猫さん蟹さん。

ガヤガヤと周りがうるさい。

そうです、俺は飲みに来ています。

ｰｰｰ

明るい雰囲気で楽しくわちゃわちゃとするのも随分久しぶりのことだ。

今回は久しぶりということもあり、キヨ君が｢歌い手君たちも呼ぶ｣と言っていた

もちろん俺や、うっしーたちも別にいいと思い｢いいよ｣と二つ返事をした。

そして、ゆっくりと時が流れるようにして、現在。

俺の隣には、今いるメンバーの中でも本当に久しぶりなまふまふ君が座っていた。

隅っこの席だったこともあり、右隣にまふまふ君がいるという状態でふわふわと中身のない会話を繰り広げていた。

なんていうんだろうなぁ…彼は…気軽に話せるのとの中間

その間の辺りで敬語を使いながら、たまにしか喋らない人と話すとやっぱり楽しい。

目鼻立ちが綺麗に整っているその人の横顔を眺めるとモデルさんみたいだなぁと感心してしまう。

そのうえ、話は面白いわ、笑顔が素敵だわで本当にこんな人と知り合えて、曲まで作って貰ったことに感謝しながらその人のいい声に耳を澄ませ話を続けた。

｢レトさん｣

｢え？｣

あれ？まふまふ君、さっきまでこんな声だったけ。

もっと高い声だった。これよりも大分。呼び方も…うん…？

それに…上から…？

俺は空っぽになりそうな烏龍茶を手に持ったまま、首を少しだけ声の聞こえてきた上に上げてみた。

ぽわぁ

そこには、まさにそんな効果音が似合う輩が立っていた。

ｰｰｰ

｢レトさん？無視？｣

｢え…？！あ、違う違う。違います。｣

普段お酒を控えており、お酒にはまあまあ強い方のキヨ君が珍しく酔っていた。

隣に座っていたまふまふ君も、苦笑しながら驚いている。

そいつの顔は風邪でもひいたのかと思ってしまうほどに真っ赤で、目もとも心なしか眠そうだった。

コイツがこんなに酔うことがあり得るのかと一緒に喋っていたらしきEve君に聞いてみようと試みた。

だが、そんなこともあっけらかんと失敗に終わる。

｢ねぇ、い…｣

｢レートさーん…｣

ぎゅうっと優しく、そして強く俺の体を急に抱きしめてきた感触がした。

俺はキヨ君と交際はしているが、不意打ちでやられるといつもドキッとしてしまう自分がいる。

｢……キヨ君。あのなぁ…｣

｢へへぇ…あったかいなぁ……｣

｢うぐぅっ…｣

名前を呼ばれたことさえも喜びと変えられているのか、にこにこと笑いかけてくる。

………でも、鬼にならなきゃ

｢…人いっぱいやし、またあとで｣

｢いーじゃねーかよー…｣

ぐりぐりと肩に顔をうずめてだだをこねる。

いつもは俺の方が振り回されてばかりだし、たまには仕返しくらいしてもいいだろ。

｢キヨくーん。今やめてくれたら後でご褒美あげる。｣

｢…ごほうび？｣

｢うん、そう。｣

ぴくっと猫のようにさらさらの髪の毛を揺らして反応する。

｢……なんでもいいの？｣

肩のぐりぐりも辞めて、ただ俺の肩に埋もれたまま聞いてくる。

｢ええ……それはあかんよ｣

｢…ふーん…｣

｢けど………俺からキスしたるよ｣

｢は？｣

顔をばっと上げて炭酸が弾けたかのように目をぱちぱちとして、長い睫毛を上下にする。

そうすると、軽くにやっと笑ったような横顔でまた、甘えたような声で喋りかけてくる。

｢えぇー…好きってレトさんの口から言ってはくれないの？｣

｢ききたいなぁー…｣

そいつはゆっくりと顔を上げて真上から見下げてくる。

その、酔った顔にはたいせいがついていなくてついつい、お願いを聞いてしまった。

｢………すき｣

｢……あー…言われてこっちもはずいわ｣

キヨ君は目を大きな手で覆い隠した。

ふむ、こんな反応をするってことは、俺は……

攻めだ！

だが、彼は一拍おいてから｢もう限界！｣と言わんばかりに口角を上げた。

｢あー…好き…｣

｢？！｣

｢くひひ｣と言いながらキヨ君は、Eve君たちの方を見ている。

ドッキリみたいな雰囲気がして嫌なのだが。

｢このね、赤いのはメイク。そんで、俺の態度は演技｣

｢な、なななんでこんなことやっとんの？！｣

驚きすぎて声が裏返る

｢いやあ…何となく？この場を借りて｣

皆を見渡すとうっしーたちは興味のなさそうな顔で、まふまふ君は少し、気づいていたと言う顔で

Eve君は分かりきっていたような眉を下げた笑みをしていた。

｢んで？レトさんからのキスは？ちゅーは？｣

さっきのことを忘れていないようでビクッとする。

｢……また…今度…｣

｢えー…帰ってからね。｣

｢いや｣

他愛のない会話を交わしてからキヨ君はまふまふ君と俺の間に割り込んだ。

そして俺の体をさっきよりも強く抱きしめた後、ぶっきらぼうに声を放った。

｢いくらまふ君でも、手は出さないでね。俺のだから。｣

え…………はぁ…。

こいつ…独占欲がつよいっていうか…なんて言うか…。

俺は目を軽く細めて

ちょっとはキヨ君も酔いがまわっているんだろうなと思い、空の烏龍茶のグラスを優しく握った。

fin.

ｰｰｰ