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二本足で地に根付く者どもが未だ到らない峻険なる弧峰の頂に分厚く重い雲が立ち込め、その内に温かくも鮮烈な夢が嵐の如く渦巻いている。気まぐれな星々が地上の運命を掻き混ぜるべく遣わした、未来を示す過去の夢だ。
夢の主は一羽の鷲だった。天を行き交う者たちの中でかの鷲を知らない者はおらず、かの鷲に傅かない者はいない。広げれば寝床とする峰をも覆わん広大な翼を有し、翼を覆う羽根は硝子のように透き通り、しかしならばその強靭な身を顕わにしているのかというとそうではなく、昼には太陽が、夜には月と星々がもたらす光を乱反射し、細やかな輝きを襦袢として身を包んでいる。
夢は玻璃の大鷲とあだ名される鷲の王に、偉大な猛禽の王がまだ羽根も生え揃わない雛鳥だった頃の過去をもたらしていた。
多くない兄弟と共にあって、ただかの鷲にのみもたらされた王の宿命は嵐と共にやってきた。凶暴な嵐に攫われて、見知らぬ森に無事に墜落するも、たとえ気高き鷲の血筋とて生き延びるのは容易ならざることだ。死を兄弟とする《飢え》と鷲の雛の味など知らない痩せた狐が舌なめずりをして付け狙うも、いずれ王となる雛は知らずに天命の使いとなった男に拾われる。
名を働き者という鷹匠の男だ。既にその才能を認められ、名声を恣にするも傲ることなく、優秀にして忠実なる鷹の訓練に明け暮れる日々のある日のことだった。
コトロフに拾われた未だ王ならざる鷲の雛は蒼穹と名付けられ、空の旅団にも譬えられるコトロフの鷹の戦列に加わった。
カールムスに秘められた力はコトロフの元で育まれ、夏を待って開花した。生え揃った羽根は未だ何の変哲もない不透明な羽根だったが、その翼の羽ばたきは力強く、吹き付ける風を浴びれば大の男も転倒し、その両足もまた力強く、何より鋭い鉤爪が仕留めるのは獣ばかりではなく、カールムスにかかれば重装鎧をも貫き、持ち上げてしまうのだった。高らかな青い空にその鋭い影が横切れば、禽獣は木陰か穴蔵に隠れ、羽ばたきの聞こえなくなるまで震えて息を潜め、兵さえも慌てて守備の陣形を組んだ。すぐにカールムスは鷹の戦列を率いるまでとなり、コトロフの狩りは獣相手ばかりではなくなった。
カールムスの領ろし召す空が広がるにつれ、コトロフや他の鷹との絆は深まり、上等な家畜の肉が食卓に上り、王に相応しい魂の気高さと自信を備えた。しかし日々の終わりはあっけなく、兆しもなく訪れた。突如コトロフは全ての鷹を解放し、いずこかへ立ち去った。狩猟者の範たるカールムスであればコトロフを見出すことは容易かったかもしれないが、そうはしなかった。見捨てられた怒りのせいか、悔しさのせいか今となっては思い出すこともできないが、カールムスは自由を選び、鷹の戦列は王への影従を選んだ。
カールムスが真に鷲の王となり、全ての羽根が透き通った頃にはコトロフのことも空の底での日々も忘れていたが、今、夢によって全てを思い出させられた。
弧峰の頂は地上よりも早く曙光に照らし出され、玻璃の大鷲カールムスは透き通る翼を広げて太陽の祝福を浴び、また乱反射させて弧峰を照らし、王の支配する処を示した。
今になってコトロフへの恩義が清水の源の如く湧き出し、温かな記憶が血と共に全身を巡る。捨てられたからといって拾われたことを軽んじるのが王の振舞いだろうか。カールムスは自問自答し、否に至る。あるいは当時の働きが恩義に報いていたと言えるかもしれないが、自分自身が生きるための営みでもあった。類稀な栄光と何不自由のない暮らしを得た今こそ恩返しを果たすべき時だ。
カールムスは決意と共に飛び立った。
弧峰を飛び立ち、夢と現実の境界面のような雲海に飛び込む。羽根の隅々まで洗われた頃には雲の底を穿ち、眼下に広大な森が広がった。北には東西に連なる茶色の山脈があり、その山稜を辿る。見覚えのある野原からかつての故郷へ。季節の終わりに露になった土肌が広がり、人間の巣がぽつりぽつりと見えてくる。
最も名高く、最も恐れられた鷹の目にかかればコトロフは直ぐに見つかった。当時住んでいた王国の片隅にひっそりと隠居していた。隠遁というには人里離れていない、ある村のそばで一人自らの手で、糊口をしのぐばかりの狩りをしていた。痩せた鶏と豚と毛艶の悪い猫はいたが、鷹どころか狩猟犬すらいない。
家の外で腰掛け、刈り取りの終わった村の畑を眺めながら、悪い夢によく効く酒を飲むコトロフの前に今や化生の如き鷲の王カールムスは降り立つ。
「久しいな、コトロフ」とカールムスが語りかける前からコトロフは吹き付ける風に引っ繰り返って、よろめく足取りで家の中へと逃げていった。しばらくして少しばかり扉が開いて赤ら顔が見えると再び話しかける。「このなりでは分からないのも無理はないな。私はカールムスだ。君に捨てられた後、人の野原の外の空を飛んでいた。あれから随分経ったが、今は翼と鉤爪を誇る者たちの王として一族の長をしている」
長い年月が過ぎたとはいえ、年齢以上にコトロフは老け込んでいた。色濃かった髪は白み、深い皴が刻まれている。餌掛けに詰め込むようだった太い腕も衰えている。その変わりように、カールムスの方も初めは疑わしい気持ちでコトロフに対していたが、その男の瞳の深さはカールムスが雛鳥の頃と何も変わっていなかった。
「カールムス? お前、喋れたのか?」
「いや、当時は喋れなかった。だが王ともなれば容易いことだ」
「そうか。立派になったんだな。まるで光そのもののような見た目もそうだが、王とはな。確かにお前は昔から抜きん出ていたが」コトロフは相変わらず扉の僅かな隙間から覗き込むばかりだ。「それで、王様が一体僕に何の用だ? 僕の方はというと誰からも忘れられた存在だ。まさかまた僕なんかに飼われに来たわけではないんだろう?」
「うむ。ふと思い出したのだ。恩を返していなかったことを。何か望みはないか? 私にできることはないか? この翼も鉤爪も、昔よりもずっと力強いぞ。きっと叶えてやれるはずだ」
「恩? 何の恩だ? 僕はただ君たちを使っていただけだ。生活のためにな。一時とはいえ、王国に響き渡る名声を得られたのだから、むしろ僕の方こそ恩を返さないといけないくらいだ。が、見ての通り僕には何もない。生きるので精いっぱいだし、力強い翼も鉤爪もない。申し訳ないが身の丈に合った人生だ。君が関わる余地はないよ」
「私の命の恩人だ。私が恩を返す。拾ってくれただけではない。力も鍛えてくれた。王になれたのはコトロフのお陰だ」
「さっきも言ったが、君を拾ったのは自分のためだ。それに、これは知らなかったろうが、君を鍛えたのも僕の力じゃない。嗾ける者という魔の存在を秘めた札の力なんだ。合点がいった。でなければ僕なんかに未来の王の教育係など勤まるわけがないんだ。がっかりしたか? すまないな」
カールムスは札の存在自体は知っていた。翼の生えた百足の描かれた恐ろしげな札をいつもコトロフは体に貼り付けて大事にしていた。しかしそのような力を秘めているとは知らなかった。魔除けの護符か何かだろうと思っていた。
「力は力だ。力が勝手に私を導いたわけではないだろう。その力を振るったのは貴方で、面倒を見てくれたのは貴方だ」
「そうは言うが、僕の元を離れた時の君よりずっと立派になってるじゃないか。君が王になれたのは君自身の力だよ」
「貴方がいなければ、王が立ち向かうべき試練を乗り越えられなかった。その力を得ることも出来なかったということだ」
コトロフは必死になって否定する。まるで身に余る光栄で身を焦がされるのを恐れるように。
「だから僕じゃないんだよ。僕には何の才もないんだ。恩を返すならヴリヒルーサに返すのが筋だろう。悪い奴じゃなかった。僕も礼を伝えたいくらいだ。ここにはもう、いないがな。そう、これも知らないかもしれないな。君たちを手放したのはまさに僕がヴリヒルーサを失ったからなんだ。僕が力を失ったからなんだ。王に、今や鳥葬王とあだ名される王に奪われた。秘密を話したのが運の尽きさ。本当に馬鹿だよ、僕は」
カールムスはすっかり変わってしまったコトロフに対して、むしろより強い恩義の念を覚える。コトロフがかつての孤独なカールムスの支えになったように、どうやらヴリヒルーサがコトロフの心の支えだったらしい。
「そうだ!」とコトロフが初めて高らかな声を出す。「恩返しだと言うなら札を取り戻してくれればいい」
コトロフは冗談めかして言ったつもりのようだが、カールムスは本心が零れ落ちたのだと見抜いた。
「良いだろう」カールムスは特命を受けた戦士のように請け合う。「必ずや取り戻して見せよう」
「いや、待て。不可能だ。特に鷲であるお前には。そういう力なのだと知っているだろう?」
「私は鷲の王だ。凡百のそれと同じではない。あとは任せろ」
コトロフの制止する声を振り切って、カールムスはやはり変わらぬ決意と共に飛び立った。
数多の国々を攻め滅ぼした地上の軍勢も罪なき人々に恐怖をもたらした空の軍勢も猛禽の長たるカールムスには何ということもない障害だった。最も剛腕の戦士の引く弓ですらカールムスを捉えることはできず、人の野原の鷹など鷲の王にとっては飛べるだけの雛鳥にも満たない存在だった。しかしコトロフから力を奪った王は、嗾ける者ヴリヒルーサ自身は尋常の理の外にあった。
王とて所詮カールムスは狩猟者であり、ヴリヒルーサの力は全く通じた。傲りといえばそれまでだが、カールムスは己が頭を垂れることになろうとは思いもよらなかった。王たるカールムスもまた魔の道に通じてはいたが、ヴリヒルーサには遠く及ばなかった。
城を破り、王に迫るもヴリヒルーサのあらゆる魔の力が鎖となってカールムスを縛り付ける。意に反して翼は閉じ、鉤爪は宙を掴む。ヴリヒルーサが良しと言わなければカールムスは何もできなかった。
たった一羽の起こした戦は数多の犠牲を出しつつも鷲の敗北に終わった。鎖も轡もなしに自由を奪われ、見えない力に戒められたカールムスはしかしその美しさのために消耗されることはなく、王の愛玩として飼われることとなった。
ある夜のこと、いつものように諦めることなく畳んだ翼を振るわせて抗うも、己の無力さを思い知らされるカールムスの元に眠ったままの鳥葬王がやってきた。とても猛禽を使いこなすことなどできなさそうな神経質な顔立ちだ。鷹匠のなりではないが、餌掛けだけは立派なものだった。
王城の一角に設けられた塔の如き止まり木は不可視の鳥籠の内にあり、許可なしには飛ぶことも出来ないカールムスの屈辱的な磔柱だった。餌場と水場は常に新しく取り替えられ、飼われた鳥にとっては最高の環境であったが、カールムスの慰めにはならなかった。
「ヴリヒルーサか?」鋭い嘴をかちかちと鳴らし、カールムスが尋ねる。
給餌係がこのような時間にやってくるはずもない。
微睡みの中の鳥葬王は瞼を閉じたまま答える。
「ええ。ご機嫌麗しゅう、カールムス王」
「ご機嫌麗しく見えるか?」
「定型の挨拶ですよ。皮肉と取らないでください」ヴリヒルーサが鳥葬王を通じて感じの良い笑みを浮かべる。「久しいですね。貴方は私のことを御存じなかったでしょうけれど」
「そうだな。お前自身には特に思うところはない。が、礼を伝えるようにコトロフに頼まれたよ」
「相変わらず、落ちぶれてもお人よしですね、コトロフは」
「それが彼の美点だろう」
「その点は否定しませんがね」
暫く待ってカールムスは再び尋ねる。「それで何の用だ?」
「いえね。まさに同じ質問をしたくてやって来たのです。一体何をしに来たのか、と。ですが、まあ、私くらいしか目当てになりそうなものはありませんし、むしろ何のために私を求めているのか、を知りたいです。あと本当に私に勝てると思ったのか、も」
「王は大丈夫なのか?」
「ええ、よく寝ています。まあ、王に対する裏切りとなる行為はできませんが」
「お前も飼われているというわけか」
「ええ、しかし満足していますがね。集団に貢献してこそ、個に存在価値があるというものです」
「そうか。尽くすのは誰でもいいという訳か。それなら都合がいい」
「というと、やはり――」
「お前の力を失ったことがコトロフの堕落の始まりだろう。私は彼を救うためにここに来たのだ。お前を、札を取り戻すためにな。そして勝てると思っていた。悪かったな」
鳥葬王は勝ち誇るような笑みを耐えきれずに零す。
「いえいえ、気になさることはありません。力ある者の宿痾ですよ。それはそれとして貴方には残念なお知らせです。まさにコトロフは私を取り戻すためにやって来て、しかし捕らえられました。ああ、ご心配なく、まだ無傷です。ただし王はお気に入りの凄惨な刑を御所望でして、まさに明日貴方と全ての鷹の嘴がコトロフを啄むこととなります」
「屑め」
「私が望んだわけではありませんよ。ただ王が私を使いこなしているというだけです。コトロフよりもずっと上手くね」
眠れぬ夜は瞬く間に過ぎ、太陽が頂に上った頃、無数の止まり木が誂えられた刑場にコトロフが連れてこられ、戒めから解放された。勿論ここに逃げ場などない。仮に空を飛べたとしても、止まり木には数多の鷹が待機しており、鋭い眼でコトロフの筋張った肉を品定めしている。カールムスは高台の、拷問だか処刑だか分からない催しを見守る鳥葬王のそばで召使いのように控えていた。
「私の札を奪いに来たのか、コトロフ。この硝子の羽根の美しい鷲を献上したならば貴き地位をくれてやったというのに、愚かにも私を襲わせようとは。古くはよく仕えてくれたことに免じて、今まで見逃してやったというのに、馬鹿な男だ。何か申し開きはあるか?」
コトロフは鳥葬王とカールムスのいる高台を仰ぐ。
「それは僕の札だ。お前よりずっと上手く扱える」
鳥葬王は右手を上げて返答とした。その合図でカールムス以外の全ての鷹が飛び立ち、コトロフ目掛けて襲い掛かる。
コトロフは逃げ回るが無事だったのはほんの一瞬だけだった。すぐに囲まれ、全身を啄まれ、爪に切り裂かれ、血に塗れて地面に倒れる。身を守るように両腕で頭を覆うが、傷に覆われていく。少しも抵抗せず、悲鳴も上げず、ただゆっくりと死に近づいていく。無事だったのは使い込まれた餌掛けだけだ。
鳥葬王は退屈そうにそれを見つめていたが、何に気が障ったのかヴリヒルーサの魔術でカールムスに終わりを命じる。カールムスは直ちに飛び立ち、コトロフの前に降り立つ。他の鷹たちはそれだけで吹き降ろしに煽られて散り散りになった。コトロフとカールムスが対面する。嘴であれ、爪であれ、カールムスの一撃は生身の人間を容易く切り裂き、穿つだろう。
「すまなかった、カールムス。僕が無理を言ったばかりに」
今や処刑者となったカールムスは答えることも出来ず、鋭い嘴をコトロフの肝臓に向けるが、俄かに城内が騒ぎになる。微かな兆しを感ずる間もなく、瞬く間に太陽が隠され、辺りが薄暗闇に閉ざされた。見上げると無数の鳥が空を覆いつくしている。しかしそれは王に傅く空の軍勢ではない。次の瞬間、糞の雨が鳥葬王に降り注ぐ。不浄に塗れた王の怒り狂う声と命令が響き渡る。
すぐさま王の使いこなすヴリヒルーサの魔法がカールムスと空の軍勢を正体不明の鳥の群れへと差し向ける。カールムスはすぐにそれが新たな故国である弧峰に住まう鷹だと気づく。
カールムスが囚われていることを知りながらコトロフがこれを仕掛けたのであれば、あまりに惨い仕打ちではないか。嗾ける者を取り戻すためとはいえ、カールムスとその身内を殺し合わせることになるのは明白だ。
カールムスは涙を堪えながらも太陽に飛び込まん勢いで力強く羽ばたき、親しい者たちの群れに飛び込もうとするが途端に体が自由を得た。
「良かった。賭けだったが、上手くいった」と遥か上空にコトロフの声が聞こえ、カールムスは慌てる。
いつの間にかカールムスの脚にコトロフがつかまっていた。
「おい! 大丈夫なのか!?」カールムスにしがみつきながらコトロフは冷たい空気に震え、白い息を吐き出している。「暫く堪えろ。直ぐに地上に戻る」
「待ってくれ! もう少し離れてからだ!」
コトロフを何とか広くて温かな背中に移し、ことの顛末を聞く。
全てはコトロフの企てだった。コトロフは弧峰を訪れ、カールムスの眷属たる鷹たちに策を授けたのだ。誰よりヴリヒルーサの魔術を知っているコトロフは、どれほど強力な鷹も札の魔力の前には無力であることと、いかに札に宿る魔性が強力な存在だといえども、取り扱う魔術は世界の隅々まで届く無限の射程を持っているわけではないことを把握していた。遥か上空にヴリヒルーサの力は届かなかったのだ。
「ならお前はどうして城に飛び込んできたんだ? 待っていれば良いものを」
「まさに処刑されるためだよ」とコトロフは説明する。「鳥葬王の残虐な催しには全ての鷹が駆り出されるからね。思いつく限り一番の侮辱をすれば君や空の軍勢を嗾けると思った。そして空覆う鷹に挑むべく全ての空の軍勢が上空へと舞い上がり、鷹匠の魔術の射程を抜けて自由を得るという算段だ」
「侮辱されてなお奴が冷静で、射程のことも知っていたら?」
「その可能性が高ければ別の策を講じただけさ」
カールムス王は旧い仲間たちと新しい仲間たちを導き、ヴリヒルーサの力の及ばない遠方へと飛び立つ。さらには国中の猛禽が合流し、以後、この土地は猛禽の寄り付かない土地となった。
コトロフとカールムスは美しい景色を共有する。力強い翼と気高い魂を持つ猛禽の黒雲が、真白な雲とまじりあうようにして蒼穹を越えていく。純白が漆黒によって切り裂かれる様を目の当たりにし、地上に生きる者たちは恐怖を感じ、この世の終わりを予感した。が全ては杞憂に終わり、いずれ忘れ去る。
「札はどうするんだ?」とカールムスは尋ねる。
「もう大丈夫さ。札があっても操られる鷹がいないんだから」
「そうじゃなくて、お前の求めていた、取り戻したかった力だろう?」
「あの力がなくても君を救えた。ならそれで十分さ」