夜のアムステルダムは昼より静かで、ずっと怖い。
家のドアが閉まる音に私の胸はひゅっとする。もう戻れないかもしれない。
あの日、家族全員で食べたケーキ、パパがくれた赤いリボン、そして笑いながら楽しい日々を
過ごしていた日々。もう戻れない。いや、戻れない。
鞄は重くない。替えの服が1枚、パンとそして日記帳。
日記は必要な時にしか書かない。最初は持っていかないことにしたけど、持っていないと
私の存在が消えるって思ったから持っいく。
道を踏む音が響かないように、そっと歩いていた。
街灯の下、誰かがたっていたら終わりだって思ってた。でも今夜は運が良かった。
誰にも声をかけられなかった。
クララの家まであと三つ角。
彼女の家の地下には、かつて防空壕として使われていた小さな部屋がある。
1度遊びに行った時に入ったことがあるけれど、あんな暗い場所が今じゃ唯一の希望になるなんて、
誰か思ったのだろう。
角を曲がると、犬が吠えた。心臓が一気に跳ね上がる。
でもそれはただの犬だった。ナチスの腕章も、ドイツ語の命令も何も無かった。
私は走った。重くない鞄を、しっかり両手で抱えて。
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