「雅輝さん、ゴーカートに乗ってる?」
こちらに向かってきたゴーカートは、見たことのないものだった。運転席にいる宮本はヘルメットを外してにっこり微笑み、ふたり乗り用の空いてる席を左手で叩いた。
「陽さん、乗ってください!」
「えっ? なんだよ、突然……」
傍にいる佐々木の様子を横目で眺めると、あからさまにおもしろくなさそうな表情をしていた。
(当然だろうな。雅輝の走りを一番近くで見たいと思っているせいで、思いっきり妬いているだろうし)
「陽さんと一緒に走りたいと思って」
「……俺はいいから、佐々木さんを乗せろよ」
佐々木の顔を窺いながら橋本が拒否ると、宮本はむくれて「嫌です!」とキッパリ断った。
「橋本さん、気を遣わないでください。僕は雅輝さんの隣に並んではいけないレベルの、下手な運転しかできないので!」
「や~、国内の大会に出てる佐々木さんが、下手なわけないじゃないですか……」
明らかに自分よりもドライビングテクニックが上であることがわかるため、橋本は必死になって持ちあげた。少しでもこの場の雰囲気を良くしようと試みても、佐々木の表情はぱっとしない。
「雅輝さんには、いろいろ教えてもらうことばかりで、僕の走りがなっていなかったことがわかったんです」
「雅輝から教えてもらってるだと?」
橋本としては説明下手の宮本が、佐々木にきちんと教えることができるなんて、奇跡だと思わずにはいられなかった。
「佐々木さん、本当にアイツから指導を受けてるのか? だって使う言葉は『コーナーはこうやって、くるりんぱと曲がる』とか『こんな感じでよっ☆と攻める』なんていう、曖昧なニュアンスばかりで、難しさを極めているだろう」
橋本が唖然としながら説明した途端に、佐々木はお腹を抱えて笑い出す。
「たっ、確かに雅輝さんの教えは言葉足らずのところがありますが、しっかりそれを考えれば、自ずと答えは出てきますよ」
「マジかよ……」
(雅輝の言葉を読み解くなんて、凡人には無理だったということなんだろうか)
口をあんぐりしたままゴーカートに乗ってる恋人に視線を飛ばしたら、待ちくたびれたのか、いそいそ降りてきて、橋本の腕を強引に掴み、乗っていたゴーカートへと連行する。
「雅輝、いきなりなんだよ」
「陽さんってば、佐々木くんと盛り上がっちゃって、すっごく嬉しそうだね」
宮本は内なる苛立ちを示すように、橋本を押してゴーカートの助手席に無理やり乗せた。
「なに言ってんだ。あれのどこが、盛り上がってると思えるのやら」
他にも文句を言い続けてもなんのその、マイペースを貫く宮本は不貞腐れた状態で橋本にヘルメットを手渡してから、自分用のヘルメットをさっさと被って、会話を勝手に遮断した。
「まったく、めんどくせぇな……」
仕方なく橋本がヘルメットを被り、きちんとシートベルトをしたのを確認するや否や、勢いよくアクセルが踏み込まれる。
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