テラーノベル
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快をベッドに降ろし、立ち去ろうとする。
だが、不意に腕を掴まれた。
振り払えば簡単に離れるくらい弱い力だったけど、俺はそのまま、振り向いた。
「なんだよ」
「恭也に…手出すな…」
ゆっくりとした口調でそう言う快に俺はため息をつく。
「出さねぇよ。いいからお前はもう寝ろ」
布団を掛けてやると、眠そうな目をしながらも、睨まれた。
「そんな優しくしたって…恭也は渡さ…」
「うるせぇな。俺陽雅じゃねぇし。いいから寝ろよ。な?」
と言い、快の頭を撫でる。
「やめ…」
快の言葉を聞いて、手を引っこめる。
…無意識だった。
こんな事、他の誰にもしたことねぇのに。
なんか自分が変だ。
コイツの前だと、俺の知らない俺が出て、調子が狂う。
「…いい夢見ろよ」
そう言い残して、俺はそそくさと部屋を出た。
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トイレに行って部屋に入ると、快がベッドで眠っていた。
俺は敷かれた布団に寝転ぶ。目を閉じようとすると、部屋の扉が開いた。
そっちに目を向けると、陽雅さんが立っていた。
俺は起き上がり、こっちに来る陽雅さんを見上げる。
「お友達、大丈夫?」
「はい。もう寝たみたいです」
「そっか。良かった」
陽雅さんはそう言った後、俺の前で屈み、小声で言う。
「お友達、もう大丈夫そうだし俺と一緒に寝る?」
「えっ」
そう言ってくれるのは嬉しいし、出来るならそうしたい。
でも、快を一人には出来ないし…。
なんて思っていると、陽雅さんがフフッと笑う。
「冗談だよ。お友達と一緒にいてあげて」
「あ…はい」
「じゃあ、おやすみ」
陽雅さんは俺の頭を撫でた後、部屋を出た。
陽雅さんの恋人になったら、毎日こんな風に寝る前に頭撫でてくれたりするのかな。
なんて妄想をしながらも、俺は寝転がり、目を閉じた。
体が大きく揺さぶられる感覚で目が覚める。
目を開けると、快が俺の顔を覗き込んでいた。
「…快。おはよう」
「行くよ。こんな所いちゃダメだよ」
快が俺の両腕を掴み、体を起こさせる。
「ちょっと待って、話聞いて」
「言い訳なら後で聞くから。とにかくここから出るよ」
「えっ…でも…」
「いいから早く」
多分、今の快はどれだけ説得しても話を聞いてくれないのだろう。
「分かったよ。でも、陽雅さんに一言言わないと」
「そんなのいいよ。あとでメールでもしとけば」
「…分かった」
二人で家を出ると、外はまだ薄暗かった。
快が歩き出し、俺は快の隣を歩く。
「まだ暗いじゃん。もう少し居ても良かったんじゃない?」
「ダメだよ。あの人起きちゃうでしょ?」
「そうだけど…」
「あの人、見た目からしてヤバい人じゃん。裸だしガラ悪いしなんか吸われたし」
「あぁ…その人は陽雅さんじゃなくて零斗さんだよ。それに零斗さんはヤバい人なんかじゃないよ。俺の恋愛相談乗ってくれるし、快の事も反省してたし」
「なにそれ。その陽雅って人の彼氏?」
「違うよ。なんて言うか…同居人? 仕事仲間?」
「仕事…」
快は考える素振りを見せた後、口を開く。
「恭也、もしかして風俗に手出したの?」
「いや…風俗っていうか…そういう事の相談乗ってもらってただけ」
「へぇ〜。相談乗ってもらって。実際にやってみましょうって言われて。キスマつけられて。AVかよ」
「A…やめてよそんな言い方。誤解だって」
「でも実際してるんでしょ? そういう事」
「してるけど…それは相談乗ってもらった支払いだから」
俺がそう言うと、快は失笑する。
「体で支払い? ドラマでしか聞いた事ないわ」
「別にお金でも払えるし。俺が好きで体にしてるの」
「へぇ〜。何。十万とかせびってくるわけ?」
「五万だよ」
「高っ。そりゃ体にするわ。それで結構良くてハマっちゃったんだ。陽雅さんに」
「体目的じゃないし…」
俯いてそう言うと、快は申し訳なさそうに言う。
「ごめん。ちょっと言い過ぎた」
「いいよ。第三者から見たら変なのは自覚してるし」
二人の間に沈黙が走る。少しして、快が口を開く。
「…俺はただ、恭也に幸せになって欲しいだけだよ。だから、もし陽雅さんが恭也を傷つけたらって心配で」
「俺、傷つく覚悟は出来てるよ。正直、陽雅さんが俺を好きになるなんてありえないだろうし。いくらお気に入りでも、俺はただの客だから」
「…それでも一緒にいたいと思うくらい、陽雅さんの事が好きなんだね」
「うん。好きだよ。陽雅さんの事」
「…まぁ、好きにしなよ。でも、辛くなったらちゃんと言ってね。俺が話聞くから」
「うん。ありがとう」
「まぁ、言わなくても見えるから勝手に聞くかもしれないけど」
快はそう言って軽く微笑んだ。
数日後、俺は陽雅さんの家に行った。
今日もベッドの上で陽雅さんの声に翻弄される。
終わると、眠ってしまった陽雅さんを置いて、シャワーを浴びた。
リビングに戻りソファーに座ると、スマホを取りだしてSNSを見る。
最近、やたらと流れてくるカップルの投稿。
『今日は二人で遊園地デート』
という文と共に数枚の写真。
笑顔で楽しそうな二人の写真。
(遊園地デートか…)
俺は頭の中で陽雅さんとの遊園地デートを想像する。
(陽雅さんがはしゃぐ所、見てみたいな…)
俺が笑って、陽雅さんも楽しそうに笑う。
想像して、つい笑みが零れる。
「なにニヤけてんだよ」
横からそう聞こえ見ると、隣に零斗さんが座っていた。
「頭の中で陽雅さんと遊園地デートしてました」
「なんだよそれ」
「想像くらいならしてもいいかな〜って」
「別に誘えばいいんじゃねぇの?」
「無理ですよ。俺は客なんで」
俺は俯く。
そう。無理なんだ。俺が陽雅さんとデートとか、付き合うとか。絶対に無理だ。
零斗さんは少し黙ったあと、口を開く。
「そういえばお前、陽雅の声買ってるんだって?」
「そうですけど、知ってたんですね」
「トラブルが起きた時の為にそういう事は逐一報告してるからな」
「あぁ…なるほど」
「それでその…陽雅の声を買うんじゃなくて、陽雅自体を買うっていうか…デートして欲しいとか、一緒に出かけて欲しいとか言えばもしかしたら実現できるかもな」
零斗さん、俺のためにそんな事考えてくれたんだ。
俺は思わずフフッと笑ってしまう。
「なんだよ。俺変な事言ったか?」
「いや。優しいなって。零斗さん」
「別にこれくらい何でもねぇよ…」
と言いながらも、頬を赤らめている。
意外と可愛い一面もあるようだ。
「ちょっと聞いてみます」
「あぁ。頑張れよ」
「ありがとうございます」
俺がスマホに視線を戻そうとすると、零斗さんは少し言いにくそうに言う。
「あのさ…」
「何ですか?」
「俺の話も…聞いてくんねぇか?」
コメント
1件
読みました……。 快、めっちゃ怒ってたけど、あれって全部恭也のこと想ってだからだよね。 「幸せになってほしいだけ」って言葉がすごく重くて切なかった。 恭也も陽雅さんを“客”って言いながら、遊園地デート想像してるところがもう……胸がギュッてなったよ。自分で諦めてる感じが痛い。 でも最後、零斗さんが「俺の話も聞いてくれねぇか?」って……あの零斗さんが! そういう変化がすごく好きです。灯依さん、感情の揺れを描くの上手すぎます🥀