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こさめは朝から落ち着かなかった。
理由は分かっている。
🦈「……すちさん、いるかなぁ」
ぽつりと零した声に、隣を歩いていた先輩看守が呆れたように笑う。
「お前なぁ。担当初日であそこまで懐く新人初めて見たぞ」
🦈「だ、だって優しかったし……」
「だからって気を許すな。あいつは死刑囚だ」
その言葉に、こさめは口を閉じた。
分かってる。
ちゃんと分かってる、つもりだった。
けれど頭の中に浮かぶのは、昨日の穏やかな笑顔ばかりだ。
死刑囚、という言葉と、すちの姿がどうしても結びつかない。
🦈「……はい」
小さく返事をしながら、こさめは担当区画へ向かう。
重い扉が開く。
冷たい空気。
静かな廊下。
そして、一番奥の独房。
🍵「おはよ、こさめくん」
先に声を掛けてきたのはすちだった。
床に座ったまま、のんびり手を振っている。
こさめはぱっと顔を明るくした。
🦈「お、おはようございます!」
🍵「元気だねぇ」
🦈「えへへ……」
自分でも単純だと思う。
でも、ここで笑ってくれる人がいるだけで、少し安心した。
先輩看守はそんな二人を見てため息をつく。
「……じゃあ見回り終わったら記録まとめとけよ」
🦈「はい!」
先輩が去っていく。
廊下に二人きりになると、しんと静寂が落ちた。
こさめは鉄格子越しにすちを見る。
🦈「……あの」
🍵「ん?」
🦈「すちさんって、怖くないんですか」
🍵「何が?」
🦈「その……ここ、とか」
言いながら、自分でも変な質問だと思った。
けれどすちは少し考えてから、ふわりと笑う。
🍵「怖いよ」
その返事は意外なほどあっさりしていた。
🍵「毎日怖い。朝起きても、次の日が来る保証ないし」
🦈「……」
p🍵「でもまぁ、怖がっても変わらないからねぇ」
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穏やかな口調だった。
なのに、こさめの胸はぎゅっと締め付けられる。
“次の日が来る保証がない”。
そんな言葉を、こんな静かな顔で言わないでほしかった。
こさめは思わず鉄格子を握る。
🦈「……やだ」
🍵「ん?」
🦈「そんなの、やです」
自分でも驚くくらい、強い声が出た。
すちは目を丸くする。
🍵「こさめくん」
🦈「だって、すちさん優しいのに」
🍵「……」
🦈「悪い人に見えないのに」
空気が止まった。
すちは何も言わない。
その沈黙に、こさめははっとする。
🦈「あ……ご、ごめんなさい……!」
踏み込みすぎた。
新人のくせに。
死刑囚相手に。
まだ昨日あったところなのに。
でも、本当にこの人が罪を犯したとは思えない。
いろんな死刑囚の人たちを昨日見たけれど
ほとんどの人がこさめにむける眼は絶望か、怒りだった。
でもすちさんだけ優しかった。
焦るこさめを見て、すちはくすっと笑った。
🍵「ほんと、素直だねぇ」
🦈「うぅ……」
🍵「でも、そういうとこ嫌いじゃないよ」
優しく細められた目。
その瞬間、こさめの心臓が変な跳ね方をした。
どき、と。
胸の奥が熱くなる。
なんだこれ。
混乱するこさめをよそに、すちは静かに窓のない天井を見上げた。
🍵「……もし俺が、本当に悪い人だったらどうする?」
その声はひどく静かだった。
こさめは答えられない。
答えられるほど、まだ何も知らないから。
するとすちは、小さく笑う。
🍵「ま、いいや」
そしてぽつりと呟いた。
🍵「……こさめくんには、知られたくないし」