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『行っちゃ駄目だよ』
太宰さんが云ったあの言葉。
あれは一体なんだったのだろうか。
あれから一週間。
未だにあの言葉の意味が判らない。
何故乱歩さんの元に行っては駄目なのか。
訳が判らない。
「……ま、いっか」
一人静かな部屋で呟いた。
「ねーえ敦」
騒がしい教室で乱歩さんは僕に云う。
「なんです?」
「放課後、図書室ね」
「へっ……?」
「すこーし話したい事があるからさ!」
明るい笑顔で云われた。
僕は少し図書室が怖かった。
図書室……太宰さんと話した処。
……否、乱歩さんが居るから大丈夫か。
「敦」
「えっ、は、はい……?」
今迄黙っていたのに、突如喋り出す乱歩さんに驚いた。
「あの時、太宰に何か云われた?」
ドクンと胸が跳ねるような気がした。
別に悪い事をした訳では無い。
唯、云っては駄目な気がして。
彼の人の事がどうにも脳裏に張り付いている様な、
そんな気がして。
「何て云われたの?」
「えっ、と……」
云っても良いのに。
云わなきゃなのに。
如何して……
濁流が全身を打ち付ける様。
じめじめした汗が背中に漂う。
「僕、は……太宰さんに……」
太宰さんに、何て云われたっけ。
そうだ、
「憶えてる?……と」
「へぇ……」
何時もの男性にしては高い声が、
今はとてつもなく低い、ドスの効いた声だった。
「太宰……まだ諦めないんだ」
「……?」
僕彼の云っている意味が判らなかった。
厭、乱歩さんが判らせなかったのかもしれない。
僕の為に。
「太宰、如何してそこ迄してあの子に執着するんだ」
「如何してって……」
「乱歩さん、貴方のせいですよね」
「私の気持ち、知っていましたでしょう」
「まぁね」
二人の男子生徒が空き教室で静かに睨み合う。
「……本当、」
「貴方には勝てない」
「僕だって、あの子が好きなんだから」
「本気になるのは当然でしょ?」
「……そうですね」
彼等の考える事は、
誰にも判らない。
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