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夜。
台所の電気だけつけて、
冷蔵庫を開ける。
中身を見て、
少し考えてから
適当にフライパンを出した。
ちゃんとした料理じゃない。
切って、焼いて、味付けするだけ。
音だけが、
部屋に響く。
油がはねて、
その瞬間――
指先に、赤い線が見えた。
「あ……」
左手の指。
小さな傷。
朝、
キーボードに伏せた時。
鍵盤の端で、
引っ掻いたんだろう。
しばらく、
じっと見る。
でも、
痛みはほとんどない。
血も、
もう止まっている。
(まあ、いいか)
そう思って、
指を軽く拭くだけ。
絆創膏も貼らず、
そのままフライパンに戻る。
音は、
さっきと変わらない。
焼ける匂い。
箸が当たる音。
自分の体のことなのに、
特別な感情は湧かない。
心配も、
焦りもない。
ただ、
「そういえば」
気づいただけ。
料理ができて、
皿に盛る。
一人分。
椅子に座って、
一口。
味は、
分からない。
でも、
食べられる。
指の傷は、
視界の端にあるまま。
それでも、
気にせず箸を動かす。
(大したことじゃない)
そう思いながら、
夜は静かに進んでいった。