テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#カンヒュ好きと繋がりたい
八つ橋
299
#フォロワー様記念企画
八つ橋
112
#相談
波風 かなで
82
276
洞窟の奥で、巨大な装置が低く唸っていた。
壁面に埋め込まれた青い鉱石が、一つ、また一つと明滅していく。中央には円形の金属板が浮かび、その表面を複雑な線が走っていた。
レイナは、その装置の隣に立っている。
弓は背中に戻されていた。
剣も抜いていない。
ただ、五人を静かに見つめている。
「Kさんはどこ?」
メバルが尋ねた。
返事はなかった。
レイナは振り返り、装置の中心へ手を伸ばした。
「待って!」
マサカゲが叫ぶ。
だが、レイナの指が金属板に触れた。
巨大な装置が、地面を震わせるほどの音を立てる。
円形の金属板に赤い光が集まり、次の瞬間、細い光線となって放たれた。
光線は洞窟の入口へ向かって一直線に走り、開きかけていた扉の端を通過した。
扉全体が、赤く点滅した。
赤。
消える。
赤。
消える。
金属の扉が、まるで警告するように明滅している。
「何だ、今の光は!」
カキが叫んだ。
光線は扉を焼かなかった。
壊しもしなかった。
ただ、触れた部分を赤く点滅させている。
アオノが目を細めた。
「接触した物体に、特殊な反応が起きている」
「特殊な反応って何?」
メバルが尋ねる。
「まだ分からない」
アオノが答えた直後、レイナが小さく何かを呟いた。
「……八四〇一六三九二七五、一二、七六二九一〇四八三一」
声は機械音に紛れ、五人には聞こえなかった。
レイナの視線が、赤く点滅する扉へ向く。
次の瞬間、扉が消えた。
崩れたわけではない。
溶けたわけでもない。
そこに存在していたはずの金属の扉が、音もなく消滅した。
扉のあった場所には、暗い洞窟の壁だけが残されている。
カキが息を呑んだ。
「……今、消えたよな?」
「全員、光線から離れろ!」
マサカゲが叫んだ。
五人は一斉に散った。
赤い光線が、洞窟の中を横切っていく。
光線が岩壁に触れる。
岩壁が赤く点滅する。
次の瞬間、岩の一部が消えた。
轟音とともに天井の一部が崩れ、細かな石が降り注ぐ。
「消滅させられる!」
カキが叫んだ。
「装置に触れたものは、全部消えるんだ!」
「まだ断定するな!」
マサカゲが答えた。
「岩も扉も、消えたじゃないか!」
カキは岩陰へ飛び込んだ。
そのすぐ横を、光線が通り過ぎる。
赤く点滅していた鉱石が、音もなく消えた。
アオノは装置を観察していた。
装置の中央部が回転し、光線の向きを変えている。照準の動きは滑らかで、まるで洞窟内のものを一つずつ確認しているようだった。
「光線は、対象を追っている」
「止められるか?」
「構造が分からない」
「なら、壊せ!」
マサカゲが叫んだ。
アオノは腰の工具へ手を伸ばした。
しかし、その前に光線が彼らの頭上を通過する。
マサカゲは剣を抜き、光線を防ごうとした。
「触れるな!」
アオノの制止が間に合わない。
光線が剣の先端に触れた。
剣が赤く点滅する。
マサカゲはすぐに手放した。
剣は地面に落ち、数秒間、赤と黒の明滅を繰り返す。
レイナが、また何かを呟いた。
「……三六一〇二九八八四七、一八、九〇二一四四〇七六三」
声は小さかった。
マサカゲたちには聞き取れない。
赤く点滅していた剣が消えた。
残されたのは、何もない地面だけだった。
「剣まで……」
マサカゲが歯を食いしばる。
「触れたものを、完全に消す装置か」
レイナは何も言わない。
再び金属板が回転した。
赤い光線が、メバルへ向かう。
「メバル、左!」
アオノが叫んだ。
メバルは横へ飛んだ。
光線は足元を通り過ぎ、洞窟の床を赤く染める。
床の一部が消え、深い穴が開いた。
「きゃあっ!」
メバルはバランスを崩し、岩壁へ手をついた。
その手に、光線が触れた。
「えっ……」
左手が赤く点滅し始める。
指先だけではない。
手袋も、腕も、衣服も、赤い光を明滅させていた。
「メバル!」
カキが駆け寄ろうとする。
「来ないで!」
メバルが叫んだ。
自分の腕を見つめ、激しく震えている。
「何これ……嫌だ……これ、私も消えるの?」
光は腕から肩へ広がっていく。
「アオノ、どうすればいいの!」
「離れて。接触した部分に変化が起きている」
「そんなの見れば分かるよ!」
メバルは腕を押さえた。
銃を持っていれば、もっと冷静にいられたかもしれない。
だが、今の彼女の手には武器がない。
怖い。
怖くて、呼吸がうまくできない。
「Kさん……」
メバルは無意識に呟いた。
レイナが再び口を動かす。
「……六七〇五二二一九八三、一一、四〇八三六一七二九四」
メバルの体全体が赤く点滅した。
「待って、私、まだ――」
言葉の途中で、輪郭が崩れ始める。
体が消えていく。
光の粒になったわけでもない。
倒れたわけでもない。
ただ、赤く明滅するたびに、存在が薄くなっていった。
「メバル!」
カキが叫んだ。
「助けて、カキ!」
メバルは手を伸ばす。
カキも手を伸ばした。
だが、二人の指が触れるより早く、メバルの姿が完全に消えた。
何も残らない。
包帯も、ポーションも、彼女が持っていた道具も残っていなかった。
「メバル……?」
カキの顔が引きつる。
「嘘だろ……」
「カキ、動くな!」
マサカゲが叫んだ。
遅かった。
光線が、カキのオレンジ色のヘルメットに触れた。
ヘルメットが赤く点滅する。
「俺のヘルメットが!」
カキは慌てて脱ぎ、地面へ投げた。
赤く点滅するヘルメットは、すぐに消えた。
カキは自分の頭を触った。
「消えた……本当に、消えた……」
その直後、別の光線がカキの右足を捉えた。
靴が赤く点滅し、足全体へ光が広がっていく。
「嫌だ!」
カキは走った。
しかし、光線は彼を追い続ける。
右足から腰へ。
腰から胸へ。
「俺は、まだ消えたくない!」
カキが剣へ手を伸ばす。
だが、その剣はすでに消えている。
「誰か、助けてくれ!」
マサカゲが駆け出そうとする。
アオノが腕をつかんだ。
「近づけば、あなたも消える」
「カキを見捨てろというのか!」
「救出方法がない」
「それでも――」
レイナが数字を呟く。
「……九一三〇四八六六二一、一五、二二九八三〇一七四五」
カキの姿が赤く明滅した。
「みんな、逃げろ!」
最後にそう叫び、カキも消えた。
洞窟の中に、彼の声だけが残った。
マサカゲは拳を握りしめる。
「次は俺たちだ」
「二人とも、消された」
アオノが静かに言った。
「この装置を止めない限り、全員が同じになる」
マサカゲは装置を睨んだ。
「壊せるか」
「近づく必要がある」
「なら、俺が時間を作る」
マサカゲは落ちていた金属片を拾い、装置へ向かって投げた。
金属片が光線に触れ、赤く点滅する。
レイナが数字を呟く。
金属片が消えた。
マサカゲはその瞬間に走り出した。
装置へ近づく。
しかし、光線が横から迫った。
マサカゲは身を翻したが、左肩に光が触れた。
「くっ……!」
肩が赤く点滅する。
マサカゲは肩を押さえ、歯を食いしばった。
「アオノ、行け!」
「あなたを置いていけない」
「俺はもう、長くない!」
赤い光が、肩から首へ広がる。
マサカゲは装置を睨んだ。
「メバルも、カキも、お前も、俺も……全員消される」
レイナが何かを呟いた。
その声は、最後まで聞き取れなかった。
「アオノ、ミステーを連れて――」
マサカゲの姿が、赤い光の中へ消えていった。
アオノは、マサカゲがいた場所を見つめた。
そこには、何も残っていない。
武器も、装備も、痕跡もない。
アオノは装置の構造を見た。
破壊するには、さらに近づかなければならない。
しかし、装置はすでに次の照準を合わせていた。
「アオノ」
ミステーが呼んだ。
「次は私たち」
アオノは頷いた。
「逃げる」
二人は別々の方向へ走った。
光線がアオノを追う。
アオノは岩陰を利用し、装置の視界から外れようとした。
だが、光線は壁を回り込んだ。
右手に触れる。
赤く点滅する。
アオノは自分の手を見た。
「……回避不能」
冷静な声だった。
それでも、指先はわずかに震えている。
レイナが数字を呟く。
アオノの姿が赤く明滅し、輪郭が薄くなる。
「ミステー、扉へ」
「アオノは?」
「消える」
「そう」
アオノは消えた。
ミステーだけが残された。
彼女は巨大な装置と、赤い光線を見つめた。
黄色と黒のピラミッドを両手で構える。
「これは、消す光」
光線がピラミッドに触れた。
被り物が赤く点滅する。
ミステーの腕も、肩も、全身も赤く明滅していく。
レイナは最後の数字を呟いた。
「……八〇二七一四五三九一、二四、六一四〇九三二八七六」
ミステーはレイナを見た。
「あなたは、知っている」
レイナの表情は変わらない。
「何を?」
「この光が、どこへ消すのか」
レイナは答えなかった。
ミステーの姿が薄れていく。
「みんな、消えた」
ミステーは静かに呟いた。
「私も、消える」
その直後、彼の姿も完全に消えた。
洞窟には、誰もいなくなった。
レイナは巨大な装置へ手を伸ばす。
「解除」
その一言で、赤い光が消えた。
青い鉱石の明かりだけが、洞窟を照らしている。
五人がどこへ行ったのか。
彼ら自身も知らない。
仲間たちも知らない。
そして、読者にもまだ知らされていなかった。
このとき五人は、消滅したと思い込んでいた。
コメント
1件
もうもう、第十一章、すごかったですね……。赤く点滅するたびに一人ずつ消えていく展開が、本当に切なかったです。特にメバルが「私、まだ――」と言いかけて消えるところ、胸が締め付けられました。最後の「消滅したと思い込んでいた」という一文に、まだ希望があるのでは?と感じて、次が気になって仕方ないです。K-Takasakaさんの構成、引き込まれました🌷