テラーノベル
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「……おやすみ」
声に反応する前に、眠気がまた全身を包んでいく。
深いところへ落ちていく途中で、
首の奥にじんわり熱だけが残っていた。
「……若井。ほら、着いたよ・・・?」
涼ちゃんの声が、耳元でやさしく響いた。
タクシーが停車した音と、静かな車内に残る温もり。
俺は、もう自分の足に力を入れることもできなかった。
「ん……」
喉の奥で返事のような音を漏らしながら、
ポケットの中を手探りで探す。
スマホを取り出す。指がうまく動かない。
それでも、画面はなんとか開いた。
──通知がひとつ。元貴からだった。
「疲れた。」
たった一言のLINE。
指が止まる。
返信しようとしたのに、文字が打てなかった。
頭が回らない。
しかも、連絡は2時間前に来ていた。
どうしよう。このままじゃ、無視したことになってしまう。
車から降りた瞬間、視界がぐにゃりと崩れた。
「ほら、だめだってば……」
涼ちゃんがすぐに肩を差し出してくれる。
体を支えられて、玄関まで引きずられるように進む。
恥ずかしさよりも、ぼんやりとした不安だけが残っていた。
涼ちゃんがエントランスで元貴に電話をしてくれていた。
そしてエントランスの鍵が開く。
暫く、マンションを進むと、
「……何やってんの、それ」
低く、静かな声が聞こえた。
見上げると、玄関の内側に元貴が立っていた。
照明が頭上から差し込んで、
彼の目元だけがやけに影を落としている。
声に怒気はなかった。
「……送ってきた。さすがに放っておけなくて」
涼ちゃんが、さりげなく答えた。
俺の身体を支えたまま、少しだけ前に出る。
元貴は、その視線をただ静かに受けていた。
「そうなんだ。ありがとう」
まるで表情を崩さずに、元貴は言う。
「心配だったよ。こんなになるまで飲んでるって、聞いてなかったし」
何も答えれない俺に涼ちゃんが代わりに答えた。
「……大丈夫。帰ってこれたしね」
「涼ちゃんの支えがあったからでしょ?」
涼ちゃんが少し笑ってみせた。
「……いつでも僕は若井を守るつもりだよ」
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コメント
3件
おおもりさんもわかいさんのことをだいじにおもってるってことなんですかね、
悪気なく、大森さんからの連絡を返せないで無視してしまう形になっちゃった若井さん……既読だけが付いたLINEをみて、大森さんはいったい何を感じたのか…… 大森さんも涼ちゃんも、表情には出さなくてもこちらまで伝わってくる場のぴりついた雰囲気に、私まで緊張してきました……涼ちゃんの宣戦布告ともとれるセリフが…!!とっても好き…!!
ついに大森さんが登場した…! 不穏な空気にドキドキします…!