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うわ…第80話、すごかった…。黒い巨人の迫力がやばくて、ページめくる手が震えたよ。特に修くんが「わからない…」って追い詰められていくとこ、胸が締め付けられた。魔女の「この世は物語なんかじゃない」って言葉もグサッときた…。でも由宇が「川…門がある川…」って絞り出した場面、すごく印象に残った。みんな必死で、もう限界なのに前に進もうとしてて、切なくて泣きそうになった。続き、早く読みたいよ…😢
僕はその巨人の姿に見覚えがあった。 先程、ナギの走馬灯で見たばかりだ。
ナギと蒼梧の父親にトドメを刺した、魔女が変身した黒い巨人。
もっともその大きさは、走馬灯の時の倍ほどはある。
二十メートル、いや、もっとか——魔女の棲家である立方体の、半分近い身長だ。
異なるのは、大きさだけではない。
竜と化した父親を相手にしていた時のような——そして、先ほどまで僕らを相手にしていた時のような〝遊び〟は殆ど感じられない。
全身から、どす黒い殺意が迸っていた。
辺りが闇に包まれているため分かりづらいが、体中の赤い目によって、全身の輪郭は掴むことができた。
巨人は足場にしていた立方体からふわりと浮かび上がると、ゆっくりと姿勢を前傾させた。
そのまま両足を交互に上下させ、両手で虚空をかき分ける。
巨人の体が、こちらへと向かってくる——空を泳いでいる。
「修!どうする!?」
全速力で空を飛びながら、蒼梧が叫ぶ。
「ど、どうするって言われても——」
あんな奴相手に、一体どうすればいいのか。
巨人の放つ威圧感は、まるで市場に居た恵比寿像のような——いや——下手をすればそれ以上の——
と、そこまで考えて。
僕はハッとして叫んだ。
「市場——市場はどう!?あそこなら、魔女だって下手に騒ぎは起こせないはず!何か役に立つものが売ってるかもしれないし——磯田さんも言ってたみたいに、助けてくれる人が居るかも——」
「駄目!」
叫んだのは、由宇だった。
僕が呪符を使うのを制止した時のように、声を絞り出して続ける。
「市場は……駄目……悪い……予感が……」
「ゆ、由宇?大丈夫?」
僕の問いに答えたのは由宇ではなく、彼女の傍らを飛んでいたにゃははうぺーだった。
「ちょっともう、限界かも——悪いけど、オーマをお願い」
「あ、ああ」
にゃははうぺーは僕にオーマの死骸を渡すと、光の粒となって由宇に吸収されていった。
僕は蒼梧の体に抱きつくようにしながら、右手で緑のたてがみを掴みつつ、左手でオーマの死骸を抱え込んだ。
「由宇さんの言う通り、市場はやめた方がいいです!」
僕の腕の中で、オーマが言う。
「以前にも、魔女の怒りをかった猫が市場に逃げ込んだことがありましたが、すぐに身柄を引き渡されてしまいました!」
「そ、そんな!どうして——」
「市場の神は、客ではないと判断したものには冷徹です!この勢いで逃げ込めば、騒ぎを持ち込んだと判断され、その場で恵比寿像の制裁を受ける可能性すらあります!」
では一体、どうすればいいのだ。
絶句する僕に、由宇が言う。
「川……門がある、川に……!」
川——幸村さんが言っていた、次元の門。
僕は、彼女の言葉を必死に思い返した。
境界街の近くの川に、次元の門が開いている。
今から一時間以内に、そこを潜れ——だったか。
時間を測ってはいないが、まだあれから一時間は経っていないはずだ。
「オーマ!街の近くに、川は流れてる!?」
「え?えーと——この場所からだと、確か——二時の方向に——」
「蒼梧、二時の方向に飛んで!」
真っすぐ飛んでいた蒼梧が、進路を変える。
下を見ると、街のあちこちに灯りがともり始めていた。
きっと〝夜〟の時だけ使用する街灯や、室内の灯りがあるのだろう。
「どこへ逃げたって無駄だよ——」
後方から、魔女の声が追いかけてくる。
「お前ら、どうせ自分達を〝主人公〟だとでも思ってるんだろう——勇気を出し、知恵を絞り、力を合わせ——そうすりゃ最後は大団円で幕が下りるってねえ——でも残念——この世は物語なんかじゃあない——伏線を回収した華麗な逆転劇もなければ、明日を前向きに生きるための教訓もない——」
魔女の声を振り切るようにして、僕らは街の上空を飛び続けた。
次第に、灯りの数が減っていき——完全な闇が、僕らの真下に広がった。
「山だ!これを越えればいいのか!?」
夜目の効く蒼梧には、周囲の様子がはっきり見えているらしかった。
「はい!ここを越えれば、川があります!」
オーマがすぐさま答えるが、
「おい!何とか言えって!おい!」
どうやら、死骸の声は蒼梧には聴こえていないようだった。
「それでいいよ!山を越えて!」
オーマに代わって、大声で怒鳴る。
やがて——僕の耳に、濁流の音が飛び込んできた。
「あった!山と山の間に、川が流れてる!」
「渦は!?蒼梧が僕らの世界に流れ着いた時に潜った、渦みたいなものはない!?」
「わからねえ――修の直感で、どうにかならないか!?」
くそ——やっぱりこうなるのか。
おそらく、由宇は蒼梧の背にしがみつくのがやっとの状態だろう。
僕が何とかするしかない。
僕は目を瞑り、必死に門の気配を探した。
いや——探そうとした。
だが。
「無駄だって言ってるだろうが——」
しゃがれた声が、おぞましい生き物のように左右の耳から侵入し、僕の心をかき乱す。
声は徐々に近づいてきている気がしたが、振り返り、正確な距離を確かめる勇気はなかった。
「たとえどこまで逃げようが、地の果てまで追い詰める——お前らは死ぬ——意味も価値もない、単なる死——それを今から、アタシが与えてやる——」
駄目だ。
勘が全く働かない。
迫り来る巨人の気配が——死の気配が、余りにも大き過ぎる。
「前方!川が二つに分かれてる!どっちに行けばいい!?」
蒼梧の声が、遠くから聴こえる。
しかし、僕は答えない。
答えられない。
怖い。
ただただ、怖い。
恐怖で、歯がガチガチと震える。
上手く呼吸ができない。
「おい!修!」
ごめん、蒼梧。
ごめん、みんな。
わからない。
わからないんだ。
僕にはもう、何も——何一つ、わからない——……
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