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#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
◇
祭りまで、あと四日。
村中では朝から準備が進められ、広場には少しずつ屋台の骨組みが組み上がり始めていた。
作業小屋の中にも、和紙や竹ひごが積み上げられ、夏祭り独特の慌ただしい空気が漂っている。
「ふぅ……。」
イリアは完成した灯籠を棚へ並べ、小さく息をついた。
「もうだいぶ準備が進んでますね。」
「祭りまで残り四日ですからね。」
テルは窓の外を眺めながら微笑む。
村人たちも忙しそうに走り回っていた。
「わたくし、この雰囲気、とっても好きですわぁ……。」
プリムローズは嬉しそうに出来上がった灯籠を眺める。
祭り前の少しだけ浮き立つ空気。
村全体が一つの行事へ向かって動き出す、この時間が好きだった。
「まったく、呑気なものね。」
リーナは苦笑混じりに肩をすくめる。
その時、小屋の扉が静かに開いた。
「すみません……。」
「お待たせいたしました……。」
ティモシーだった。
以前よりも少し疲れたような顔をしている。
「大丈夫ですよ。」
イリアは空いている椅子を引いた。
「ここ、座ってください。」
「ありがとうございます……。」
ティモシーは深く頭を下げる。
椅子へ腰掛けても、その表情は晴れなかった。
重たい空気をまとったまま、小さく息を吸う。
「えっとですね……。」
「さっきの会議で、 祭りへの参加は……全員強制ということに決まってしまいました。」
部屋の空気が一瞬で重くなる。
「……はぁ。」
リーナは額へ手を当てた。
「結局、こうなるのね。」
ティモシーは申し訳なさそうに頷く。
「とりあえず……半神様方の確認は取れましたかね?」
「東棟は大丈夫です。」
テルが答える。
「皆さん、むしろはしゃいでましたね…。」
「そうですか……。」
ティモシーは少しだけ安心したように笑う。
「わたくしたちの方は……。」
プリムローズはイリアへ視線を向ける。
イリアは困ったように笑った。
「一人だけ……断固拒否してらっしゃる方がいまして。」
「……えぇっと。」
ティモシーは少し考える。
そして苦笑した。
「何となく、想像できます。」
全員が同じ人物を思い浮かべていた。
「……どうしましょう。」
ティモシーは頭を抱える。
テルは遠慮がちに口を開く。
「別に、一人くらい欠席でも……。」
「そうですよね……?」
「提案したんですけど…『ダメです』の一言で終わりました。」
「はぁ……。」
リーナは呆れたようにため息をつく。
「ほんっとに頭の硬いやつらね。」
「……とりあえず。」
イリアは立ち上がる。
「帰ったら、もう一度だけ話してみます。」
その言葉には、小さな決意が込められていた。
◇
夕方。
屋敷へ戻ったイリアは、廊下を歩き回っていた。
「あ、いた。」
ようやく見つけた。
窓際でぼんやり外を眺めていたミシェルが振り返る。
「やっと来た。」
「めちゃくちゃ探し回ってたらしいじゃん。」
悪びれる様子もなく笑う。
「何?」
「どうしたの?」
「お祭りの話です。」
その一言だけで、ミシェルは察した。
「……だから。」
「それは行かないよ?」
「……。」
イリアは小さく息をつく。
「それは……わかりました。」
「でも… お祭り、強制参加になったんです。 なので……。」
「別に一人くらいいなくても良くない?」
即答だった。
「良くないんです。」
イリアも譲らない。
「頑固頭。」
「それは決めた人たちに言ってください……。」
イリアは苦笑するしかなかった。
ミシェルは少し考える。
そして突然、ぱっと顔を上げた。
「じゃあ分かった!」
「水風呂に入って風邪ひけばいいじゃん。」
「それは絶対にダメです!!」
イリアは思わず声を張り上げた。
「じゃあどうしろって言うのさ。」
「できれば……。」
イリアは真っ直ぐミシェルを見る。
「参加してほしいです。」
「無理。」
迷いは一切ない。
「……どうしても?」
「どうしても。」
短い沈黙。
イリアは小さく笑った。
どこか困ったような、それでも諦めていない笑顔だった。
「わかりました。」
「まだお祭りまで四日ありますから…… やれることは、やってみます。」
「おー。」
ミシェルは軽く手を振る。
「さっすが。」
「……本当にそう思ってます?」
「んー、思ってる思ってる。」
いつもの軽い口調。
「ありがとね。」
「それじゃ。」
そう言って歩き去ってしまう。
「あっ!」
イリアは思わず手を伸ばした。
「もう……。」
届かなかった。
◇
数分後。
二階。
静かな廊下に、小さくノックの音が響く。
返事も待たず、ミシェルはヴェルクの部屋へ入った。
ヴェルクは机に向かったまま、顔も上げない。
「……うるさい。」
それが最初の一言だった。
「あー、ごめんごめん。」
ミシェルは慣れた様子で笑う。
少し沈黙が流れる。
「……祭り。」
「参加するの?」
ヴェルクは書類から目を離さない。
「興味ない。」
「はぁ。」
ミシェルは肩を落とす。
「またそれ。」
「……。」
ヴェルクはようやく口を開いた。
「そっちだって。」
「また逃げてるくせに。」
その言葉で。
部屋の空気が止まった。
ミシェルの笑顔が消える。
「……。」
数秒。
沈黙だけが流れた。
「ほんっとに。」
ミシェルは笑った。
笑っているのに、その目だけは笑っていなかった。
「人の心ないんだね。」
「屋敷じゃなかったら撃って殺してたよ?」
「どうせ殺せないでしょ。」
ヴェルクは淡々と返す。
「だから、どうでもいい。」
「はぁ、こいつ……。」
「それに、もう人じゃないし。」
ヴェルクは立ち上がり、扉へ向かった。
そして振り返りもせず、静かに言う。
「イリアさんに迷惑かけ過ぎないようにしなよ。」
一拍置く。
「また嫌われるよ。」
カチャ。
静かに扉が閉まる。
残されたミシェルは動かなかった。
握り締めた拳だけが、小さく震えている。
「…………チッ。」
舌打ちが一つ。
誰もいない部屋へ響いた。
「マジで地雷全部踏んでくじゃん……。」
その声には、呆れと少しの不安が混じっているように聞こえた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ 人の心とかないんか?
「お祭り強制参加」って流れ、一気に空気が変わったのがすごく伝わってきました。作業小屋の和やかな空気から、一転してミシェルとの攻防戦……そしてヴェルクの一言で凍りつく終盤。特に「また嫌われるよ」の台詞、刺さりました。ミシェルのあの軽い口調の裏に何があるのか、すごく気になる。イリアがどう動くのか、祭りまであと四日、本当に楽しみです。