テラーノベル
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「で、……なんで急に俺ん家来たんだよ」
「…宏斗が他の人好きになったかと思って」
「なっ!なんでだよ!」
時計は20時を指しているのに、恋人の律は顔を真っ赤にして俺に会いに来た。好きな人が会いに来てくれるなんて、嬉しい気持ち以外なにもないはずなのに、彼の表情から、そんな甘い感情を持つことなんてできなかった。
……まーた、見たこともない顔しやがって。そんな顔させるつもりじゃなかったのに。
「ごめん」
「……」
「律?」
「嫌だ」
スッと遮るように、律のすらりと長い指先が、俺の首筋をなぞるように触れた。
「っ……!」
ゾクゾクと、肌から直接脳の神経を叩かれるような快感に、思わず背筋が跳ね上がる。一気に呼吸が浅くなり、部屋の酸素が足りなくなるような錯覚に陥った。
待て。……落ち着け俺。
これは律のいつもの“癖”だ。あいつが俺にかまってほしい時か、独占欲が溢れ出ている時……おそらく今回は、後者のはず…
____いや、違う。……待て、この触り方、いつもと違う……っ!
いつもなら、どこか甘えるような、あるいは俺の反応を試すような微かな躊躇いがある。なのに今の指先は、まるで“自分の所有物”を確かめるように、冷たい体温のまま、恐ろしいほど深く、容赦なく俺の肌に沈み込んできていた。
「ちょ……まっ…っ………ひっ」
律の冷たい手がゆっくりと服なのかに滑り込み、情けない声が静かな部屋に響いた。
向けられた瞳の奥に、いつもなら背景に咲いているはずの綺麗な薔薇の影なんてどこにもない。そこに揺らめいていたのは、少女漫画のヒーローという枠を完全に踏み外した、独占欲が剥き出しの熱だった。
「りっ……」
「宏斗」
甘く熱い声が、脳の奥にまで響く。
「先に誘ったのはそっちだよ」
「っ…ち、ちがっ!」
「分かってて家に入れたでしょ」
あぁ、そうだ。最初はなにも考えずに言ってしまったけれど、後から気づいてほんの少し“期待”していた自分がいた。こんな状況と、図星をつかれてしまったことが羞恥心を搔き立てた。
「……っ、そんなん、じゃ……」
言い訳をしようとする俺の唇を塞ぐように、律が深く唇を重ねる。
ダボダボの服の隙間から入り込む律の手は、いつの間にか冷たさなんて消え失せて、俺の肌をじりじりと焼き尽くすような熱を帯び始めていた。
「りつ……俺、経験なくて…」
何言ってんだ……、頭では分かっているのに、自然と声が溢れる。そんな俺を見て、律は満足げに口角を上げた。
「逆に経験あるって言われたら、俺、おかしくなっちゃう」
「……っ!」
「かわいい……大丈夫だよ。全部、俺に委ねて」
熱の籠った律の銀色の瞳に閉じ込められて、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなる。次の瞬間、ふわりと身体が浮いた。律の長い腕が、俺の身体を優しく包み込むようにして容易く抱き上げたのだ。
「うわ……っ!?」
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抵抗する間もなく、すぐ傍にあるベッドへと優しく下ろされる。
スプリングが静かに沈み込む音と同時に、律が俺の上に覆いかぶさってきた。捕まえた獲物をじっくりと眺めるように、逃げ道をすべて塞ぐ体勢で。
見上げれば、白銀の髪がハラリと俺の頬に落ちてくる。
天井の明かりを背負った律の顔は、世界中のどんな絵画よりも美しく、見たこともない程、呼吸を荒げていた。
「待って、こ、心の準備が……」
「大丈夫」
「大丈夫じゃなっ……!」
言い終えるよりも早く、俺の視界はあいつの顔で埋め尽くされた。
抗議の声を強引に塞ぐように、容赦なく唇を押し付けられる。
「――ん……ぅ、っ」
さっきまでの優しさなんてどこかに吹き飛んだような、深く、貪るような口づけ。抵抗しようとした両手は、律の大きな手のひらによってベッドのシーツへと縫い留められるようにガッチリと固定されてしまった。指を絡められ、骨が軋むほどの力で握りつぶされそうになる。
ようやく唇が離れた時、俺の口元からは、自分でも信じられないほど熱を帯びた、締まりのない吐息が漏れていた。
涙目で律を睨みつけようとした俺の耳元に、律がそっと唇を寄せる。
「今、やめる方が無理」
鼓膜に響いたその声は、掠れていて、低くて、酷く甘かった。
あぁ、もうだめだ。
少女漫画の世界観がどうとか、自分が異世界の人間だどうとか、そんなものはこの部屋の熱気の中に全部溶けて消えた。
俺はただ、上から俺を熱く見下ろす恋人の瞳に囚われたまま、深い夜の底へとどこまでも沈んでいくしかなかった。
「宏斗、脱いで」
「えっ…」
初めての状況に困惑しなている俺を、律は愛おしそうに微笑む。首筋にキスをした後、ゆっくりとスウェットを脱がしていく。
「っ……ぁ、ん……」
吸い上げるような強い愛撫に、思わず身体がビクッと跳ね上がる。
そのまま、律の長い指先が俺のダボダボのスウェットの裾を捉え、ゆっくりと、だけど確実に上へと脱がせていった。
冬の冷たい空気に一瞬だけ肌が晒されたと思ったのも束の間、すぐにそれを覆い隠すように、律の大きな手のひらが、俺の剥き出しの脇腹へと滑り込んでくる。
「……っ!?」
「力抜いて」
「は……ぅ…むりっ……っ」
律の手のひらは、いつの間にか俺の体温を奪って恐ろしいほど熱を持っていた。
その手が、俺の胸元からお腹へと、じりじりと肌を這うように愛撫していく。指先が触れるたびに、まるで電流が走ったみたいに内側から熱が跳ね上がり、背筋がぞくぞくと震えた。
「ん……っ、ふ、ぁ……あ」
男としてのプライドなんて、もう一ミリも残っていなかった。
律の指先が少し強く肌を擦るだけで、自分でも信じられないくらい高くて甘い、情けない声が部屋の静寂に響いてしまう。
それが恥ずかしくてたまらないのに、律は俺のそんな声を一音も聞き漏らさないように、さらに深く、じっくりと俺の肌を責め立てていく。
「宏斗、俺を見て」
「……っ、無理……」
「見て。隠さないで」
優しく、けれど有無を言わせない強さで、律が俺の顎を指先で上向かせた。
視線が絡み合う。あいつの銀色の瞳は、俺の情けない鳴き声と、熱に浮かされて潤んだ瞳を、独占欲で満たしながらじっと見つめていた。
「はぁ……かわいすぎ、俺だけの宏斗…」
律はそう低く呟くと、今度は俺の胸元、鎖骨、そしてさっき赤く跡をつけたばかりの首筋へと、何度も何度も貪るように唇を押し当てていく。
あいつのシトラスの香りと、肌を合わせる生々しい肉の熱さが混ざり合って、俺の頭はもう、完全に真っ白に染まり始めていた。
「……っえ、なにっ」
突然、視界が真っ暗になった。
目元が律の大きな手のひらに覆われ、あいつの熱い体温に包まれる。
「大丈夫だから」
「え、なにが…………っ!?」
ビクッッと大きく体が跳ねて、無意識に体が反る。
視界を奪われたせいで、肌に触れる律の指先や、押し当てられる唇の輪郭が、恐ろしいほどの鮮明さで脳の神経にダイレクトに伝わってきた。
どこを触られているのか分からない恐怖と、それ以上の爆発的な快感が、容赦なく俺の理性を叩き潰していく。
「あ……っ、や、律、それ、だめ……っ、!!」
「力抜いて、宏斗。俺の声だけ聞いて、俺だけを感じて……」
目元を覆う手の隙間から、涙がボタボタとシーツにこぼれ落ちる。
律の狙い通り、俺はもうあいつの甘い声と、与えられる生々しい熱に溺れるしかなくなっていた。
「――ッ!!!」
声にならなかった。
ひゅう、と喉の奥が鳴るような短い呼吸。背筋が強烈に感電したように跳ね上がり、シーツを掴んでいた指先が、ちぎれそうなほど強く白布を握りしめる。
喉の奥から「あ……、ぅ……」と、かすれた吐息だけが漏れ出し、俺はただ、絞り出された生々しい熱の余韻に、ぐったりと身体を沈めることしかできなかった。
「宏斗……っ、すごい、可愛い……」
目元から律の手がようやく離れた時、視界が涙でぐちゃぐちゃに潤んで、頭が使い物にならないほどぼーっとしていた。生まれて初めて味わう圧倒的な快感の余韻で、指先一つ、視線一つ動かす体力すら残っていなかった。
上を見上げれば、律がさらに熱を孕んだ瞳で、自身の服のボタンに手をかけている。
「宏斗、俺も、もう無理」
「ぇ……ぅ、うん……」
もう覚悟は決まっていた。この美貌の王子様に全部をあげるつもりだった。
だったのだが――。
「……あれ」
律の動きが、ピタッと止まる。
「……どうした、律……?」
「宏斗……アレ、どこ?」
「あれって……?」
「……ゴム」
「……あ」
熱に浮かされていた俺の脳みそが、その単語を聞いた瞬間、急速に氷点下まで冷え切っていった。
「……俺、童貞の男一人暮らしだぞ」
「……っ」
律の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
「待って……っ、探せばどっかに、」
「ない。絶対ない。する相手いねーし」
「俺がいるじゃん………………」
「今日するなんて誰が思うかよ!!」
美しい顔をした男が、見たこともない絶望の表情で頭を抱えている。
結局、限界を迎えまくっていた律は、ガックリと肩を落として「……ちょっと、トイレ借りる……」とゾンビのような足取りで部屋を出て行った。
――15分後。
スッキリしたような、全然スッキリしていないような、この世の終わりみたいな顔をして律がベッドに戻ってきた。
俺はといえば、さっき律に盛大にイカされたせいで、ぐったりとベットに倒れこんでいた。
「……宏斗のバカ」
ベッドに潜り込んできた律は、俺に背を向けて、信じられないくらい小さくなって拗ねていた。
「…そもそも、なんでずっと俺のこと避けてたの」
「それは…いろいろ」
「浮気者」
「だから!ちが………っ」
「別に浮気しても、別れるつもりないし…その時、痛い目見るの宏斗だからね」
白銀の髪をふり乱して、シーツに顔を埋めてブツブツと文句を言っている。
さっきまで俺の目を覆って、肉食獣みたいな声で囁いてきたスパダリはどこへ行ったのか。今の律は、完全にただの『おあずけをくらった大型犬』だった。
……はぁ。なんなんだよ、こいつ
呆れ果てると同時に、背中からでも伝ってくる「拗ねてます」のオーラが可笑しくて、愛おしくて、たまらなくなる。
俺は残った最後の力を振り絞って、律の背中にそっと手を回し、その広い背中に、ぽすっと額を預けた。
「ちょっと、プレゼント用意してただけだから」
「………えっ…」
「バカ!こっち向くな!」
律の顔を、強引に掴み自分の真っ赤な顔を隠した。
「だから部長にもちょっと協力してもらったっつーか」
「………」
「だから、もうちょい待ってて……」
あんなに夜な夜なこそこそ五線譜に向き合って、昼休みには命がけで死守した秘密。クリスマス当日に完璧な形で届けるはずだったのに、こいつがあまりにも捨てられた犬みたいな顔をして拗ねるから……。
だけど、俺に包まれた律の顔を恐る恐る見つめれば、あいつの銀色の瞳は、まるで世界中の宝石を詰め込んだみたいに、キラキラと眩いほどの歓喜の光を宿して潤んでいた。
「……宏斗」
「なんだよ……」
「……ごめん、また、勃ちゃった」
「…………」
“次”の夜は………きっとクリスマスかもしれない。
コメント
1件
ぎゃああああ!!めっちゃ良かった…!!😭💕💕 もうね、律くんの独占欲剥き出しな感じが最高すぎた…!!「今、やめる方が無理」のセリフで胸がギュッてなったし、宏斗くんの「経験なくて…」って弱音も可愛すぎて頭抱えた💦笑 でも最後の「ゴムない問題」でスパダリが一気に拗ね大型犬になるところ、ギャップ萌えがやばかったです…!💖二人の関係性がすごく丁寧に描かれてて、「次はクリスマス」の伏線、めちゃくちゃ楽しみにしてます…!! 立秋先生、エモい密度が高すぎてお腹痛いです…次回も待ってます🌸