げ道を探していた平次が、苦しそうな様子に気づき、すぐさま駆け寄ってきた。肩を貸そうとする平次に、新一は一度だけ首を振った。
「お前が逃げ道、確保してくれ……オレは、ちょっと、休んでるから……」
そう言いつつも、新一は心の中で別の考えを巡らせていた。
(……このままじゃ、足手まといになるだけだ。でも、服部一人に全部任せるなんて、できるかよ……)
わずかに俯きながらも、頭は必死に脱出の方法を探っていた。だが、呼吸をするたびに走る痛みが、集中力を奪っていく。
そんな新一の肩に、そっと触れる感触があった。
「工藤。ええか、今は自分の体を優先しろ。お前が潰れたら、オレの意味がなくなるんや」
平次の真剣な声に、新一はわずかに目を見開いた。
(ああ……こいつ、ほんとに……)
力を抜いて、平次の肩に体を預けた。背中合わせの恐怖も、今は少しだけ遠のいていた。
警察に通報が入ったのは、その直後だった。近隣で不審な物音を聞いた住民の通報により、監禁場所は突き止められた。
犯人はすぐに取り押さえられ、新一と平次は救出された。
だが、新一の容体を気遣った平次の一言で、救急車ではなく、すぐにパトカーで病院に搬送されることになった。
──車内。前席には警官、後部座席には新一と平次。
新一は脇腹を押さえながら、静かに隣の平次にもたれかかった。
「……悪いな、」
「アホ。どんだけでも預けたらええ」
そう言って平次は、新一の肩をぐっと引き寄せた。
赤く染まる空の下、2人を乗せた車は静かに走り出す。
事件は終わった。だが、 ──なぜ2人が狙われたのか。なぜ、あのタイミングだったのか。
その理由が明かされるのは、もう少し先のことになる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!