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宝象国 牛鬼の借りの屋敷にてー
黒一色に染められた寝室のベットで、牛鬼と百花は肌を合わせていた。
会えなかった時間を埋めるように、愛おしい時間を過ごしていた。
だが、事を終えた百花は、ボーッとしたまま煙管を咥える。
「百花、浮かない顔をしてるな。」
「え?」
「何か、考えてるだろ?どうした。」
優しい声色で、百花に問う牛鬼。
「私は、牛鬼様の事を愛してる。だけど、小桃の顔が頭から離れないっ。私、小桃を殺さないといけないのに…。」
百花はそう言って、頭を抑える。
「可哀想な、俺の百花。お前を苦しめる存在はいらないだろ?
牛鬼は百花を抱き寄せ、ベットに倒れ込む。
「小桃は、お前を選ばない。分かってるだろ?」
「え?」
「小桃が何故、経文を守り続けてたと思う?それは、悟空と言う男に渡す為だろ?百花の為に守って来た訳じゃない。」
「牛鬼…様。小桃は、私の事を大事に思っていなかったと言う事?」
不安げな顔を見せながら、百花は牛鬼に尋ねる。
「良いか、百花。お前は俺の言う事だけを聞いていれば良いんだ。これからもずっと、俺の言葉だけに耳を傾けろ。」
「分かりました。」
「良い子だ、百花。」
トントンッ。
牛鬼が百花を抱き締めていると、軽く襖が叩かれた。
「何だ。」
「牛鬼様、美猿王の率いる妖達が花の都に集まっています。如何なさいますか。」
「白沢等は帰って来たのか。」
「はい、先程。ですが、見知らぬ顔の奴等を連れて帰って来まして…。」
牛鬼は近くに置いてある服を手に取り、ベットから腰を上げた。
「百花、お前も共に来い。」
「私も行って良いのですか?」
「あぁ、俺の女だろ?良いに決まってる。」
「っ!!急いで着替える!!」
バタバタどベットから降りた百花は、急いで服を着
替え、髪を整えた。
「お、お待たせしましたっ。」
「フッ、急がなくても良い。ほらっ、手を貸せ。」
「牛鬼様…、ありがとうございます。」
百花が手を差し出すと、牛鬼は百花の手を取り、自分の腕に絡み合わせた。
襖を開けると、顔を布で隠した妖が頭を下げていた。
「それで?話に出て来た野郎共もは、どこにいる。」
「はい、広間に待機させております。」
「お前は下がれ。」
「かしこまりました。」
牛鬼の言葉を聞いた妖は、一瞬で姿を消す。
百花と共に広間に訪れると、鱗青と牛頭馬頭の姿があった。
しかし、2人の周りには武器を持った妖達が囲っていた。
「牛魔王っ!?じゃない?アンタは誰だ?」
「お前、牛鬼様に!!」
槍を持った妖が、鱗青に向かって槍を刺す。
「あぁ、貴様は俺の愚弟が連れいた妖か。槍を下げよ。」
「かしこまりました。」
ガチャンッ。
牛鬼の指示に従い、妖は槍を下ろす。
「愚弟って、牛魔王の事を言ってるのか?ど、どう言う事なんだよ。」
「牛魔王は俺の器として生きていた、それだけだ。」
「は、はぁ?」
「お前達、何の用でここに来た。」
「牛鬼様、私がお連れしました。新たに仲間として、加えて欲しいと思いまして。」
「白沢が?珍しい事もあるな。」
白沢が前に出て、膝を付く。
「アンタに付けば、三蔵を殺せるんだよな。」
「ちょっ、鈴玉っ!?」
「お前は三蔵を殺したいのか?」
牛鬼は牛頭馬頭に顔を近付け、言葉を続ける。
「牛頭馬頭と言ったか。吉祥天の玩具が、三蔵を殺したい理由は何だ?」
牛頭馬頭に牛鬼の重圧が重く掛かる。
普通に話し掛けているだけだが、牛鬼から大きなプレッシャーを掛けられている。
それは、この部屋にいる妖達が感じていた。
牛頭馬頭は今、牛鬼に試されている。
どれ程の覚悟を持ち、この場にいるのかと。
牛頭馬頭の額に汗が流れ落ち、重い沈黙を破る。
「僕は、僕の生活を壊した全ての元凶を打ち壊す。それが誰であろうと、取り戻す為に殺す。それだけだ。」
「なら、宝像国の国王の首を持って来い。そしたら、お前を側に置いてやる。」
「なっ!?」
牛鬼の言葉を聞いた鱗青は、驚きのあまり声を出し
てしまう。
「何を驚いてる。当然だろ?邪魔な奴を殺したいんだろ?だったら、宝像国の国王が憎き三蔵をここに呼んだ。なら、潰すしかねーだろ。」
牛鬼は淡々と話をする。
「どうした?お前の決意はそんなものか?」
「持ってこれは良いんだろ。」
スッと牛頭馬頭は立ち上がり、叫んだ。
「国王の首でも、何でも持って来てやるよ。僕の事をなめんなよ。」
「鱗青と言ったな、お前。」
「は、はい。」
「お前はガキに付いて行くな。」
「そ、それは…。どうしてですか?ゔっ!?」
ドカッ!!
困惑する鱗青の腹を牛鬼が蹴り飛ばす。
「ゴホッ、ゴホッ!!」
「雑魚は黙ってな。おい、コイツを縛り上げろ。」
「「かしこまりました。」」
「や、やめろっ!!」
妖怪達は手際良く鱗青を縛り上げる。
「お前が逃げたらコイツを殺す。コイツは担保だ。おい、マセガキ。お前は誰に物言ってんのか、分か
ってるよな。」
ガチャッ!!
「っ!?」
牛頭馬頭の体に影で作られたた鎖達が巻き付いていた。
「ここは、俺のテリトリーだ。俺側にいたいなら、それなりの誠意を見せろ。おい、白沢。コイツの監視役に命ずる。しっかり、見張れや。」
「かしこまりました。」
「お前の体に鎖を入れる。」
パチンッ。
牛鬼が指を鳴らすと、影の鎖が牛頭馬頭の体に捩り
込む。
牛頭馬頭の肌の上に、影の鎖が浮き出ている。
「宜しく頼むぜ、犬っころ。」
苦虫を噛み締めるような表情を浮かべた牛頭馬頭に向かって、牛鬼はニヤリと笑う。
その隣にいる百花は、黙って視線を下ろした。
同時刻 牛魔王の記憶の世界ー
寺から飛び出した宇轩は、いつものように森に訪れていた。
黒い靄になった牛鬼に話をしていた。
「そんなに嫌いなのか。」
「嫌いさ、母さんをあんな姿にしたんだから。」
「殺せば良いだろ。」
「…え?」
突然の言葉に、宇轩は放心状態になる。
「殺せばって、そ、そんな事…。」
「お前の文句は聞き飽きた。それに、血だけでは足りないと思っていた所だ。」
「ど、どう言う事…?僕の事、友達だって言ったのに…。」
「あははは!!」
牛鬼は笑いながら、宇轩の周りをうろうろする。
「友達?その言葉を信じたのか?」
「え…?」
「嘘に決まっているだろ?全ては、お前の体を乗っ取る為の嘘だ。」
「の、乗っ取るって…っ。ゔっ!?」
グサッ!!
宇轩の腹から、剣のような刃物が光った。
「ガハッ!!ど、どうして?どうして、こんな事…をっ。」
「俺は、ずっとこの時を待っていた。遥か昔、人間が生まれる前、美猿王に殺された日から…ら、ずっと、器を探していた。」
「う、つわ…?」
「少し、昔話をしよう。今まで、色んな人間を器としてみたが、すぐに器が死んでしまってな。どうやら、俺の妖力に器の方が耐えれなかったらしい。そこで、お前を見つけ、血を飲んでみたら…。俺の妖力が増したのだ。」
牛鬼は更に、言葉を続ける。
「俺の妖力を増す人間を、ようやく見つけたのだ。お前なら、俺の妖力に耐えれるだろうと。そして、俺はお前の信頼を得る事にした。まんまと心を開いてくれて、助かったよ。」
「利用…する、為だったの?」
「無能なお前に価値をやったんだ。有り難く思え。」
「いや…だ。死にたく…な、い。まだ、死にた…っ。ぐっ、ぐああ!!」
グリグリと腹の中で動く剣は、容赦なく宇轩に痛みを与える。
燃えるような暑さと痛みに、宇轩は気を失った。
「さてと、頂くとしよう。」
牛鬼はそう言って、宇轩の体の中に入って行く。
宇轩の体は、牛鬼の妖力に耐え、完璧に体を乗っ取れてしまった。
「さて、お前の母親を解き放ちに行こうか。」
乗り移った牛鬼は、寺に向かって歩き出した。
孫悟空ー
突然、言われた言葉の意味を考えた。
二度目の死を迎える?
俺が?
「俺が死ぬのか?不老不死の俺がか?ハッ、何言ってんだよ。」
「何故、君は今まで死ななかったと思う?」
「は?」
「それはね。」
トンッ。
糸目の男はそう言って、俺の心臓の部分を指で軽く押す。
「心臓が生きていたからだよ。」
俺はその言葉を聞いて、理解出来た。
今まで、何度も何度も死に掛けた事があった。
だが、心臓を潰されていなかった。
もしかして、不老不死だとしても、心臓を潰されたら死ぬって事…か?
「君は1度目の死を迎え、不老不死の術を得た。だが、術を得れたのも、心臓が生きていたからだ。心臓が死ねば、全ての機能が停止してしまう。そうなれば、君は死ぬ。生まれ変わる事なく、永遠の死を迎える。」
「だから、今まで死ななかったのか。」
「君は祖師に守られているようだからね。」
「どう言う意味だ。アンタは、どこまで知ってんだ。」
「君の未来、君達の未来がどうなるか知ってるよ。」
「なっ、はぁ!?」
何を言ってんだ、コイツは…。
俺達の未来が分かるだと?
「さてと、お話はここまでのようだな。」
糸目の男は立ち上がり、森の方に歩いて行った。
「ちょっと、待て。まだ、聞たい事が…っ。」
「ギャァァァァァ!!!」
「っ!?」
寺中から叫び声が響き渡る。
それと同時に、強い妖気と甘い香りが漂う。
この匂いは…、地下にいた化け物と同じ…。
「た、助けて下さいっ!!大変なんです!!」
俺の元に走って来た子供達が、慌てた様子で話し出す。
「ば、化け物が、急に出てっ。」
「ぼ、僕達を食べようとっ、して。」
「お師匠達がと、止めに行ったんですがっ。」
「ギュアヤアユァアヤアヤァアヤイ!!!!」
化け物のうるさい叫び声が、地響きを鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
割れた地面の間から、キラリと何かが光った。
嫌な予感がした。
「おい、お前等!!ここから離れろ!!」
その瞬間、割れた地面の間から髪の毛で出来た刃が突き抜けた。
ズシャッ!!!
子供達の体を突き抜け、串刺しにした。
「痛い、痛い痛い!!!」
「や、だ…。死にたくな…っ。」
「助け…っ。」
どうやって、あの地下牢から抜け出したんだ?
頑丈な牢屋に、大量の封印札。
今まで、大人しくしていたのに…。
「誰かが、封印を解いたのか?」
「悟空、来るぞ。」
ビュンッ!!
雷龍の言葉の後に、黒い何かが飛んで来た。
俺は如意棒を手に取り、飛んで来た物を弾き飛ばす。
カランカランッ。
地面に落ちたのは、血の付いた短剣だった。
ゾワゾワッ!!
肌に悪寒が走る。
この嫌な気配は、俺の最も嫌っている人物と同じ物だった。
間違える筈がねぇ。
「お前だったか、牛鬼。」
「久しいなぁ、美猿王。いや、今は悟空だったか。」
牛鬼にベッタリと抱き付く、宇轩の母親の姿が視界に入る。
「どうやって、牢屋から出した。」
「簡単な事だ。壊した、ただそれだけた。この女は、利用価値がある。」
「あ、が、が、が、ががが。」
「悟空!!!」
俺の名前を呼ぶ爺さんが現れた。
「宇轩なのか…。どうして、こんな事を…っ!!」
「おお、須菩提祖師。直接見るのは、初めてだな。」
「っ!?お前は…、宇轩じゃないのか…。」
「俺はお前の息子の体を乗っ取り、自由を得た。あ
ぁ、最高だ。こうして動けて、殺し回れているからなぁ!?あははは!!!」
牛鬼は大きな声で笑う。
やっぱり、牛鬼は宇轩の体を乗っ取った。
牛魔王と言う存在を、牛鬼が作り上げたのか。
「なぁ、母さん。俺の事、愛してる?」
突然、牛鬼は宇轩の母親に向かって、問い掛けた。
「何を聞いてるんだ?コイツは…。」
「ま、まずい…っ。やめろ!!!」
カチャッ!!
爺さんは慌てて、持っていた霊魂銃を構え引き金を引いた。
パンパンパンッ!!
「愛してる、愛してるぅぅぅう!!!」
「俺の事、守ってくれる?」
「守るぅぅぅう!!」
パシパシパシ!!
宇轩の母親は、放たれた銃弾を髪の毛を巻き付け、動きを止めた。
パリーンッ!!
何かが割れた音がした。
宇轩の母親に巻き付かれていた鎖が砕け、光り輝く鎖が巻き付かれた。
首元には首輪のようなの物が付いていて、牛鬼は首輪から出ている鎖を持っていた。
「何て事をしたんだ!!」
「おい、どう言う事だ。何で、宇轩の母親がアイツの命令を聞くんだよ。」
「彼奴がしたのは、誓約(セイヤク)だ。」
「誓約?」
*誓約 ① 誓って約束すること。 また、その約束。 盟約。 ② 仏菩薩または神が、衆生を救済しようとする、その誓い。*
「言葉の通りだよ。彼奴は、妻に愛してるかと聞き、妻は愛してると答えた。そして、彼奴は自分を守れと言った。つまり、愛してると誓いを立てた妻は…。息子を守る為だけの…、存在になってしまった。」
爺さんはそう言って、頭を押さえた。
牛鬼がやっていた事は、誓約の儀式だったのか。
これが目的で、宇轩の母親を牢屋から出したんだ
な。
「さぁ、死んで貰おうか。須菩提祖師、そして、悟空よ。」
「寝言は寝て言えや、糞野郎。」
俺は言葉を吐き捨てながら、如意棒を構えた。