コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「思うようになるなどと……私が望んでいるのは、ただひとつですから……」
私に見せつけるかのように、彼が指をすっと一本立てる。
「……ひとつ?」
「そう、ひとつ……」
そう応じて、メガネのレンズ越しにふっと目を細めると、
「……君が、私に、自分から心も体も許すこと……」
口角の両端を引き上げ、薄く微笑って見せた。
「そんなこと、あるわけがないです……自分からだなんて……」
「あるわけも? この部屋まで、自ら付いてきたのに?」
ワイングラスの細い柄を長くしなやかな指で摘まんで、
「……あなたが自らそうされたいと思うのに、たいして時間はかからないはずです……」
まるで私の心の奥を見透かしたようにも話すと、彼は赤ワインを唇へと流し込んだ──。
「理解していますよね? ……あなた自身も、この私からは逃げられないことぐらい……」
絡みつくような眼差しが向けられ、何も返せずにいると、
「もう少し、ワインをどうですか?」
と、ボトルが傾けられた。
注がれるままに、駆け引きに強張って渇く唇を、ワインで湿らせる。
「……私に気を許すつもりがないのなら、無理強いはしません……」
一方の彼はこちらを見据えると、本気とも嘘ともつかない口ぶりでそう言って、ワインをグッとひと息に飲み干した。