テラーノベル
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ただあなたを愛していた頃に
砂時計を返して戻れるのなら
不便でも、辛くても、手を繋いで
隣にいさせて。
思い出にできないから。
あなたのいない町で。
海沿いのロータリーは、まだ工事中だった。
はやく終わらないかな。
今日もそんなことを考える。
白い柵の向こうで、 今日も工事が行われている。
特に理由もなく、海沿いの公園に立ち寄ってみた。
あのころと同じ景色のはずなのに、今は少しだけ。
違って見えた。
「……なぁ、仁人。」
なんとなく呟く。
「……好きだ。」
返事はない。分かってる。
でも、ただあなたを愛していた頃に、
砂時計を返すように戻れるのなら、
もし、そんなことができるなら。
俺はちゃんと、 仁人の隣に立てただろうか。
あの時、気づかなかったふりをしなかっただろうか。
手を握って引き止めることが出来ただろうか。
不便でも、辛くても。
それでもいいから。それでいいから。
手を繋がせて。
隣にいさせて。
それだけでいいから。
仁人の隣は、俺にとって“当たり前”で。
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狂人⭐︎
きっと、あいつにとっては、ずっと違ったのかもしれない。
何度もそう思った。
でも、よく考えれば俺も同じかもしれない。
ずっと、当たり前でいたい。
そう願っていたし、そうでありたかった。
だから、もしかしたら仁人も同じだったんじゃないか。
仁人にとって俺は、気づけば隣にいる。
そんな当たり前になれていたんじゃないか。
この公園も、ブランコも、海も。
あいつのいない景色も。
ーー思い出にできないから。
勝手に自己解決した気になっていただけで。
「……仁人。」
呼んでも、やっぱり何も返ってこない。
それなのに、まだ探してしまう。
あの声を。
あの笑顔を。
あの隣を。
もういないのに。分かってるのに。
自分でもびっくりしてしまうほど。
「……戻りたい。」
誰にも届かない声だった。
いや。違う。
この思いは届かなくていい。
届かないまま、ずっとここに残っていていい。
辛いし、苦しいし、怖いけど、
いつまでも、くよくよしていたら
きっと、仁人に笑われてしまうから。
だから、今はまだ前に進めなくてもいいかな?
だって、いつまでも、仁人と親友だった俺でいたい。
仁人のことは一生忘れられないだろう。
だからさ。この先の人生、俺は、勝手にだけど、仁人の思いも背負って。
この人生をまっすぐ、歩いてみようと思うよ。
まあまだ、まっすぐ歩く術も知らないけれど。
きっと、これが今、俺にできる仁人への最大限のことだと思うから。
「仁人……。またな。」
「大好きだ。」
仁人。俺はずっと、ここにいるよ。
……風が、少しだけ強く吹いた気がした。
あなたのいない町で。
コメント
1件
うわあ、この第5話……すごく静かで、でもぎゅっと心臓を掴まれるような回でしたね。「思い出にできないから」という言葉が、全部を言い表していると思いました。思い出にしてしまえば楽になるのに、それができない。ずっと「当たり前」だった隣が、今はない。呼んでも返事がないのに探してしまう、その感覚の描き方があまりにもリアルで…。 最後の「またな」と「大好きだ」を重ねるところ、ここで涙腺がやられました。前に進もうと決めた強さと、それでも変わらずそこにある愛が、両方伝わってきました。素敵な作品をありがとうございます。次話も楽しみにしています。