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先生が休職届を出した
生徒からの可干渉を理由に
誰とは書かれてない
でもそれが誰かなんてわかりきってる
俺は笑った笑うしかなかった
だって逃げようとしてるんだ
俺を置いて
俺の好きを無視して
ここまで全部受け取っておいて
置き去りにしようとしてる
「…せんせい……」
音のない部屋で、俺はその言葉を繰り返した
名前を呼ぶ度に、胸が割けた
どこに行くの?
俺を残して
どこか別の世界にいくつもり?
ーー逃がさないよ
先生の家にいった
住所は知ってる
全部調べてある
誰にも見られないように午後11時
鍵は合鍵を使った
以前、先生が落としたのを拾って、すぐ複製した
扉を開ける音さえも愛おしい
“俺たちの家”みたいに感じる
リビングのテーブルには
転移先の資料
新幹線のチケット
引っ越し会社の名刺
全部全部裏切りの証
俺は破った燃やした灰皿で灰にした
そして先生の寝室のドアを開けた
先生は眠っていた
薄暗い部屋
穏やかな寝息
あんなに俺を恐れていたのに、無防備だった
隣に座って暫くみてた
睫の影、柔らかい唇
呼吸ひとつひとつが、美しくてたまらなかった
「先生……どこにもいかないで」
小さく呟いた
その声に先生が目を覚ました
視線がぶつかった瞬間
凍りついたように硬直した
「なんっで……ここに……ッ」
「……先生が逃げようとするからだよ」
「やめてお願い……やめて」
「逃がさない。俺を知ってしまった以上、先生には俺と生きてもらうしかないんだよ」
その時先生は泣き出した
でもそれはもう俺を拒む涙じゃなかった
ーー諦めと絶望と理解の混ざった涙
俺は先生の手を握った
身体が震えてた
でも離そうとはしなかった
「…………もう…いいよ……翡翠くん。わかったから……」
その言葉が俺の心を満たした
やっと俺のものになった