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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。マーサさん達を救出してからこの二ヶ月は平穏に時間が流れています。
しかし、油断はしません。この世界は意地悪なので、必ず私の大切なものに手を出そうとして来るはず。来るべき時に備え、更に軍備拡張を推し進めなければいけません。
先ず『ライデン社』から提供された戦車、マークIVです。これについては慣熟訓練も順調に行われており、適性のある人員の選抜も終了して専用のチームとして本格的に始動しました。
燃料は無限に産出されるダンジョンの石油を精製することで困ることはありません。この精製についても技法などは学びましたが、正常に運用するのにも一ヶ月を要しました。
それだけ大変なのだと思えば良いのか、そんな短期間で習得してしまうドワーフチームが凄いのか判断に迷いますね。
そのドワーフもドルマンさんが更に人員を増やして、今では総勢で五十人を越えます。そしてドルマンさんはこのドワーフ達を専門に合わせて細分化して、チームを編成。各工程に不備が出ないように管理すると提案してきました。
私としては、建設や新兵器の開発、既存の整備などに支障が出ないようにしてくれるのは大歓迎なので二つ返事で了承しました。
それで、私個人の案件についてはドルマンさんが直々に取り組んでくれています。大きな所では、『マナメタル』を使用した『勇者の魔法剣』の解析と、飛行するための魔導器の開発です。
『勇者の魔法剣』については、やはり『マナメタル』が使われているためか解析が難航していると。
魔導器についてもそれは同じでした。空を飛ぶなんて奇想天外も良いところですから。
あの時も強い風で飛ばされたようなものですし、もう一度やりたいかと聞かれたら辞退する自信があります。
それでも魔力を使って空を飛ぶのは不可能ではないはず。浮力と推進力があれば……。
そう考えていた私に答えをくれたのは、マスターでした。
『そなたの悩みは、『飛空石』を獲得することによって解決するであろう』
「マスター、『飛空石』とは何ですか?」
聞いたこともない。
『この大陸に住まうならば無理もあるまい。『飛空石』は南の大陸にのみ存在する魔石の一種である』
マスター曰く、その鉱石は魔力を込めることで触れているモノを大地の束縛から解き放つと。
つまり、宙に浮くことが出来るのだそうです。なんですかそれは!?
『故に南の大陸には、空に浮かぶ大地もある。これは『飛空石』を多く含む所以だ。そしてそのような場所には魔石が豊富に眠っておる』
魔石に宿る魔力に反応しているからと。そして南の大陸ではこの『飛空石』を利用した空飛ぶ乗り物、『飛空挺』が存在すると。
……私の周りも十分にファンタジーですが、流石は魔法文明。空飛ぶ乗り物や浮島があるなんてまるで物語の世界ですよ。
「その『飛空石』があれば私は空を飛べると」
『そなたは魔石を介することで自在に魔力を操る。そして保有量は無尽蔵。それも叶おう』
「となれば、次の交易で『飛空石』を何とか手に入れなければいけませんね」
『それは難しかろう。『飛空石』は長時間魔力を込めねば力を失う。交易では往復で二月は掛かろう?魔力無しでは三日と持たぬ。それ故に出回らぬのだ』
「そんな特性が……」
魔石とセットならば問題はないのでしょうが、それはつまり貴重な魔石の魔力を消耗させることになります。
ついでに燃費もかなり悪いみたいです。確かに取引には使えませんね。ロザリア帝国では魔石が手に入らないのですから。
「ですが、その心配は魔力を持つ私にとっては杞憂となりますよね?」
『左様、そなた自身が赴くならば持ち帰ることも可能であろう。魔力を持つ人間など稀有な存在である故な』
余談ですが、人間以外の種族は魔力を保有していることが多く、自前で空を飛べることが多いので『飛空石』何か存在すら気にしないのだとか。
マスターはあらゆる知識を求めるので、その存在を知っていただけだとか。
どちらにせよ、エレノアさんから一度交易に同行して欲しいとの話があります。より大きな取り引きを成功させるためには、信用を得ることが何よりも大事です。
つまり、私が同行することで相手の大物が出てくる可能性があるとか。そうなると交渉は必須となりますから、同行する意味もあります。
『飛空石』を手に入れるためには必要ですから、労力は惜しみません。なにより、『ライデン社』から数年以内に実用化出来ると提示された新兵器はどれもバカみたいに高いんです。まだまだ稼がねばなりません。
数日以内にエレノアさん達は帰還予定です。次の交易で同行するために準備を進める必要があります。
先ずはレイミに声をかけたのですが。
「申し訳ありません、お姉さま。十六番街復興のため『オータムリゾート』は多忙でして、二ヶ月も離れることはできないんです」
「では、一緒に行けないと?」
「リースさんに怒られてしまいますから」
むぅ、私の我が儘でレイミが叱られてお義姉様と不和になるのは望むところではありません。残念ですが、レイミは無理そうですね。
「急ぐ必要はありませんよ、お姉さま。エレノアさん達が戻ってもすぐに出発とはいかないでしょう?」
「それはもちろん。ただ、レイミの予定を確認したかったんです」
「お姉さまとの船旅は心惹かれるものがありますが、次の楽しみにしておきます」
残念。
数日後、四度目の交易を無事に成功させた海賊衆が港湾エリアに戻ってきました。いつ見てもアークロイヤル号の威容には圧倒されますね。
「おや、シャーリィちゃん直々のお出迎えかい?ただいま」
「お帰りなさい、エレノアさん」
ちょうどサリアさんから講義を受けていた時だったので、私は桟橋で皆さんを出迎えます。
「今回もたんまり稼いできたよ。残念ながら魔石は手に入らなかったけどねぇ」
「お金があるだけでも助かりますが、やはり魔石は難しいですか」
「アルカディア帝国の内情も不穏だからね。内戦に備えて魔石の流通をかなり制限してるみたいだよ」
南の大陸にある大国アルカディア帝国では、皇帝一族による御家騒動の真っ最中。それはそのまま内戦に発展する可能性が高く、それに備えて魔石の流通を押さえているとか。むぅ。
「代わりに薬草の需要がバカみたいに上がってるから、こっちはボロ儲けだけどねぇ」
アルカディア帝国は様々な薬草を使った医療を発展させており、各地の群生地は帝国直轄地となって管理されているとか。ただ栽培が非常に難しく、流通量は決して多くはない。
対して我が農園ですが、各種稀少な薬草がまるで雑草のように群生しています。そこを薬草園にしているのですが、ロウ曰くまるで手を付けなくても勝手に生えて成長するのだとか。今はロメオ君が責任者となって管理しています。
で、その有り余る薬草を値崩れしないよう慎重に調整しながらアルカディア帝国に売り捌いているのが私達『暁』。
……星金貨が詰まった樽をいくつも見せられると、金銭感覚が狂いそうです。
「それで、わざわざ出迎えてくれたんだ。何かあるのかい?シャーリィちゃん」
そうでした。本当の目的を果たすために、私はエレノアさんを桟橋近くにある事務所に招いたのです。