「何言ってるの? 私、今来たところよ。休憩時間もまだ残ってるし。さあ、3人で話しましょうよ」
涼香姉さんは、コーヒーとケーキを注文した。
「ねえ、龍聖君。急いでるんじゃない? 青山さんも待ってるし」
「龍聖さんはどんなお仕事を? どちらにお住いなのかしら? ご両親はご健在?」
私のことはお構い無しに、どんどん質問が飛び出してくる。
しかも、また馴れ馴れしく名前で呼んで――
「涼香姉さん、それはプライバシーに関わることだから。いきなり失礼だよ」
「仕事はサラリーマンです。両親は健在ですが、今は一人暮らしです」
笑顔で律儀にちゃんと答えてくれている。
でも、内心はどう思ってるのだろう?
こんなことをいきなり聞いて、私が嫌われてしまうような気がして嫌な気持ちになった。
「どちらの会社にお勤め?」
容赦なくプライベートな質問が続く。
「……たいした会社ではないので」
「じゃあ、お名刺いただけるかしら?」
「すみません、今は持ち合わせてなくて」
「残念だわ。でも私も一人暮らししてて、何かと寂しくしてるんです。ここの百貨店で働いてるんで、またいつでも声をかけて下さいね。琴音よりは楽しくお話のお相手ができると思いますよ」
口角を上げ、真っ直ぐ龍聖君に視線を送る涼香姉さん。
龍聖君には姉さんがどう写っているのだろう。やっぱり……美人だと思っているのだろうか?
「ありがとうございます。すみません、そろそろ行かないと。人を待たせていますので。じゃあ、これで失礼します」
龍聖君は、サッと立ち上がった。
「あっ、うん。ごめんね」
「またな」
「龍聖さん、またお会いしましょ」
ニコッと笑って頭を下げ、いいと言ったのに、お会計まで済ませてくれた。
私と、涼香姉さんの分も。
「ねえ琴音、どうしてここまで来て顔を出してくれなかったの?」
龍聖君がいなくなったとたん、明らかに声のトーンが変わり、不機嫌そうに言った。
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