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隊晴。
(後編)
晴明視点
翌日。
同じ祠。
昨日と同様手を叩き目を伏せる。
『今日は……』
『みんなが健康で、事故に遭いませんように』
一拍置いてから、付け足す。
『……あと、隊長さんも』
「なに?」
後ろにいた隊長さんが言った。
「今、僕の名前出した?」
『え』
『あ、はい。ついでに……』
「ついでで祈られるほど安くないけど」
『だって、昨日の傷、早く治ってほしいですから』
隊長さんの腕に出来た傷は、包帯によって隠されていた。
荒い巻き方。今外れてもおかしくない。
白い包帯に赤が滲んでいる。
隊長さんは少し黙ってから言う。
「神様に頼むくらいなら、病院行けって言えば?」
『それは…そうですけど』
『そう言ったところで、病院行かないでしょ?』
「はは、よく分かってんね」
そんなの、分かりきっている。
『だから、神様に。』
「僕の傷を治してって?」
「笑えないね。それ」
急に隊長さんの声が低くなる。
周りの温度が冷たく感じた。
「まあ、人間より妖怪の方が傷の治りは早いから」
「そんなに心配しないでよ」
笑えないと言っていたのに、今度は半笑いで言う。
……神にも、この人は理解し難い存在なのかもしれない。
「神なんかに頼らなくても、自然に治る」
小さい声でボソッと言う。
だが、僕には鮮明に聞こえた。
……なぜ貴方はそんなに
『……神を嫌うんですか』
思っていることがふと口に出てしまった。
隊長さんは、目を逸らし少しだけ眉を寄せた。
「嫌ってるんじゃない」
「信じてないだけ」
『……どうして』
「神に祈って、叶えて貰えなかったら」
「1番傷付くのは君でしょ?」
『でも、願い事が叶ったら……!』
「所詮偶然に過ぎないよ。そんなの。」
「人ってさ、期待するから辛くなるんだよ」
隊長さんがゆっくり。
髪を揺らしながら。足音をたてながら。
僕に近付いてくる。
じゃりっ。
無意識に、
1歩後ろに下がってしまった。
けどその距離はあっという間に埋められて。
そして─────
鼻が触れるか触れないか。
そんな距離で、ボソッと隊長さんが呟いた。
「もう辞めなよ。」
息が詰まった。
あまりにも低い声色。
怖い。
僕は何も言えなかった。
その後隊長さんは、僕に背中を向け
鳥居をくぐって社を出ていった。
どさっ。
僕は尻もちを着いた。
蘭丸視点。
薄暗い森。
誰もいない時間帯。
周りは、風に木が揺れていた。
僕は翼を広げて、木の上に立っていた。
……くだらない。
朝の祠の光景が、頭から離れない。
小さな社。
手を合わせる晴明くん。
「無事でありますように」
あんなものに縋って……
鼻で笑おうとして、失敗した。
『…馬鹿馬鹿しい』
誰もいないのに、声に出た。
神なんていない。
祈っても、何も変わらない。
それは、十分痛感したことだ。
なのに。
何で思い出すんだろう。
晴明くんの声。
あの、迷いのない願い方。
神が居ると信じて疑わない瞳。
無事でいてほしい、だなんて
拳を握る。
信じない。
信じる意味がない。
そう、分かっている。
………それでも。
視線が、無意識に裏山の方角へ向いてしまう。
……行くわけない
自分に言い聞かせる。
それでも胸の奥に、
小さく、嫌な感覚が残る。
――もし、何かあったら。
その考えを、すぐに打ち消す。
『…………』
少し黙って、
踵を返す。
祠とは、逆の方向へ歩き出した。
けれど。
歩きながらも、
頭の中には、あの言葉が残ったままだった。
───みんなが、怪我しませんように
じゃりっ。
小石を踏む音だけが、森に残った。
信じないと、何度も言い聞かせた。
それでも、あの声が離れなかった。
気づけば、祠の前に立っていた。
……最悪だ。
誰もいない。
いつの間にか夜になっていた。
森は暗く、ほとんど灯りがないほど。
小さな社。
夕方と同じ場所。
手を合わせる理由なんて、ない。
『…………』
しばらく、動けなかった。
笑ってやるつもりだったのに。
馬鹿にするつもりだったのに。
目の前の祠は、
何も言わず、そこにあるだけだ。
『……笑える。』
そう呟いてから。
……それでも。
僕は、ゆっくりと手を上げた。
パン。
乾いた音が、森に響く。
別に、信じてる訳じゃない。
『ただ……』
言葉が、詰まる。
晴明くんの顔が浮かぶ。
あの、真っ直ぐな目。
『晴明くんが、怪我しませんように』
……本当に、馬鹿みたいだ。
『……晴明くんが』
声が、小さくなった。
『……怪我、しませんように』
なぜ繰り返し言ったのか。
自分にも理解出来なかった。
何も起きない。
風の音だけ。
……ほら。
『やっぱり』
『何もない』
手を下ろそうとした、その時。
がさっ。
背後で、音がした。
『……?』
振り返る。
闇の中から、誰かが出てくる。
「……隊長さん?」
聞き覚えのある声。
『……晴明くん?』
姿を見た瞬間、違和感に気づいた。
歩き方が、少しいつもと違う。
シャツの袖口が、不自然に下がっている。
『……どうしたの』
「……逃げて、来ちゃいました」
そう言って、近づいてくる。
風に揺れて、袖がずれる。
赤い染み。
『……』
一瞬、言葉が消えた。
『……それ…何。誰から逃げてきたの?』
視線を追うと、
シャツの端が、滲んでいる。
「……これは大したことないですよ」
「怖い集団に絡まれて…」
「鬼妖怪……だったかな」
そう言う声は、いつもより軽い。
『……』
喉が、ひくりと鳴った。
……何で
さっき。
祈った、ばかりなのに。
『……怪我、したの』
「ちょっとです」
笑おうとして、失敗した顔。
胸の奥が、冷たくなる。
そして、晴明くんの背後から声が聞こえた。
3人の妖怪。
うち1人が角を持った鬼妖怪。
晴明くんが、ビクッと体を震わせた。
こいつらか。
3人は、声を荒らげながら。
でも嘲笑しながら。
晴明くんに手を伸ばした。
だから、僕が。
僕が、殺ってやった。
鬼妖怪とはこんな容易いものか。
いや、違う。
ただただこいつが弱いだけ。
残り2人は弱小妖怪だった。
剣を一刺し。
それで終わり。
晴明くんは変わらず震えてた。
僕の服を引っ張って必死に叫んでいたけれど、
そんなの僕はお構いなしだった。
僕の服を掴んでいた手は、
そのうち組まれ、何かを願っているみたいだった。
今更何を願っているのか。
もう、遅いのに。
晴明くんの腕の袖から、少しだけ赤が覗く。
『……』
神様は、
僕の願いを叶えてくれなかった。
僕の願いは叶わなかった。
『……やっぱり』
声が、低くなる。
『……神なんていない』