テラーノベル
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広場には今日も人がたくさんいた。鳩が小さなパンくずをつつく足元を、誰も気にせずに歩いていく。少し離れた噴水の前で、男の子が風船を持って笑っていた。
私は、ただベンチに座っていた。何かを言おうとしたけれど、言葉は口の中で溶けてしまった。音にはならなかった。
スマホの画面を開いて、何も書かれていない投稿欄を何度も見つめる。書いては消して、また書いては消して、気づけば30分が過ぎていた。
誰かが「わかるよ」と言ってくれたら、それだけで違ったのかもしれない。でも、みんな忙しそうで、誰も画面の向こう側を見てはいない。
隣の席に座った女性が、楽しそうに誰かと電話をしていた。笑い声が風に混ざって消えていく。私は目を閉じた。ほんの少し、声が届いてほしいと願いながら。
「また来よう」と思って立ち上がった。でも、次に来たとき、誰かが気づいてくれる保証なんてどこにもない。
それでも、私は今日もここにいた。風の中、少しだけ手を伸ばしてみた。誰かがその手を取ってくれることを、まだどこかで願いながら。
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