コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
セノの配置しておいた部下たちにより、無事に全員で落ち合うことに成功した。 万が一の時の為、エルフ帝国に行かなかったルルリア=ミスティア等のセノの部下たちは、各所のワープ先で待機していた。
そして、全員が焦燥感を抱きながら、汗混じりにリリムとディアブロの待つ避難に使われている教会へ足を進めた。
着いて早々に、リリムとディアブロを見て、セノたちも含めた全員がその光景に口を開けた。
「次は、何をお召し上がりになりますか?」
「えぇ……そんなお腹空いてないんだけど……なら、デザートとかある……?」
リリムにかしずき、従者の如き振る舞いを見せ、己の配下たちに飯を作らせるディアブロ。
そして、ドレスに着替えさせられ、遠慮しながらも何か頼まないと悪そうに注文するリリム。
「何をしているんですか……ディアブロさん……?」
さっきまでの緊張感とは裏腹に、セノは困惑気味にディアブロに寄る。
ディアブロは、セノを静かに見ると、
「ハァァ!!!」
途端に我に返ったように大きな声を上げた。
「失礼……魔王様の時の血が騒いでしまい……昔のような振る舞いが一度出たら止まらず……」
悪魔を模するようなツノが生えたディアブロが恥ずかしそうにする姿に、ルルリアはププっと吹き出す。
しかし、その甲斐あってか、全員の緊張は少しだけほぐれて行っていた。
全員囲んで食事を摂り、その中でアダム=レイスや、エルフ帝王 アザミ・クレイヴ、そして、アダムと交戦しているはずのエルフ族長 ロード・セニョーラの行く末が頭にチラつく中で、刻一刻と時間が過ぎて行く。
そんな中、避難用に作られていた教会の大きな扉はバタリと音を立てて放たれた。
「はぁ〜あ! ホント、ふざけんじゃないわよ!! ディアブロ! ケーキ用意して!!」
膨れっ面で入って来たのは、リリムと瓜二つの面立ちで、綺麗な長い黒髪を翻した女の子だった。
全員が呆然とその姿を見遣ると、大人数のヒノトたちキルロンド生に気付いたその子は、目を見開く。
ゴッ……!
そして、瞬時に辺りは殺気に満ち溢れ、ヒノトたちは持っていたナイフを地面に落とし、背筋を凍らせた。
「ま、待ってください!! リリア様!!」
ディアブロとセノは瞬時にヒノトたちの前に出て、リリアと呼ばれた殺意剥き出しの少女を制した。
「お前たちのせいで……お前たちのせいで……!!」
瞳孔を開きながら、涙ぐむ少女、歯をグッと噛み締めると、そっと膨れ上がらせた魔力を消した。
そして、スッと肩の力が抜ける。
「ディアブロ……セノ……。アンタたちがそう言うつもりなら、私からは何も言わない。でも、私だってもう好きにするから……。絶対に邪魔しないで!!」
そう言い放つと、リリアと呼ばれる魔族の少女は、再び外へと駆けて出て行ってしまった。
静寂の中、一番にその子を気になったであろうリリムが立ち上がり、二人の背後に立つ。
「ねぇ……今のは……」
三王家であり、魔王の側近だったディアブロを呼び捨てにし、且つ、ディアブロからも “様” と呼ばれる少女。
答えは、一つしかない。
「貴女の双子の妹……リリア=サトゥヌシア様です……」
「リリムに……妹……!? だって、勇者は魔王討伐後に子供を見付けて……それでリリムはキルロンドに来たんじゃなかったのか……!? どうして……妹が……」
動揺するヒノトに、レオがキリッと睨んだ。
「勇者ラインハルトは、リリム・サトゥヌシアを “助けた” 訳ではなかった。そうだな? セノ」
そして、流れるようにセノに目を向ける。
「ここまでバレたなら白状するしかないね……。そう、リリム様は “助ける” という名目でキルロンドに連れて行かれたわけじゃない……」
「だったら……」
「勇者ラインハルトは、魔王を殺すことができなかった。しかし、国民を安心させる為には、魔王を殺したと信じ込ませる材料が必要だった」
「だから……魔王の実の娘を連れ帰ったって……そんなの勇者のやることじゃ……!!」
ヒノトは徐々に興奮を隠せず、バッと立ち上がる。
しかし、それを止めたのはグラムだった。
「グラム……」
「ヒノト。お前も魔族の真の歴史は聞いただろ? 綺麗な歴史なんてこの世界にはなかった。勇者が過去に何をしたかなんて、俺たちにはもう想像もつかない。でも、一つだけ確実に言えることはある」
「は……?」
困惑するヒノトの目を、グラムはじっと眺める。
「勇者ラインハルトがリリムをキルロンドへと連れ帰ってくれたから、俺たちはDIVERSITYを組めたんだ」
その言葉に、ヒノトもリリムも、ハッとする。
そして、静かにリオンはリリムの肩を叩いた。
「そう言うことだよ、リリムちゃん。僕たちはまだまだ真実を知らない。驚愕することばかりだけれど、僕たちが仲間になれたことは、きっと間違いじゃないんだ……」
励まし合う空気感の中で、ディアブロとセノは、未だ青褪めた顔を浮かべさせる。
「また一つの真実が明らかになったところで、君たちキルロンド生に、『本当の脅威』を改めて伝える」
そう、キルロンド生が考えていた脅威は、魔族との戦争のみだったが、背景に潜んでいたものは全然違った。
エルフ族と何も交わされてなかった友好国関係、むしろその背後に潜んでいたアダムとエルフ帝国。
魔族は真の敵ではなく、キルロンドに生まれた子供たちに隠されていた歴史があること。
そして、魔族軍は今、二つに分断されていること。
「まず、君たちも目にしただろうエルフ帝国軍。その力の元凶は、魔族三王家 アダム=レイスに寄るもの」
その力の強力さは、ここにいる全員が痛感している。
「僕は、あの場面で本来ならエルフ帝王 アザミ・クレイヴだけでも仕留め、エルフ帝国軍……つまりは、アダムの駒となる軍隊を潰しておきたかった……。しかし、アダムはそんな時を予期していたのか、空間魔法を凝縮させた力をアザミに授けていた……」
「つまり、アザミを倒す為には……」
「アダム=レイスとアザミ・クレイヴ、同時に戦わなければならない、と言うことだ……」
そして、次にディアブロがセノの前に出る。
「アダムの力は、今や私の力をも超える。しかし、恐怖はそれだけではない」
その言葉と瞳に、リリムは目を凝視する。
「リリア……!!」
「そう……魔王の実の娘、リリム様の双子の妹。先程、姿を見せたリリア=サトゥヌシア様は、お母様を失ったことと、実の姉を奪われたことをひどく嘆き、憎しみの中で生きてきた……」
「んなもん、セノたちで止められねぇのかよ……!」
「忘れたか? 灰人。『魔族同士は契約上、争えない』ことを……」
ハッと思い出し、頭を冷やす。
「でも……アダム以上に危なくはないんだろ……?」
「確かに……戦闘能力で言えば、君たちとあまり差はないかも知れない。しかし……場合によっては、アダム以上に恐ろしい能力を持っているんだ……」
「アダム以上に恐ろしい能力……?」
「細かく説明はできないが、リリア様は、闇魔法の祖である力を扱うことができる……。私の魔力で抑えてはいるが、リリア様の成長と共に、私の封じる力を超える力を備えてきている。その力が暴発すれば……」
そして、ジッとヒノトの瞳を見つめる。
「灰人の力でも抑えられない、闇の力となる……」
その瞬間、再びヒノトの背筋は凍った。