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瑠璃🍫✨💭ྀི
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「ああ、橘さんね、あの人はこっちにはいないの。奥さんも向こうの支社で出会った人だから戻ってこないだろうなぁ。たまに出張で来るくらい。三宅くんもそうだしねもう滅多に会わない」
「そっか」
「どのみち既婚者だし。済んだ話だよ」
「そうだけど、わかんないじゃん」
「たまたま。話の流れで昔話になっただけで、ずっと一緒にいて何もなかったのに今更どうにもならないよ。そういうことで、私はなけなしの勇気を出したってこと。タイミングは……どうだったのかわからないな」
広睦くんとの事においてはタイミングとかそんな問題ではないのだから。
「それでも俺は、声かけてくれて良かったなって思ってますよ。あと、何か色々諦めてないから。ああ、覆して悪いけど。この期間でなんとかしようとも思ってんだよね、実は」
「え、諦めるって……」
「うん。誰か見つかればね。でもその前に何とか出来ないかなってずーっと思ってるよ、俺は」
「何とかって……」
「はははは、その顔! 」
私がどんな顔をしているのか見えないけど、広睦くんの屈託ない笑顔に、鼓動がせわしなく聞こえてしまわないかと心配した。
“あの頃の恋”をやり直している。そうかもしれないって思ったけど、全然違うよ、私が学生の頃はこんなに素敵な子はいなかった。
困る。
諦めてくれないと困る。なのに、嬉しくて、本当に困る。時が……
「時が止まればいいのにね」
私が思ったことが広睦くんの口から出て来た。
「何を子供みたいなバカなことをって思ったでしょ」
「そうだよ、ほんと何言って……。私も、同じこと思ってた」
否定しようとして言い直した。今は素直になりたい。そう思ったから。
「え? 」
「私も今、時が止まればいいのにって思ってた」
広睦くんは一瞬驚いた顔をして、それからくしゃくしゃな笑顔で私に両手を広げた。
気がついたら私も広睦くんの胸に飛び込んで笑っていた。
ねえ、やっぱりこんな所で抱きつくなんて、気持ちだけは恋に夢中で周りが見えなかった頃に戻ってるのかもしれないな。
広睦くんと会ってる時はこの時間の事だけ考えよう。
年相応の私じゃいられないかもしれないけど、広睦くんの彼女でいられる時くらいいいでしょ。何でもない街中でバカみたいにはしゃいで、声だっていつもより高くなっていた。
広睦くんの買い物につき合って、お揃いの帽子は断って、欲しいものを聞かれて「日傘」と答えればリアルすぎだって笑われた。
買い食いしてしまったので晩ご飯の時間はあまりお腹が空いてなくて、軽くのつもりで和食のお店にしたけど広睦くんの前にはがっつりとしたカツ丼とざるそばのセット。
「ごめん、お腹空いてたのね」
「えー、軽めだけどこれ」
「へー……そうなんだ」
これが、という気持ちで見ていたけど、広睦くんは広睦くんで私のざるそば単品を見て“マジ? ”という顔をしている。
「食べます? 」
と自分のカツ丼を差し出そうとするので丁重にお断りする。
「やっぱり若いんだよねー。一緒に住んだらたっくさん作らなきゃならないね」
「え? 」
「え……」
「え、ああ。そうだね。食費かかって悪いなぁとは思いますけど」
「そんなこと気にしなくていいでしょ」
びっくりした。自分の口をついて出て来た言葉に自分で驚いていた。『一緒に住んだら』そんなこと考えたことも無かったのに。広睦くんが流してくれて助かった。そんなこと、あるはずもないのに。
広睦くんは食べ終わった後もまだ食べれるなって顔をしていて、笑った。
「のんびりできない店にしちゃったの失敗だな。でも、あっこの蕎麦うまかった」
「うん。思った。美味しかったよね」
「少し、歩いても? もう少し一緒にいたい」
「うん。あ、でも今日は結構歩いたんじゃない? やっぱり。あとちょっとで2万歩行くよ。ほらほら」
スマートウォッチの画面を見せると
「じゃあ、せっかくだから3万歩目指すか」
「や、無理でしょ」
本気か冗談かわからない表情に抗議する。
広睦くんはゲラゲラ笑いながらも腰掛ける所を見つけてくれた。
「待ってて、コーヒー買ってくる」
ちょうどコーヒーでも飲みたいなって思っていた。
アイスコーヒーを両手に戻って来た広睦くんは私の申し出を拒否して奢ってくれた。
「いただきます」
「うん。今日、どうでしたか」
「どう」
「楽しめたかってことです」
「うん、もちろん。何でそんなこと聞くの? 」
「例えば、社会人の男とのデートはどんな所に行くのかなって。張り合っても仕方ないからいつも通り過ごしたんだけど」
「何もかわらないよ。そんな気にしなくて。こうやって話すの楽しい」
「そっか、じゃあ、いいや」
ほっとした顔で広睦くんはぼんやりと空を見上げた。まだほんのり明るい空と綺麗な横顔は切り取って持っておきたいくらい素敵で胸が痛いくらいだ。
「今日これからどうする? 」
「これから、ですか? 」
首を傾げる広睦くんの表情ひとつひとつにたまらなくなる。いつもなら、もう少し話したら帰るって言うのに、この日はもう少し引き留めて欲しかった。
「うちに……くる? 」
広睦くんが返事するまで、ドクンドクンと心臓の音が耳の奥で聞こえる。
早く答えて、そう思うのに広睦くんは苦笑いするだけだった。
他愛無い話をして、飲み終わった空のコーヒーカップを持て余すようになったころ、広睦くんが立ち上がった。
「帰ろっか」
私の空のカップを引き取り自分のと合わせて店のゴミ箱へと持って行ってくれた。
背中を見送りながら、さっきの……流されたんだよね。そう認識する。
戻って来た広睦くんは躊躇いなく私の手を取ってぎゅっと握ると駅へと歩き出した。
別れ際の事だった。
「今までのデートと何にもかわらなかった? 」
「え、さっきのデートの話? うん。全然一緒だよ」
「全然かわらなくて、一緒。じゃあ、何で俺じゃダメなんですか」
ぎゅっと一度私の手を強く握ると広睦くんは笑って手を離した。
私はしばらくそこで小さくなっていく広睦くんの背中を見つめていた。
コメント
1件
うわああああ第32話もエモすぎる……!!😭💕 「時が止まればいいのに」ってお互い同じこと思ってるの、反則でしょ……!しかも広睦くんの「じゃあ何で俺じゃダメなんですか」が刺さりすぎて胸が痛いよ……。年齢とか立場とか全部飛び越えて、ただ一緒にいたいって気持ちがひしひし伝わってくる回だった……!次の展開が気になりすぎる〜!!🌸✨