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アザミがシニア・セニョーラに手を伸ばした瞬間、何かを察したかのように、セノは全身に悪寒を感じ、咄嗟に闇魔法の遠距離通信にて、エルとシグマに向けて叫ぶ。
「緊急退避だ!! 今すぐに!!!」
そして、全身から闇魔法を放つと、ヒノトたちの視界は闇に覆われていた。
最後に見た景色で、シニアに映るロードは、アダムの剣に両断されている姿だった。
ガン!!
ヒノトは、咄嗟な空間移動に身体が変に宙に浮き、そのまま地面の岩に頭をぶつけた。
「いってぇ!!」
「ちょ、ちょっと……大丈夫!?」
その声は、リリムの声だった。
「リリム……どうしてここに!?」
「それは……こっちのセリフだ……クソッ……」
そこには、ヒノトの目を見張る人物が座っていた。
「レ、レオ……!!」
金髪に、黒い髪がポツポツと生えているレオ・キルロンドの姿が、そこにはあった。
「セノ!! どうして愚民がここに来るんだ!!」
声の先には、渋い顔を浮かべたセノの姿があった。
「仕方ないだろ……緊急だったんだ……。僕だって、こんなに早く君たちを再会させる気はなかった……」
いつもニタニタと、人を煽る様子のセノ。こんなに動揺している姿は、ヒノトもレオも初めてで、それ以上何か文句を言うことはなかった。
そのまま、頭を抱えながらも、渋々とセノは事態の説明を始めた。
「あのままでは、全員死ぬところだった……」
「でも、会議室にいたエルフ族は、かなり制圧できていたはずよ……?」
「いや、無駄だ……。僕たちがアザミと対峙した際、奴はシニア・セニョーラを出してきた……」
青褪めるセノに、あまり非常事態を理解していないヒノトは眉をひそめながら訊ねる。
「なんか……エルフ族長の妃……? だっけか……。なんでその人が出てくるとまずいんだ……? 人質って気配でもなさそうだったけど……」
「あれはな……本体じゃないんだ……。簡単に言えば魂のエネルギー体のようなもの。それを、アダムの闇魔法でとある細工をされてるんだ……」
「とある細工……?」
そして、全員の顔が訝し気に変わる。
「あれは言わば、物質化した空間移動魔法。アザミは、いつでもアダムの元に行けて、その逆も然り、アダムを呼び寄せることもできるんだ……」
その言葉に、全員はハッと驚愕する。
そして、ヒノトの脳裏には、エルフ族長 ロード・セニョーラが一瞬で両断される姿が蘇る。
「あのままあの場に少しでも留まれば……僕たちは愚か、あの場にいた奴らは全員死んでただろう……」
「そこまでなの……? アダムの力って……」
「お疲れ様、セノくん」
その瞬間、全員の背後から声が聞こえる。
全くの気配に気付かなかった全員は、ビクッと背後を見遣った。
そこには、黒髪長髪で、鋭い目付きに二本の悍ましい角が生えた魔族が立っていた。
「皆さん、私の気配に気付けなかった時点で、アダムの前では何も出来ないでしょう」
「お疲れ様です。彼の名はディアブロ=エスタニア様。かつて、魔王様の側近だった三王家のお方だ」
「取り敢えず……敵じゃない……ってことでいいんだよな……?」
「ああ。ディアブロ様は敵じゃない。こうなってしまっては、君たちに真の歴史を伝えるしかないな……」
そう言いながら、セノはまた深い溜息を溢し、レオもピクリと反応した。
「レオくんがキルロンドに戻らなかった理由……そして、この世界の先住民と呼ばれるキルロンドが隠している、本当の歴史だ……」
そうして、セノは静かに話し始めた。
「大前提として、この世界には、魔族なんてものは存在していなかった」
「は!? じゃあお前たちの存在は、倭国民と同じで異世界の奴らってことか!?」
いきなりヒノトは話を遮り、全員から睨まれる。
「ヒノト……もう少し黙って聞けないの?」
「ご、ごめん……」
「はぁ……先が思いやられるな。もう一度言うが、大前提として、この世界に “魔族” はいなかった。言い方を変えれば、 “魔族として括られる民族” はいなかった、と言うことだ」
ヒノトは、既に難しい顔を浮かべながら聞き続けた。
「この世界の起源は、二つのエネルギーから生物が誕生したとされている。それが、今の “先住民と呼ばれるキルロンド王国民” と、 “エルフ族” だ。そのエネルギーが先に人体を形成したのが、先住民となる。しかし、全てが平等なんてことはなく、『力の強い者と弱い者』で別れた」
その説明で、全員が目を見開く。
そして、その言葉の意味を理解するのだ。
「力の強い者が…… “魔族” と呼ばれた……」
「そうだ。最初こそ国の発展、土地形成、同時刻に生まれたモンスターとの争い、それらを力の強い者に託してきたというのに、弱い者たちは強い者たちを利用するだけ利用し、最後には迫害した」
凄惨な歴史を淡々と口にするセノに、それらを聞き入れる全員はただただ口を開いた。
「迫害……。でも、どうして “魔族” なんて呼ばれ方をされ始めたんだ……?」
「やはり引っ掛かるのはそこだろう。レオくんもここに来てすぐに唖然とした事実だ。僕たち魔族は、兵士にならない限り、自分たちが『魔力に愛された種族』ではなく、『魔物のような種族』としての “魔族” と呼ばれ、迫害されている事実を知らずに育つのだからな」
そして、ずっと怪訝そうに聞き続けていたレオも、辺りを睨みながら口を開いた。
「ソイツの言ってることは正しい。私は奴らに連れ去られた後、魔族の子供達が住む場所へと送られた。そこには、私たちキルロンドの街並みとなんら変わらない光景が広がっていた。無邪気に笑う子供、買い物袋をぶら下げた主婦に、せっせと働く青年……髪色の違いがあるだけで、私たちとは何も変わらなかったんだ」
「そう。そして僕たち、魔族軍の兵士となった者のみがこの凄惨な歴史を聞き、ショックと恐怖……驚きと共に湧き上がる感情……憎しみを持って、兵士となる……」
そうして、セノは悲しそうに笑みを浮かべた。
「子供の頃は、君たちと同じで、みんな憧れていた。ヒーローってモンにな……」
歴史のあらましを聞いたヒノトたちは、セノの案内で、魔族の民家街へと案内された。
レオの話の通り、子供たちは元気に走り回り、キルロンドとまるで変わらない街並みが広がっていた。
その光景を、ヒノトも、リリムも、目を細め、何も口にすることなく眺めていた。
緊急退避として、セノから出された避難命令により、あの場にいた全員は、魔族の安全な民家街のどこかに転送されていると話す。
他のみんなと安全に落ち合うことが最優先と判断し、何名かのチームに分かれて人探しが始まった。
セノ、ヒノト、レオの三人組は、セノが目星を付けている場所へと向かい、サタンの実娘であるリリムを守る上で一番最適で安全だと豪語されたディアブロとの二人は、避難用に用意された場所へと向かった。
レオとヒノトは、思わずの再会に、中々素直に話し掛けることができず、いつものニタニタとした肉垂れ口もないセノに連れられ、終始無言で行動をする。
幸いにも、最初に出会したのは、頭のキレる風の使徒 エル=クラウンの元に転移させられた、明るい男ナンバーワンのキラ・ドラゴレオら、貴族院学寮の生徒たちが多数転移させられていた。
「おお! ヒノトじゃねぇか! おわ! レオ!! お前無事だったのかよ!」
事態など気にせず、いつものハイテンションでヒノトたちに会釈を向けた。
しかし、他の貴族院学寮の者たちは、少し訝しむ様子でレオの顔を見遣っていた。
当然だ。
レオは倭国で、急に現れ、急に消えたのだから。