テラーノベル
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翌日、ヒミコ、マユキ、トワノとトモエは、深夜の繁華街の路上に立っていた。四月にしては気温が高めで霧雨が断続的に降っていて、湿気がまとわりつく様な感じだった。
天気のせいもあってか、普段は深夜でも人通りが絶えないであろうその場所は、人影はまばらでビルの壁面から突き出した無数の夜の店の看板が、煌々と輝いているだけだった。
ラーメン屋や安っぽそうな居酒屋の電灯が消え始めた頃、ヒミコたちが見張っていたビルのエントランスから派手な化粧をしてセミロングの髪をまだらにピンク色に染めている二十代らしき女が出て来た。
女はだいぶ酔っているらしく、後ろから見送りに出て来たホストらしきスーツ姿の若い男が心配そうな顔で言った。
「アサミちゃん、大丈夫? タクシー呼ぼうか?」
アサミと呼ばれた女は大きく右手を振りながら断った。その女はヒミコたちが受け取った資料の中の写真に写っていた、美人局の女だった。
「大丈夫だって。もう一軒飲んで行くから」
男は精一杯の愛想笑いを浮かべて、アサミの傘を広げてやって手渡した。
「そう? じゃあ気をつけてね。来週にでもまた来てよね」
アサミは傘を掲げて後ろ向きのまま片手をバイバイの仕草で振った。ヒミコたち四人は少し距離をあけて彼女の後を追った。やがて人気が全く無い路地にアサミが入って行くと、透明なビニール傘をさしているヒミコがマユキとトワノにささやいた。
「この辺がいいやろ。やりよしや」
現代風に全体に細身に作ってある和傘をさしているマユキが、側の縁石に左脚を乗せて、薄いパープルのワンピースのひざ丈のスカートの裾を摘まんでまくり上げた。
透明な安物のビニール傘をさして後ろからついて来ていたトモエが少しびっくりして見ていると、マユキは白い太腿が露わになるまでスカートを捲り上げた。そのスカートの裏地には、細く白いチューブが縫い付けてあり、その先端の栓をマユキが親指で弾いて開けると、小さな円錐形の何かがマユキの手に落ちて来た。
マユキはスカートを元に戻し、さしている和傘の柄の下半分をくいっとひねった。その部分が柄から外れ、その円錐形の物を空洞になっている柄の内部に差し込んだ。
それからマユキは残った柄の部分を手に持って、傘の内側で隠すように、さっきまで傘の柄の下半分だった筒を唇にあてた。そのままの姿勢で四人の先頭に立ってアサミとの距離を詰めた。
アサミは結構酒が回っているようで、時折よろけながらゆっくりとした足取りで歩いている。マユキの胸が服の上からでもはっきりと分かるほど大きく膨らみ、ヒュッという音と共に、あの円錐形の物体が飛び出し、アサミの首の後ろに突き刺さった。
トモエは思わず声を上げそうになり、あわてて自分の手で口を覆った。そして小声でつぶやいた。
「あれって吹き矢? あれがマユキさんの武器か」
アサミは首の後ろに手をやり、チクリと感じた辺りをさすった。吹き矢がポロリと路面に落ちたが、彼女はそれに気づかなかったようだ。
「ん? 何だ? 虫か?」
そう言ってまたアサミは歩き始めた。三十秒ほど経って、急にアサミのよろけ方が大きくなり、ばたっとうつ伏せに路面に倒れた。
ヒミコたち四人はすぐにアサミの側に駆け寄り、彼女の周りを囲んで通行人から見えないようにした。ヒミコがわざと周りに聞こえるように言った。
「ちょっと、お嬢さん。どないしはったん? 気分でも悪いんですかいな?」
一人だけ傘をささず、大きな雨合羽を着ているトワノがその内側からノートパソコンを取り出して開いた。マユキがアサミの持ち物を物色して彼女のスマホを見つけ出し、トワノに手渡した。
トワノはコードでアサミのスマホと自分のノートパソコンを素早く接続し、カタカタとキーボードを叩いた。やがてノートパソコンの画面に、横向きの棒グラフが現れた。
最初は何をしているのか理解できなかったトモエも、画面の棒グラフが5%、10%と左から右へと伸びて行くのを見て、おぼろげながら察した。彼女のスマホのデータがトワノのPCにコピーされているのだと。
三分ほどでPC画面の棒グラフが100%に達し、トワノがスマホに繋がっているコードを引き抜き、アサミのスマホを彼女のハンドバッグの中に戻した。マユキがヒミコに向けて小声で言った。
「ねえ様、そろそろいいですわよ。麻痺薬の効果が切れる頃合いですわ」
ヒミコがアサミの体を抱き上げて大きくゆすった。アサミが「うう……」とうめき声を上げて目を開けた。自分が取り囲まれている事に気づき、びくっとして上体を起こした。ヒミコが何食わぬ顔でアサミに話しかけた。
「あんさん、大丈夫ですかいな? 急に目の前でばったり倒れはるからびっくりしましたで。救急車呼びますか?」
アサミは頭を激しく左右に振って、よろよろと立ち上がりながら答えた。
「いや、大丈夫。いけねえ、飲み過ぎたかな。悪いな、心配してもらって。平気そうだから、その辺でタクシー拾って帰るから大丈夫」
ヒミコが彼女の傘を手渡しながら言った。
「そうどすか? ほなら気をつけてな」
アサミが再び歩き出し、ヒミコたちは反対方向へ歩き出した。ヒミコがトワノに体を近づけてささやいた。
「事務所へ戻ったら、すぐにデータの解析始めてや。何かとっかかりが掴めるかもしれん」
コメント
1件
ああっ、今回めっちゃカッコよかった!!😭💕 マユキさんのスカート裏に仕込まれた吹き矢、完全にアサシンやん…!傘の柄で隠しながら放つ動き、脳内再生されたわ。 トモエちゃんが思わず声あげそうになるのも分かる〜初めて見たらビビるよな! 四人の連携プレーも無駄がなくて、スパイもの見てるみたいでドキドキした🕵️♀️✨ データ抜き終わって何事もなかったように去っていくの、プロやな…。 次、解析から何が出てくるのか気になりすぎる!続き待ってるよ〜🔥
#白拍子
菊池川詠人
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