パパイア 様より、陸海空×日本
※「拝啓、私のご先祖へ」シリーズ?からの閲覧をオススメします、めちゃくちゃ長いです
ふと目が覚めると、そこは会社ではなかった。
「…ここは…」
確かデスクで寝落ちたはずなのだが、自分が今いるのは薄い布団の上。
もしかして誘拐されたのか、なんて思ってみるものの、何かされたような形跡は一切ない。
「俺の部屋に似てる…」
似てるというか…俺の部屋そのものだ。
覚えているより新しく、古くはないようだが。
「…なんか、俺の声高くね?」
まるで幼児のような声だ。
嫌な予感がしてカレンダーを見てみれば、20年ほど前の日付だった。
20年も前となれば、自分は約5歳頃。
「うそ…」
またあの日々を過ごすことに、過ごし直すことになるのか?
大人ならともかく、子供があんな重い拳を受けたらどうなるか…今度こそ死ぬ気がする。
そんな風に絶望していると、低い声が聞こえてきた。
「まだ寝ているのか?早く起きろ」
紛れもなくあいつの声だ。
「お、起きてます、おはようございます…」
「チッ…起きているなら、妹を連れて早く降りて来い。3分以内に来なければ飯は抜きだ」
「はいっ」
とにかく状況を整理してみると、自分は過去に戻り、また日々を過ごさないといけないらしい。
食事抜きとは言っていたが、きっとおまけで殴られるだろう。
そんなのは御免なので、やけに大きく見える扉を開けて階段を降りた。
「…ふん、面白くない…早く食べろ」
「わ、わかりました…」
まだ小さい妹を連れ、怯えた少年のフリをしながら食事を食む。
遅れたら殴れることを期待したのだろうが、2周目でそんな愚行をするわけがない。
かろうじて柔らかくされている米を妹に与えつつ、今回は上手く立ち回ろうと決意する。
とにかく従順に従って、反抗心を見せないことが大切だ。
前は下手に反抗したり、良い成績を取ったから奴らの目に止まってしまった。
先ほどのように面白くないと思わせることができれば、無能だと思われれば、前よりは安全に暮らすことができるはず。
大人しく大人しく、どんな理不尽にでも従って、成績は平均より少し上。
鈍臭くて使えないやつになろう。
そうやって上手く立ち回れば、きっと解放される。
今回こそ、真の幸せを掴んでやるんだ。
「ご、ごちそうさまでした…」
「…皿は自分で片付けろよ。私は少し出る。何かあれば向こうの部屋にいる海と空にでも聞け」
「わ、わかりました…お気をつけていってらっしゃいませ…」
「…チッ、つまらん」
呟くように、吐き捨てるようにそう言って、部屋…否、おそらく家を出た。
さて、それではこれからどうするか…
見張られているかもしれないから、迂闊に素は出せない。
とりあえず、健気な少年にでもなろう。
「にゃぽん、ご飯はおいしかったですか?」
「ん!」
にっこり笑える妹に少しムカついたが、なんとか笑顔を保って笑顔を返した。
「食器を片付けて、部屋に戻りましょう」
「んー!」
2人分の食器をなぜ俺が。
そんな思いを隠して、台所まで運びに行く。
「…どうしましょう、届きません…」
どこからか見ているであろう悪魔2人にアピールするかのように、俺は健気にぴょんぴょん飛び跳ねる。
皿を割ってやってもいいが、そうすると普通に殴られるので気をつけなくては。
「うー、うーん…!」
背伸びをして片付けを頑張る俺の手から、皿が掠め取られた。
「わっ!」
驚いてバランスを崩し、尻餅をついてみる。
見上げれば、やはり見張っていたであろう大人が2人。
海軍と航空隊だ。
「ねえ、なんでそんなに面白くなくなったの?お前」
「うッ…」
尻餅をついたのは失敗だったろうか。鈍臭いフリのつもりだったが、航空隊…通称空は、足の先で腹を踏みつけてくる。
「海、ちょっとこれ片付けといて。僕はこいつとお話してくる」
「わかった。俺の分も残しておいてくれよ」
「はいはい。早く立てよ、こっち来い」
「は、はい…」
…5歳頃の自分に合わせてから、目立たなくなればよかったかも知れないな。
まあ、俺は優秀だからできてしまうわけで。
あの時は死を覚悟するくらい拷問紛いのことをされたものの、普通にめっちゃ痛くて、我慢せず泣いたら許された。
拍子抜けだったんだろうな、ここは地獄だと知った後の俺は、とにかく泣かないことで反抗をしていたから、諦めたんだなって思われたはず。
そこからの関心は一気に薄まって、前より会話みたいなことをする時間がぐんと減った。
前のは会話じゃなくてご機嫌取りだから、今の方がマシなコミュニケーションを取れているのが皮肉だ。
さて、そんなこんなで俺は18になった。
成績は常に平均より少し上だったから殴られてきているが、使えない判定されたらしく、俺は家で置物状態。
妹もそんな感じだから、あいつらは俺たちのことを疎ましそうに無視をする。
いい気味だ。勝手に見込まれて地獄が始まるくらいなら、自分の経歴を犠牲にしてでも裏切ってやった。
本当に最高の気分だ。
…昨日まで、そのはずだったんだけど。
「は…で、出ていくってどういうことですか、僕を置いていくつもりですか?ねえ、何か答えてください」
「私はもう働けるしさ、高校行けないのは残念だけど…こんな家にいるよりマシだもん。バイトでもして、 1人で生きていくから。お兄ちゃんはどうするの?もう18歳じゃん。なのにずっと家でビクビクしてていいの?」
「ふざけないでくださいよ…出て行くなんて絶対許しませんから」
「許さないって何?お兄ちゃんは私の何なわけ?もういいから、どうせあの3人は私のことなんか気にも留めてないし。寝てるうちに出ちゃわないと」
リュックや手提げの鞄に荷物を入れて、にゃぽんは家を出ようとしている。
兄の俺を置いて。1人で。
「それじゃあね、お兄ちゃん。生きてたらまたどっかで会えるかもね」
にこっと微笑んで、にゃぽんは俺に向けて手を振った。
小さい頃の無邪気な笑顔はどこへやら、いつのまにかあの子も大人になっていたようで、なぜか寂しくなる。
「…兄妹のくせに、一緒に地獄に堕ちてくれないのかよ」
閉じられた扉から出る気はなく、その部屋が大きな鳥籠のように感じた。
まあ、一羽は抜け出せたみたいだけど。
その7年後、俺は旧国主催の社交パーティーとやらに連れて来られた。
「いいか?貴様は我々の親類などとは思っていないが、決まりには従わねばならない。血が繋がっているだけの他人だが、我々に恥をかかせるなよ」
「もう1人の小娘の方が、まだ色々使えそうだったんだけどねぇ…残ったのがお前なんて、僕らって運悪いよ」
「どっちでもいいだろう、そんなこと。使えないものは使えないのだから、2人揃っていようがいまいが、誰も欲しがらんさ」
「あはは…ごめんなさい…」
反吐が出そうだ。運が悪い?それならその運の悪さは一族柄だろうさ、俺だって史上最悪ってくらいに運が悪い。
お前らみたいな存在に出会わなかったら、もっと人生楽できたのに!
仮にも生きている同じ種族だっていうのに、お前らは俺と、ついでに妹も道具にしか見えないんだろう?
はぁ…ここらで人生リセットしたいし、こいつらの知り合いとやらに酒でもかけてやろうか。
会場に入る前からイライラMAXの俺を連れて、奴らは先を歩く。
シャンデリアでも降ってきて、こいつらに直撃すればいいのに。
「やぁやぁ、大日本帝国御一行様じゃないか。諸君、久々だが元気だったかな?」
彼は確か…ナチス・ドイツ。ドイツの父親らしい。
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら、演技ったらしく挨拶してくる。
「あぁ、お前も相変わらずそうで何よりだ。本日はこのパーティーのご招待に感謝の意を表そう」
「堅苦しいなあ、陸軍。まあいい、私の倅を紹介しようか。ドイツ、こちらに来い」
「はい、父さん」
思わずキモいと言いそうな口を塞いで、薄く微笑み続ける。
なんでも俺と全く同じ状況で時間が巻き戻っていたが、こちらと違って興味をなくさせる方法がなく、多少マシだが前と変わらない生活を送っているらしい。
どこで出会ったかと言えば、ギリギリ前と同じ職に就いたら、前と同じような境遇のドイツとロシアがいただけだ。
まあ酒とか飲むくらいの仲ではあるけど、その時は飾っていないから違和感がある。
「初めまして、ドイツ連邦共和国といいます。あなた方のことは父さんから聞いています、今日は楽しんでいただけましたら幸いです」
「やはり君はしっかりしているな。うちのものにも見習わせたい」
「これ、うちのです。挨拶して」
これ扱いか…まあいいや、こいつらに人間として認識されたら終わりなのだから。
「は、初めまして、日本と申します…本日はお招きいただき、ありがとうございます」
自信なさげに視線を彷徨かせて、もじもじと情けない感じを演出してみた。
我ながらかなりの名演技だと思う。
「初めまして、私はナチス・ドイツだ。以後よろしく」
「は、はい!よろしくお願いしますっ!」
「…はぁ」
後ろからため息を吐かれながらも、なんとか挨拶は終わった。
最低限のマナーを弁えていれば、ひとまず怒られることはない。
その後ロシアやソ連とも挨拶を交わし、旧国の悪魔たちはどこか別の場所で酒を飲みに行った。
あいつらが離れたことをよく確認して、俺はため息を吐く。
「はぁ〜…クソだわ」
「旧国どもが離れた瞬間それかよ」
「猫何匹被ってたらこうなるんだよ」
「うるさい黙れ。お前らだって似たようなものだろ」
「1番ひどいのはお前な」
「挨拶の時、見てて気持ち悪かった」
「あらやだ一緒。ドイツもきもかったよ」
「お前ら2人ともキモイ」
刺々しい言葉ばかりを並べつつ、酒で程よく気分を高揚させる。
くるくると氷を回してやれば、カランと小気味良い音を立てた。
「なあ聞いて、俺んとこのクソジジイたちさ、俺の妹のこと小娘だってw」
「流石すぎるな、それ。お前もこれ扱いだったし」
「完全に扱いがモノ」
「だよな〜、やっぱカスだわ」
酔っ払って本音を撒き散らす大惨事にはしたくないので、水と交互にちびちび酒を飲む。
ロシアはやはりというか、ガブガブと急性アルコール中毒になりそうなくらい飲んでいる。少し羨ましいが、俺がやれば 肝臓と明日の俺が死ぬ。
「俺のとこも聞いてくれよ。この前ジジイが俺の部屋に居座りやがってさ、ストレスで蕁麻疹出た」
「ウケるw拒否反応すごw」
「明らかに顔色悪くても、基本的に無視だもんな、あいつら」
そんな風に愚痴や悪口を言い合っていれば、自然と時間は早く進んでしまうもので。
あっという間に終わりに近づき、旧国の奴らも戻ってきた。
「良い子にしていたか?ロシア」
「…もちろん」
「もう終わってしまうのか、少し寂しいなぁ…そう思うだろう?ドイツ」
「そうですね。あっという間でした」
「…」
なるほど、俺には声をかける価値もないと。
まあ、これで今回のイベントも無事乗り切れ…
「そういえば、お三方に聞いてほしいものがあるんです」
「俺たち2人で作った、結構力作のやつです」
「ほう?聞かせてみてくれないか?」
「はい!」
「…何を流す気なんですか…?」
すごく、ものすごく嫌な予感がする。
『はぁ〜、俺って本当優秀すぎ』
「!?」
『あの旧国ども、さっさといなくならないかな。俺の時代来てほしい』
『わざわざ平均くらいまでレベル下げるのキツすぎじゃない?え、わかんない?そっかぁ』
『俺さぁ、妹も道連れにしたかったんだけど、そもそもあいつらの眼中から外れられたからいいかなーって思い始めてるんだよね」
『あいつら、俺がわざと馬鹿になってるの気づいてないのやばくない?まあ仕方ないか!あはは!』
「「「………」」」
流れ続けているのは、俺の声。
ドイツやロシアと飲んでいた時にこぼした愚痴と悪口の数々だ。
「と、止めてくださっ」「いいや、止めなくていい。このまま聞かせてくれ」
無理矢理ドイツからレコーダーを奪おうとしたが、空のやつに抑えられてできなかった。
「っ裏切り者!お前らだって一緒のことしてるくせに!」
口で抵抗するしかなくなった俺はそう叫んだが、酒のせいで頭が回らず、最悪のタイミングだったことを思い知る。
「へぇ…それがお前の本性か」
「ひっ…」
「日本、悪いけどさ、こうするしかないんだよ。お前だけいい感じに免れて、平和そうに暮らしてるのがムカつくから 」
「俺たちが怖い目に遭ってる間、お前はのうのうと演技だけしてたら平穏な生活なんだろ?それがすごく羨ましい」
「「だから、壊してみた」」
「お前、ら……結局…結局お前らも頭おかしいのかよ!!なんで幸せになれた俺のことを引き摺り下ろそうとするんだよ!!わざわざそんなものまで作ってさぁ!!お前たちだって同じことしてるのに!!お前たちだって、猫被って演技して、色々捨ててきたんだろ!?俺も一緒だろ!!なんでそこで差ができるって思うわけ!?!」
「元々見下してたのは知ってるぞ、日本。俺たちの環境の方が悪いって笑ってたことくらい、とっくにな」
「まあ、そんなことしてなくても作ってたけどな」
楽しそうに笑うあいつらが恨めしくて仕方がない。
あぁ見下してたさ、環境を変えられなかった2人を見て嘲っていた。
だからって、まさかこんなことをされるなんて思ってなかった。
「はいはい、落ち着いてくれる?人様のところに手を出しちゃいけません」
「っ離せ!!」
「…くくくっ、やはり私たちの見立ては間違いではなかったようだな。ありがとうドイツくん、ロシアくん。今日は本当に素晴らしく楽しい日になった」
「それならよかったです。日本、元気でな」
「“家族”で仲良くな」
「ふざけんなっ!!くそっ…離せってば!!」
「…うざったいよ、そろそろ」
暴れて抜け出そうとしていたら、突然床に押し付けられて、バキャッと膝関節を逆の方向に曲げられる。
「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ あ゛!!!!」
「うわ、痛そう」
「今までのツケってとこだな」
「ふ…ぐ…ぁしが…ッ」
「泣くなよ?泣いたら腕も折るぞ」
あまりの激痛に泣くことも許されず、地面に這いつくばる自分。
さっきまでひた隠しにしてきた本当の自分が、仮にも友人だと思っていた奴らに泥水を啜らされている。
「それじゃあ帰ろう。そんなんじゃ歩けないだろ?海が背負ってくれるよ」
「俺かよ…まあいいけど」
「だ、だれかっ、たすけ…」
「気をつけて帰れよ〜」
「またな、お前ら」
「うぁッ゛…そこ、触んなッ゛…」
「お前口悪いなぁ。まずはそこから教育だな」
「や゛、いゃ…ごめんなさ゛い…ゆ、ゆるして…くださぃ…」
離れていく裏切り者の声と、近づく悪魔との距離。
酒のおかげか、痛みは気絶するほどではない。
しかし折れ曲がった足は揺れるだけでも痛く、こいつらのことだから病院にも連れて行かれないのだろう。
こんな状態の怪我人に家事をさせるようなやつらでないことを祈るが、教育の一環ならやりかねない。
だが、意外にもそんな事態にはならなかった。
なぜなら、ペットのように杭に鎖を繋げられ、動けないのをいいことに世話を焼かれる羽目になったからである。
「何がしたいんですか…?」
「家族との時間を過ごすのは悪いこと?まだ足は治ってないんだから、大人しくパパに甘えてよ」
…まあ見て通り、完全に身内にされた。
ゲームなどの分岐によって最悪の結末というものがあるが、俺は見事なまでにそのルートを辿ったらしい。
「食事は自分で食べられます…腕は無事ですから…」
「そうか、じゃあ折るな」
「え」
そんなノリで右腕も逆方向に曲げられたこともある。
「今まで私たちに嘘をついていた分、お前の実力を見極めねばなるまい。今から問題を提示する。きちんと答えるように」
「また嘘をついたら、次は折れていない方の足を切り落とすぞ」
「は、はい…」
恐ろしくて普通に答えてみたら、更に恐ろしいことにもなった。
「お前嘘吐きだね。全問正解じゃん」
「ふむ…自分の能力を最大限隠し、無能と判断されるように立ち回っていたわけだ。かなり賢いな」
「まあ、俺らの見込みが間違いなわけないよな」
「それはそれとして、嘘吐きにはお仕置きだね」
「…え?」
「片目までならセーフだよな?」
歴史は改変できないって聞いたことはあるけど、前より酷いことになるなんて聞いてないよ。
コメント
17件
はい、そうなんです(笑) あ〜残念。垢持ってられないんですね…もっと、語りたかったなぁ〜…pixivの方は多分「ヒイラギ」で検索したらでませんかねぇ?
もうほんと大好きです…………… バットエンド大好きマンなのでまじで終始最高でした🙏🏻❤️🔥
ありがとうございます…! 私自身、サカナ様の書く作品がエネルギー源と言っても過言ではないのでいつも無理なお願い本当に有難うございます…!それと駄作を読んで下さり有難うございます!!この垢は裏として使わせてもらっているものでして、結果的に騙すような形になってしまいすみません。是非、pixivの方も良かったら読んでみてください…!!良ければ、Xのフォロリクもどうぞ…!!