テラーノベル
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鉄の村の鍛冶場には、朝から金属音が響いていた。
炉の火が赤く燃え、壁に掛けられた工具が振動する。村人たちは交代で槌を振るい、K-Tは壊れたガラケーを作業台の上に置いていた。
折れたアンテナ。
ひびの入った画面。
歪んだ外装。
内部の回路にも、剣で受けた衝撃による損傷が残っている。
村人の鍛冶師が、端末を覗き込んだ。
「こんな小さな道具に、これほど複雑な仕組みが入っているのか」
「通信と位置情報、端末の状態確認ができる」
K-Tは答えた。
「それに、データの検出機能もある」
「武器ではないのだな」
「使い方によっては、武器より重要だ」
K-Tは小さな工具を使い、ガラケーの裏蓋を外した。
村人たちが周囲に集まる。
機械に詳しい者は少ないらしく、誰も口を挟まずに作業を見守っていた。
まず、折れたアンテナを取り外す。
次に、内部の接続部を調べた。
「電力供給が不安定だ」
「それなら、こちらの鉱石粉を使え」
鍛冶師が青い粉末を差し出した。
「青い鉱石は、村の装置にも使われている。微弱だが、長時間にわたって電気を流す性質がある」
K-Tは粉末を確認した。
「導電性の補助材として使える」
「意味は分からないが、使えるなら使え」
K-Tは鉄の細い板と青い鉱石の粉を組み合わせ、破損した端子をつなぎ直した。
画面を固定していた枠は、薄い鉄板を加工して補強する。折れたアンテナの代わりには、村の通信塔から外した金属線を使った。
作業は何度も止まった。
接続が合わない。
電源が入っても画面が消える。
内部の警告表示が繰り返し現れる。
それでもK-Tは、やり直すたびに原因を切り分けていった。
「休まなくていいのか」
鍛冶師が尋ねる。
「必要ない」
「あなたは、仲間を探しているのだろう」
「ああ」
「なら、焦るべきではない」
K-Tの手が止まった。
鍛冶師は炉へ薪を入れながら続けた。
「焦って作った武器は、持ち主を傷つける。急いで打った刃は、敵に届く前に折れる」
K-Tは、作業台の上に置かれたガラケーを見た。
「分かっている」
「本当に?」
K-Tは答えなかった。
レイナの剣が胴体を貫いた感覚は、まだ消えていない。
目を閉じると、仲間たちが倒れていく光景がよみがえる。
メバルの叫び声。
カキが地面へ叩きつけられる音。
マサカゲが剣を構える姿。
ミステーの被り物に突き刺さった矢。
アオノの装置から散った火花。
K-Tは目を開いた。
「焦ってはいない」
そして、最後の接続部を固定した。
ガラケーの蓋を閉じる。
電源ボタンを押した。
一度、画面が暗くなる。
続いて、ひび割れた液晶に白い光が浮かび上がった。
端末が起動した。
村人たちから、低い歓声が上がる。
K-Tは画面を確認した。
時計。
電池残量。
位置情報。
メール。
すべての表示が戻っているわけではない。画面の一部には黒い線が走り、アンテナの感度も低い。
それでも、使える。
K-Tは通話画面を開いた。
「……メバル」
登録名を選択する。
呼び出し音の代わりに、雑音が流れた。
やがて画面に、小さな文字が表示される。
――接続先、圏外。
K-Tは通話を切った。
次に、端末情報を開く。
村人の顔が近づいた。
「何が分かる?」
「この世界の地図情報が、少しだけ戻った」
K-Tは画面を拡大した。
鉄の村。
最初の草原。
洞窟。
そして、森の奥に点滅する青い印。
「この反応は?」
「あなたの仲間のものか」
「違う。レイナが使った矢に残っていた鉱石の反応だ」
K-Tは画面を見つめる。
「仲間は、この方向に向かっている」
鍛冶師が地図を覗き込んだ。
「そこには洞窟がある。村からは遠い。昔、鉱石を掘るために使われていた場所だ」
「今は?」
「誰も近づかない。入口が閉ざされている」
K-Tはガラケーを閉じた。
「武器の設計を始める」
鍛冶師が眉を上げた。
「もう行かないのか?」
「武器が必要だ」
K-Tは壁に掛けられていた設計図を外した。
「俺は、一人でレイナを止められなかった。仲間を守るためには、同じ武器では足りない」
「何を作る?」
K-Tは設計図の空白へ、いくつかの線を引いた。
「近距離でも中距離でも使える。防御にも転用できる。装甲の関節を狙える武器」
「そんな都合のいいものがあるか」
「作る」
K-Tは、トンファーの構造を基礎にした。
片手で扱える長さ。
内部に青い鉱石を組み込み、打撃の瞬間だけ衝撃を増幅する機構。
柄の側面には、伸縮する金属刃を取り付ける。
さらに、ガラケーのアンテナから得たデータ転送機能を応用し、装置や敵の動力接続部を一時的に停止させる接触端子を設ける。
「武器の名前は?」
鍛冶師が尋ねた。
「まだ決めていない」
「村では、形に名前を付ける。名前があれば、作る者も使う者も目的を忘れない」
K-Tはしばらく黙った。
「護衛用だ」
「それだけか」
「仲間を守るための武器」
鍛冶師は頷いた。
「なら、守護槌と呼ぼう」
「槌ではない」
「名前は、形より目的で決まる」
K-Tは否定しなかった。
炉の火が、設計図を赤く照らす。
*
一方、森の奥では、メバルたちが崖の前に立っていた。
そこには、巨大な岩壁がそびえている。
洞窟の入口は見えない。
しかし、アオノが近づくと、岩壁の一部に青い光が浮かび上がった。
「ここ」
アオノが短く言った。
マサカゲが周囲を確認する。
「入口が隠されているのか」
「岩そのものではない。前面に偽装用の壁がある」
アオノは小型の装置を取り出した。
村を出る前に、壊れた自動迎撃トラップの部品を組み替えて作った簡易探知機だった。青い鉱石の反応を読み取り、周囲の機械構造を探すことができる。
装置の先端を岩壁へ近づける。
低い音が鳴った。
「内部に空洞。厚さは約三メートル」
「レイナの隠れ家?」
「可能性が高い。矢の反応は、この奥から続いている」
メバルは岩壁に手を触れた。
「レイナ、この中にいるのかな」
「断定はできない」
アオノが答える。
「だが、入口を通過した痕跡がある」
カキが周囲を見回した。
「入った痕跡って、どこに?」
アオノは地面を指差した。
草の間に、細い溝が伸びている。
何か重いものを引きずったような跡だった。
「矢筒か、装備の一部。ここで方向を変えている」
「じゃあ、間違いないね」
メバルが言った。
「中にいる」
「それなら、入口を開けるぞ」
マサカゲは剣を抜いた。
岩壁の中央に、わずかな継ぎ目がある。よく見なければ、ただの傷にしか見えない。
カキが剣の先を差し込んだ。
「よし……こじ開ける!」
体重をかける。
金属が擦れる音がした。
しかし、扉は動かない。
「硬すぎる!」
「無理に押すな。周囲の構造が崩れる可能性がある」
マサカゲが止めた。
ミステーは扉の前にしゃがみ込み、継ぎ目を眺めている。
「この扉は、開けられたくない扉」
「それは見れば分かるよ」
メバルが返した。
「でも、開けられたくない扉は、開けると驚く」
「何が?」
「本人も、扉も」
ミステーはピラミッドの被り物を外そうとした。
「ちょっと待って!」
メバルが慌てて止める。
「それ、盾にするんじゃないの?」
「盾ではない。開錠道具」
「どうやって?」
「ぶつける」
「それは開錠じゃなくて破壊だよ!」
その間に、マサカゲが扉の構造を確認していた。
「鍵穴はない。機械式の封鎖装置が内部にある」
アオノが扉の横へ回り込む。
「電力が流れている」
「電力?」
「この扉は、青い鉱石による動力で固定されている。力で開けるより、動力を止めた方が早い」
「止められる?」
「試す」
アオノは、壊れた自動迎撃トラップから外したコードを扉へ接続した。
小さな火花が散る。
扉の奥で、重い機械が動いた。
ゴゴゴゴゴ、と地面が震える。
「来るよ!」
カキが剣を構えた。
扉の周囲に、細い穴がいくつも開く。
「迎撃装置!」
アオノが叫んだ。
穴から矢が飛び出す。
マサカゲが前へ出て、剣で矢を弾いた。カキはメバルとミステーを引っ張り、岩陰へ押し込む。
「みんな、奥へ移動して!」
メバルが叫んだ。
矢が岩壁に突き刺さる。
一本がカキのオレンジ色のヘルメットをかすめた。
「危なっ!」
「カキ、無事?」
「ヘルメットがなかったら、今ごろ俺の頭が二つに分かれてた!」
「それ、無事じゃないよ!」
アオノはコードを引き抜き、別の端子へ差し替えた。
迎撃装置の動きが不規則になる。
「あと少し」
「あと少しって、どれくらい!」
「十秒」
再び矢が飛んだ。
マサカゲが受け止め、ミステーがピラミッドで押し返す。
「ミステー、今の使い方は正しい!」
「扉も、驚いている」
「本当に?」
「機械音が大きくなった」
アオノが最後の端子を接続した。
青い光が扉全体を走る。
次の瞬間、内部から大きな音が響いた。
固定装置が一つ、外れる。
「開く!」
マサカゲが言った。
しかし、扉は数センチ動いただけで止まった。
隙間の向こうから、冷たい風が吹きつける。
洞窟の中には、明かりがない。
代わりに、奥から低い機械音が響いていた。
誰かがいる。
あるいは、何かが動いている。
メバルは、なくした麻酔銃の代わりに短いナイフを握った。
怖い。
足が震える。
それでも、扉の隙間から目を逸らさなかった。
「この先に、レイナがいる」
マサカゲが言う。
「Kさんのことも、知っているはず」
メバルは頷いた。
「開けよう。今度は、絶対に置いていかない」
カキが扉へ肩を当てる。
「せーのっ!」
五人が一斉に押した。
金属製の扉が、低い音を立てて開いていく。
隙間が広がるにつれ、洞窟の奥に並ぶ青い光が見え始めた。
それは鉱石の明かりではなかった。
無数の装置が、壁一面に埋め込まれている。
そして、その中央には、弓を背負った人影が立っていた。
レイナだった。
彼女は五人を見ても、驚かなかった。
「来ると思っていた」
レイナの声が、暗い洞窟の中に響く。
メバルはナイフを握り直した。
「Kさんはどこ?」
レイナは答えなかった。
代わりに、洞窟の奥にある巨大な装置へ視線を向ける。
「あなたたちは、もう帰れない」
扉の奥で、何かが起動した。
青い光が一斉に灯り、洞窟全体が震え始める。
五人は、開ききっていない扉の前で立ち尽くした。
くろぬか
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コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 今回もすごく心に刺さったよ。K-Tがガラケーを直しながらも、仲間を失う映像がフラッシュバックするところ、読んでて息が詰まった…。あの「焦ってない」って言い聞かせる感じ、痛いほど伝わってきた。 一方でメバルたちも洞窟の前で必死に立ち向かってて、特にミステーの「ぶつける」にはちょっと笑ったけど、その後の迎撃装置との戦闘は本当にスリリングだった。そして最後のレイナの冷たいセリフ…もう続きが気になって仕方ないよ😢