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次の日。
涼ちゃんは、
いつもより少し早く
スタジオに入った。
照明はまだ全部ついていなくて、
空気が冷たい。
キーボードの前に座り、
楽譜を広げる。
リハーサルが始まると、
音は問題なく出た。
指も、
リズムも、
外から見ればいつも通り。
ただ、
合間に小さく咳をする。
一度、
二度。
涼ちゃんは
マスクをつけている。
それを見て、
若井が近づく。
「……風邪ひいた?」
視線を上げずに、
涼ちゃんは短く返す。
「多分」
それだけ。
心配する隙も、
会話を続ける余地もない。
若井は
何か言いかけて、
結局やめた。
涼ちゃんは
楽譜に視線を落とし、
次の小節に集中する。
咳の音は、
演奏の合間に
消えるように紛れた。
スタジオには、
音だけが残った。