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供養です。もっと書きたかったな~
「次に、連続殺人事件の続報をお伝えしま────」
またか。
僕はテレビを視界の端に写しながら、もぐもぐと朝食を取る。今日は僕の好きな目玉焼きパンだ。美味い。
「やぁねぇ、またこのニュース?怖いわねぇ~…」
母はこちらに話しかけているのだろうが、僕は無視した。もう少しで家を出なければいけないからだ。
「あ、もう行くの?」
もう幾分か暖かくなったが、まだ肌寒いため出してある薄いこたつから立ち上がると、母が僕を呼び止めてきた。
「初登校、頑張ってね。」
鞄を背負い、玄関の姿見で一応制服を確認する。玄関までついてきた母に軽く「行ってきます。」とだけ言い、僕は外へ出た。
僕は先週、高校生になった。
金曜日に入学式ってのは、ちょっとやめて欲しいものだが、土日に爆睡できたのでまぁよしとしようか。
不思議なことに、いや、別に不思議では無いが、僕はほとんど中学校時代を覚えていない。何をしたのか、どうやって過ごしたのか。
何故なら、僕は人の視線が大嫌いだからだ。
色が無いのだ。この世界には全く、色が無い。
小さな頃は違ったはずだ。鮮やかな記憶はきちんと残っている。
そう、中学校時代だけが色がないのだ。もちろんこれはオタク特有の中二病的な表現では無く。
僕は、中学一年の夏、世界の色が分からなくなった。
多分、そこから僕は人の視線が自分に集まるのが怖くなったんだと思う。後天性の色盲かとも思ったが、診断では違うと言う。
僕は考えた。人から注目されなくなるには。【一般人】でいれば良いのだ。別に色が分からなくたって、上手くいけば生活出来る。
絶対に目立ちたくない。
だから、僕は【一般人】のまま死ぬはずだったのだ。
そう、確かに、今日までは。
「皆さん、おはようございます!」
元気な声が教室に響く。眼鏡をかけて、髪をボブに切った女の先生が担任のようだ。クラス分けのときに軽い挨拶だけしていた気がするが、土日の睡眠によってかき消されている。
「おはようございま~す」
クラスにねぼけ声がゆるゆると湧き出す。クラスに必ず二人はいる明るいムードメーカーキャラはハキハキと挨拶をしていたが。
「はい!まだ眠いのかな?でもこれからは怒涛の高校生活ですよ~!頑張っていきましょうね!」
担任はそう言うと、黒板に自分の名前を書き出した。
「それじゃあ、一時限目は教科書配布、自己紹介です。まずは先生からね!」
「私の名前は福宮恵{フクミヤ メグミ}。どうぞめぐみん先生とお呼びなさい!」
なぜ得意げなのだ。
クラス中からひゅーひゅー、と指笛が響いたり、拍手が起こったりした。この特有のノリ、嫌いだ。何人かは僕と同じ感情のようで、耳を塞いでいる者もいた。
ふと、何気なしに廊下側に向いたとき。
色がついた生徒がいた。
思わず机からずり落ちそうになった。
長い金髪に、赤い眼鏡。
モノクロの世界では、あまりにも彼女は鮮やかだった。
横顔だけで美少女と分かる程、オーラがあった。しかし、気配を消すようにうつむき、本を読んでいる。少なくとも今は授業の内に入るのだから、やめたほうがいいとは思うが。
僕はどうにか平静を保った。
背後からの視線は若干感じるが。
色が分からなくなってから、色がついた人間を見るのは初めてだ。
しかし僕は窓側、彼女は廊下側。声をかけられるはずもなく、諦めて窓の外を見つめた。
正直に言うと、金髪美少女は僕のタイプだ。物凄く好きだ。中学一年、まだ色が分かっていた時期。二次元にはまったとき、とある漫画の金髪みつあみ美少女に僕は思わず叫んだ。
懐かしいなぁ、そのあと母に死ぬほど怒られたなぁ。
しみじみとしていると、いつのまにか自己紹介の順番が回ってきたようだ。おとなしく立ち上がる。
視線。
一瞬心臓がひっくり返りそうだったが、どうにか立ち直る。おぅ、危ない危ない。
「僕は明星夜生{ミョウジョウ ヤヨイ}です。趣味は二次元の世界に入ることです。特に好きなゲームはアンテです。よろしくお願いします。」
これぞ短文自己紹介。これによってインパクト少なく、「おぉこいつは普通の奴だ」と認識させることが出来る。万能だ。特に今時二次元が好きな奴はごろごろいるため、あまり目立たないのだ。
そして期待通り、ぱちぱちと軽く拍手が起こっただけで、すぐ次へと回された。
そろそろ全員が終わる、という頃、彼女の番が来た。僕はつい目を向けてしまった。まだ心臓は高鳴っている。
「え、えと……下田ラーメイ{ゲノダ ラーメイ}です…。下の田で、げのだ…。父が日本人で、母がイギリス人です…。趣味は読書、です…よろしくお願いします…!」
もたもたと自己紹介し、最後に深く礼をした彼女に、僕は心臓と五臓六腑に矢が刺さったのだった。
「なぁ!君、アンテ好きなの?」
帰りに、彼女に声をかけようとしたが、もう帰っていたようで、いなかった。
なのでさっさと帰ろうとすると、二人の男子に呼び止められた。振り返ると、チャラそうな前髪をぴょこんと縛った癖毛と、長身の寡黙そうなイケメンがいた。
「え、あぁ…そうだけど。」
友達を作る気はなかったが、共通の趣味があると嬉しいのは人並みであり。僕は戸惑いながら答えた。
「俺、千年梨{チトセ ナシ}!こっちは『ぬ』しか喋らない変な奴だけど、決して悪い奴じゃない早足涼{サタシ リョウ}!俺らアンテ好きで、よく話すんだ~。」
「ぬ。」
「連絡先交換しない?君と話したいんだ~♪」
スマホを取り出す梨と涼に、随分スピーディーな友達作りだと感心しながら、僕も空気を読んでスマホを取り出した。
「へへ~。ありがとな!じゃあまた明日!」
手を振りながら二人は去っていった。嵐のようだったな、と思いながら、僕も帰路についた。
ここまでは、実に平凡な【一般人の登校初日】だった(だろう)。
ここまでは。