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「で、誕生日デートはどうだった?」


電話の向こうからは、ニヤニヤした顔が簡単に思い浮かぶ蒼太の声が聞こえる。


誕生日翌日の夜に電話がかかってきたのだ。


その問いかけに私は昨日の出来事を思い返し、ソワソワしながらポツリと呟く。


「‥‥ともかく何かすごかった」


その一言に尽きるのだったーー。




お互いの誤解が解けて気持ちが通じ合い、私は天にも昇る心地だったのだが、そこからがさらに怒涛の展開だった。


誕生日をやり直そうと提案してくれた亮祐さんは、一瞬席を外したかと思うと、素早くホテルの手配を済ませて連れて行ってくれた。


そのホテルというのが、超ラグジュアリーホテルで、しかもスイートルーム!


一歩足を踏み入れると、その豪華さと贅沢さがともかくすごくて怯みそうになってしまった。


大きな窓から見える夜景の眺めも、ルームサービスの食事の美味しさも、バスルームの充実具合も、なにもかもがすごい。


さらに、すごいのはホテルだけではなく、亮祐さんの言動の甘さとイジワルさも、いつも以上に磨きがかかっていてすごかったのだ。


(あんなに素敵なホテルに連れてきてくれるだけでなく、ちゃんと別にプレゼントまで用意してくれているし、キスは蕩けそうな甘美さだったし、次は抱くなんて宣言されちゃうし‥‥!)


今思い返すと亮祐さんに翻弄されて、終始あたふたしていたように思う。


ただでさえ一緒にいるだけでドキドキするのに、抱き締められたり、キスをしたりすると、その甘さで腰が砕けそうになる。


昨日は身体は重ねなかったものの、抱き締められながらベッドで一緒に寝たが、あれも心が甘く騒《ざわ》ついてなかなか眠りにつけなかった。


(だって、息づかいも体温も香りも、すべてが近すぎて‥‥!全身で意識しちゃって。彼氏になった亮祐さんの破壊力が凄すぎて壊れちゃいそう‥‥!)


そう、もともとその存在自体が誰もが目を奪われる完璧超人な人なのだ。


そんな人が自分の彼氏で、自分だけに普段見せない顔と言動をしてきて、今となっても「これは現実?」と疑ってしまいそうだ。


「まぁつまり上手くいって、付き合うことになったってことだよね?」


蒼太の声で意識が引き戻される。


もちろん亮祐さんの甘い言動なんかは省いて、事実だけを蒼太には報告したのだ。


「うん、蒼太が背を押してくれたおかげだね。ありがとう」


「どういたしまして。でもさ、まさか俺が彼氏と間違われるとはな~!確かに過去に何度かそういうことあったけど、最近はなかったし」


「そうだね。私もそれは予想外だった」


「ねぇ、今度その彼氏に会わせてよ!俺も誤解させちゃったお詫びしたいしさ。単純に見てみたいっていう好奇心もあるけど」


「亮祐さんがいいって言ってくれたらね」


そう言いながら、確かに機会があれば蒼太と会ってもらった方がいいかもと考える。


そうすれば2度とあんな誤解をされることもないだろう。



「ところで、その亮祐さんって彼氏は春樹くんとそっくりなんでしょ。出会った当初、姉ちゃんすっごい混乱と動揺してたけど、そのあたりは大丈夫なの?」


そう問われ、もう今は全然そういうことがないと改めて感じる。


確かに顔は似ているけど別人なのだ。


そして私は春樹を思い出したり、重ねたりするんじゃなくて、亮祐さん自身に惹かれたしドキドキしているし、好きになったのだ。


「うん、もうそのことは大丈夫」


「なら良かった。ちなみに、彼氏さんは春樹くんが自分に似てるとかそういうこと知ってるの?話したりした?」


「ううん、話してないし、話すつもりもない。だって過去のことだし、亮祐さん自身には関係ないことだと思うから」


「‥‥そう、分かった。それだったら、もし俺が彼氏さんに会うことがあったら話さないようにするわ」


「うん、ありがとう」


私の身近な人で高校時代のことを知っているのは蒼太だけだ。


蒼太が黙っていてくれるなら、亮祐さんが知ることはないだろう。


(余計な心配や勘違いはして欲しくないから、それが最善だよね)



亮祐さんに恋することで、私の心は10年前のあの頃から確実に前に進み出している。


だから私はこの今の幸せを大切にしたい。


そう思いながら、昨日プレゼントしてもらったブレスレットを手でそっと触れたーー。




翌日、会社へ向かう道中で響子と偶然一緒になった。


週末に誕生日おめでとうメールをもらっていたことを思い出しお礼を述べる。


「響子、週末はメールありがとうね!」


「どういたしまして!あ、これ私からのプレゼント!ちょっとしたものだけど」


「えっ、わざわざありがとう!」


響子がくれたのは、女性に人気のあるブランドのハンドクリームだった。


「これからの季節にすっごく助かるし嬉しい!本当にありがとう!」


にっこり笑顔で返すと、響子は私の手元を見て目を光らせた。


「いつも百合ってそんなブレスレットしてなかったよね?初めて見る気がするけど、もしかしてどなたかからの誕生日プレゼント~~??」


「‥‥!」


さすが長い付き合いなだけある。


亮祐さんからもらってずっと身につけているブレスレットにすぐ気づかれた。


「えっと、そう、お、弟がくれたの‥‥!」


咄嗟に私は蒼太にもらったことにして、慌てて言葉を返す。


いくら響子にでも、さすがに亮祐さんからもらったことを言うわけにはいかない。


亮祐さんとは付き合うことになった時、仕事上の不都合を避けるために、会社の人には隠すことを話し合って決めたのだ。


だから響子に秘密にするのは心苦しいけど、誤魔化すしかなかった。


「ふぅん、そうなんだ。弟くんセンスいいね~!それすごく百合に似合ってる」


「そうだよね。私も気に入ってるの」


「そういえば、今日社内報が発行される日だっけ?この前百合が常務を取材してたあの記事が載ってるんだよね?」


いきなり常務の話が出てきて、思わず心臓がドキッと跳ねる。


「そ、そうだよ!午前中にイントラに上がる予定だからぜひ見てね」


「楽しみ~!いい男を見て目の保養にしよーっと!」


ウキウキしている響子を視界に収めながら、私はそっと安堵の息をはいた。


オフィスに着くと午前中に発行する社内報の最終確認をして、イントラにデータをアップする。


以前は紙で配布していた社内報だが、電子化が進んだ影響で、数年前からデータ発行となっていた。


社員全員が見るイントラに掲載して社員の皆さんに適宜見てもらっている。


アップし終えた私は、なにげなく自分が原稿を作成した亮祐さんの記事を眺めた。


(こんなすごい人が私の彼氏だなんて。なんだか本当に週末の出来事は夢みたい‥‥)



「本当にこの記事良い感じに仕上がってますよね!さすが百合さんです!」


私の背後からパソコンの画面を見た由美ちゃんがそう声をかけてくれる。


ぼんやりと誌面上の亮祐さんの顔を見ていた私は慌てて表情を取り繕った。


「そう言ってもらえて嬉しいな」


「社員の皆さんから反響ありそうですよね~!」


そんな話をしていた直後、私にチャットが入る。


“響子: さっそく見たよ!常務カッコ良すぎ!モデルみたいなんだけど!”


響子の他にも、普段から仕事でよくやりとりする女性社員の方々から数件直接チャットが来た。


「百合さん、私にも同期から”常務の写真の構図がいい!”とか”常務の人間性が知れて嬉しい!”とかチャットがきてます」


「私にもチャット来てるよ。思った以上の反響でちょっと驚いちゃった」


「常務っていう元素材が良いうえに、百合さんが担当した記事ですから当たり前ですよ~!」


ニコニコ笑う由美ちゃんは自分のことのように嬉しそうだ。



その日は午後も、社内報の記事がきっかけとなり、休憩室やお手洗いなどで亮祐さんの話題が繰り広げられていた。


入社当時もこんな感じだったが、改めて注目が集まったようだ。


「あの記事見た?やっぱりカッコいいよね~!私もう一回アタック頑張ろうかな~」


「記事にお酒飲むのが好きってプライベート紹介してたじゃない?お酒が美味しいお店を理由に誘ったらいけるかな?」


「お酒飲みに行けたら、酔っちゃった~ってなって既成事実作っちゃえばいいしね」


「ガード堅いけど、さすがに据え膳食わぬは男の恥ってなるだろうしね!」


「超可愛いって人気のあの国内営業部の子も本気で落としに行くらしいよ」


「マーケティング部の美人ちゃんも彼氏と別れたらしくって、常務を狙いに行くって言ってたわ~」


「争奪戦で競争率すごいよねぇ。みんな本腰入れ出した感じ」



こんな露骨な話が方々から耳に入ってくる。


社員のみんなに読んでもらうために自分が書いてアップした記事なのに、そんな声を聞く度に私は胸が苦しくなった。


(どうしよう‥‥。本当にみんなが本気でそんなアプローチしたら亮祐さんそっちに行っちゃうんじゃ‥‥)


不安な気持ちが押し寄せてきて心がザワザワしてしまう。


思わずブレスレットを手でぎゅっと握って心を落ち着かせる。


その週はそんな気持ちをずっと抱えて、私はただ目の前の仕事を黙々とこなしやり過ごしたーー。

私の瞳に映る彼。

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