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「思うようになるなどと……私が望んでいるのは、ただひとつですから……」


私に見せつけるかのように、彼が指をすっと一本立てる。


「……ひとつ?」


「そう、ひとつ……」


そう応じて、メガネのレンズ越しにふっと目を細めると、



「……君が、私に、自分から心も体も許すこと……」



口角の両端を引き上げ、薄く微笑って見せた。


「そんなこと、あるわけがないです……自分からだなんて……」


「あるわけも? この部屋まで、自ら付いてきたのに?」


ワイングラスの細い柄を長くしなやかな指で摘まんで、


「……あなたが自らそうされたいと思うのに、たいして時間はかからないはずです……」


まるで私の心の奥を見透かしたようにも話すと、彼は赤ワインを唇へと流し込んだ──。


「理解していますよね? ……あなた自身も、この私からは逃げられないことぐらい……」


絡みつくような眼差しが向けられ、何も返せずにいると、


「もう少し、ワインをどうですか?」


と、ボトルが傾けられた。


注がれるままに、駆け引きに強張って渇く唇を、ワインで湿らせる。


「……私に気を許すつもりがないのなら、無理強いはしません……」


一方の彼はこちらを見据えると、本気とも嘘ともつかない口ぶりでそう言って、ワインをグッとひと息に飲み干した。

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