テラーノベル
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「……兄…?なんで…あの子に、お兄ちゃんなんているはず……」
私の声は、もはや掠れて音にならなかった。
あの子───三上愛は、いつも一人で図書室にいた。
地味で、根暗で、友達なんて一人もいなかったはずなのに。
「愛は、僕が留学から帰ってくるのをずっと楽しみにしていた。……『もうすぐ会えるね』ってメールを最後に、あの子は屋上へ向かったんだ」
監督……愛の兄は、静かに私を見据えた。
その手には、一台の小型カメラが握られている。
「この映画のタイトルを教えてあげよう、美玲。『承認欲求の怪物』。それが、僕が君につけた名前だ」
「……っ、ふざけないでよ!映画なんてどうでもいい! 私のキャリアを、私の人生を返してよ!!」
私は狂ったように叫び、彼に飛びかかろうとした。
けれど、ステージの袖から現れた数人の男たちに、いとも簡単に組み伏せられた。
「離して! 離しなさいよ! 私はインフルエンサーの美玲よ! 400万人のフォロワーがいるのよ!!」
私が叫ぶたびに、会場からは嘲笑が漏れる。
ふと、床に落ちた自分のスマホに目をやった。
通知は止まらない
でも、それは称賛ではなく罵倒。
そして、画面の隅でフォロワー数がついに「0」になった。
私が築き上げた帝国は、一瞬で消えた。
残ったのは、数億円という違約金の請求書と、一生消えない「殺人者」の烙印だけ。
「美玲さん。事務所との契約は解除されました。警察の方も、当時の証拠隠滅について詳しくお話を聞きたいそうです」
包帯を巻いたマネージャーの佐藤が、冷淡な声で告げる。
誰も、私の味方はいない。
世界中の人間が、私の「ざまあ」な末路をエンターテインメントとして消費している。
「……あ。ああ……」
私は力なく、ステージの上に膝をついた。
その時、愛の兄が私の前に歩み寄り、一通の封筒を差し出した。
「ラストシーンだ。君が愛に書かせた『遺書』の裏側。……君、読んでなかっただろう?」
震える手で受け取り、裏返す。
そこには、愛の綺麗な字で、一言だけ書き添えられていた。
『美玲さんを恨まないで、赦してあげて欲しい』
「──っ!!!」
突き刺さるような衝撃。
私は彼女を壊して、笑っていた。
なのに、彼女は最期の瞬間にさえ、私を赦そうとしていた?
その「優しさ」が、今の私にはどんな罵倒よりも残酷なナイフとなって、心臓を抉った。
「君は一生、死ぬまで自分を呪いながら生きるんだ。…それが、僕と愛からのプレゼントだよ」
愛の兄は、一度も振り返ることなくステージを降りた。
会場の明かりが、ゆっくりと消えていく。
「待って……行かないで。誰か、私を見て……! 誰か、私の名前を呼んでよ!!」
真っ暗になった会場に、私の悲鳴だけが虚しく響く。
スマホの画面だけが、冷たく、青白く
私の絶望した顔を照らし続けていた。
◆◇◆◇
後日談───
ネットには、かつてのカリスマ・美玲が警察車両に乗り込む際の、やつれ果てた姿が溢れていた。
人々は新しい「獲物」を探し、彼女のことなんてすぐに忘れるだろう。
けれど、彼女の耳の奥には
一生消えない「カチン」という撮影開始の音が、今も鳴り続けている。
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